【特集】沖縄PFAS問題とは何か

琉球/沖縄における有機フッ素化合物(PFAS)汚染

祖慶真行

5.汚染水による農業、文化、身体・精神へのダメージ

21年8月末に在沖米軍は普天間基地から故意に大量のPFAS汚染水を下水に放流した。普天間基地周辺の小学校では、運動場の土壌汚染が懸念されており、子どもたちの健康調査の早期実施が望まれている。これまで国の暫定指針値を超える水道水を供給されてきた複数の自治体の住民から各首長や関係局長に対して、早急に血液検査を含む健康調査を実施するよう要請書が提出されている。

 

 

これまで沖縄県内の水道水や湧水のPFAS汚染を長年調査してきた京都大学の小泉昭夫名誉教授は「①妊婦や胎児、子どもへの影響を考えると、PFOSとPFOA合わせた指針値は(50ngではなく)10 ng以下が望ましい。②(住民の)健康への影響を知るためには、水の(PFAS)濃度よりも血液中の(PFAS)濃度を調べる事が肝要」とマスコミ取材に対して述べており、住民の自治体への要望が正当であることを示している。

5.1.伝統的農業への影響

米軍普天間基地がある宜野湾市では、土壌汚染を心配して農作物を買わない消費者が出ていることから、農業をやめたいと考える農家が多くなっている。ある田芋農家は、「畑の土壌にPFASが蓄積されることを知り、農業をやめることも考えた」と切実に話している。

5.2.文化へのダメージ

宜野湾市には60箇所の湧き水があり、地域文化を育んできた。例えば、赤ん坊が生まれた際、産湯に使うためウブガーと呼ばれている井戸の水で赤ん坊の体を清めるなど、様々な行事で湧水や川が密接に関わってきた。地元住民は、先祖代々大切にしてきた水が汚染されて、「環境も人権もすべて破壊されている」と憤っている。

嘉手納町でも、嘉手納基地から流出したPFASによってウブガーが高濃度で汚染されている。他方、水は庶民の行事だけでなく、伝統的な琉球王府の行事としても、元旦の若水の儀式などに使われるなど神聖な役割を持っていた。このような文化が、軍事基地に起因する水の汚染によって壊されることが決してあってはならない。

6.辺野古新基地建設と水の安定供給へのリスク

飲み水として利用できる水は無限ではない。水道水汚染の事例は、今後他の市町村でも起こりえる問題だ。汚染被害を受けた多くの市町村が沖縄県に対して不足分の給水を要請した場合、沖縄県は対応可能だろうか。

17年に沖縄本島北部の東村高江で米軍大型ヘリコプターが不時着炎上した際、当時の福地ダム事務所長は、「事故現場がダムの流域界(取水境界)寄りであったなら、関係する浄水場への送水停止を検討せざるをえなかった。不足分を沖縄県管理のダムや河川などから補う事は相当むずかしい」とも述べた。

このような中、辺野古新基地が完成すると、沖縄防衛局職員が配備の可能性を認めたF35B戦闘機の訓練を含め、ダム近くの5つのヘリパッド等での訓練回数は格段に増し、墜落等の事故発生のリスクも高くなることは容易に想像できる。加えて、国管理の福地ダムの北東側は米軍との共同使用区域になっており、また、同ダムと連結している新川ダムや安波ダム、普久川ダムの取水境界内にも広大な米軍の訓練場が広がっている。

これまで返還された世界遺産登録地域でさえ米軍が不法投棄した銃弾等が多数発見されている。海外における米軍の環境汚染からもわかるように、この状況は水源汚染の大きなリスク以外の何物でもない。

21年9月現在、県都那覇市の水道水の98%は福地ダムからの給水である。今後、前述したダムの取水境界内で同様な事故が発生し、制限給水がかけられた場合、観光立県を自称する沖縄県への影響は非常に大きく、市民生活もパニックとなるのは明らかである。

今年は沖縄が復帰して50年の節目の年。また、SDGs の6番目の目標である水の安全に照らしても、ダムの汚染リスクは決して看過できない。それは、琉球/沖縄で暮らす人々にとってまさに死活問題であり,民族存亡の危機と言っても過言ではない。

日本に復帰後、復帰措置に関する建議書を取り下げた沖縄県知事はこれまで一人もおらず、建議書はまさに生きている。政府は建議書に記載されている基本的事項の達成に向け、県民にもっと真摯に向き合うべきである。

 

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祖慶真行 祖慶真行

「那覇市民の命を守る会」共同代表

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