【連載】横田一の直撃取材レポート

旧統一教会問題が選挙に与えた衝撃、沖縄県知事選で白旗を上げた自公政権

横田一

・「やってる感」演出に止まる岸田政権

岸田政権(首相)の本気度不足も、沖縄県知事選の敗北や支持率下落の底なし沼状態から抜け出せない要因といえる。「今後は旧統一教会との関係を断つ」と岸田首相が宣言しても、国民の半分以上が関係断絶は困難という否定的な見方だ。「やってる感」演出のパフォーマンスと見透かされている。

岸田文雄首相

 

2015年の名称変更問題について「下村博文元文科大臣の意向が働いていることは間違いない」と断言した前川喜平元文科事務次官は、自民党と統一教会は「貸し借り関係(ギブ・アンド・テイク)にある」と指摘した。選挙での献身的支援(信者の無償労働提供)の見返りに自民党は、高額献金野放しなどの便宜供与を旧統一教会にしてきたというわけだ。

しかし自民党の調査(自主申告に基づく点検)には、統一教会票を“差配”していることが明らかになった安倍晋三元首相と統一教会との関係が抜け落ちていた。9月8日の閉会中審査で立憲民主党の泉健太代表らが調査対象にすべきと求めても「お亡くなりになった今、確認するには限界がある」と拒否した。

職務怠慢とはこのことだ。本人が亡くなっても秘書らに聞けば、統一教会関係者との面談日程などの確認は可能だ。統一教会票を受けて当選したばかりの井上義行参院議員や、6年前と違って「今回は井上で行く」と言われて出馬を断念した宮島喜文前参院議員、その経緯を地元テレビ局・HBC北海道放送に語った伊達忠一元参院議長に聞き取りをすることも可能だ。

疑惑の中心人物を聖域扱いにしながら「統一教会との関係を断つ」と岸田首相が言っても、リップサービスにすぎないと見なされるのは当然のことだった。

しかも、統一教会への便宜供与(高額献金野放し状態)が根絶される保証も全くない。岸田首相の肝いりで「『旧統一教会』問題関係省庁連絡会議」(代表・葉梨康弘法務大臣)が8月に発足、9月初旬から約1カ月の相談集中強化期間が始まったが、フランスの反セクト(カルト)法のような新たな立法措置には関わらないと事務方は公言(「紙の爆弾」10月号参照)。岸田首相も「今の法令で何ができるか最大限追求したうえで議論を進めるべきだ」(9月8日の閉会中審査)と消極的なのだ。

開会中審査で質問をした泉代表が、会見で「『まずは現行法で』というのは『具体的に動くつもりはない』と感じた」と突き離したのはこのためだった。

「首相になってほしい人1位」(9月18日の毎日新聞世論調査)と報じられた河野太郎大臣も、同じ穴のムジナにしか見えない。紀藤正樹弁護士らをメンバーにした「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」を立ち上げたものの、新規立法への意気込みが伝わってこない。初回会合から法改正や新規立法を求める声が出たのに、岸田首相に方針変更を求めて直訴するという「突破力」を発揮しているとは言い難いのだ。

メディア露出度の高い河野大臣は9月13日、TBS系「ニュース23」に生出演したが、統一教会問題に長年取り組んできた有田芳生前参院議員はツイッターで次のように批判した。「河野太郎大臣は、『信仰2世』の苦悩についてまったく理解できず、何も答えませんでした。予想通りですがひどいものです。番組もどうして真剣に質問しないんでしょうか」。

番組の中で信仰2世の女性は「恋愛は地獄に落ちると言われた」と振り返ったうえで、「具体的な法整備をして規制してくれないと、これからも被害者が増え続けてしまう」「国としてちゃんと、しっかりとした法律や規制は作ってほしい」と訴えていた。

この発言を受けてコメンテーターの星浩氏が「新規立法の可能性はあるのか。今までの枠組みでは対応しにくい面が出て来ていると思うが」と質問したが、河野大臣は「いま検討会できちんと議論をしてもらっているので、その結果で必要な対応を取ることになろうかと思う」と答えるに止まり、質疑応答は終わってしまったのだ。

9月9日の河野大臣会見の“再現ビデオ”を見せられた思いがした。このときも新規立法への意気込みも、現在の態勢の不備を正そうという姿勢も感じとれなかったのだ。

・何も答えない河野太郎大臣

現状のままでは“ガス抜きパフォーマンス検討会”で終わりかねない問題点を指摘したのが、「悪質宗教対策、骨抜きの懸念 『法人規制は守備範囲外』消費者庁」と銘打った9月8日付の毎日新聞の記事。

河野大臣は検討会で「必要とあれば消費者庁の担当を超え、政府全体に提言をしてほしい」と挨拶をしていたが、新井ゆたか消費者庁長官は「(検討会は)立法を念頭に置いているものではない」と定例会見で述べ、前述した消費者庁も参加する関係省庁連絡会議も新規立法を否定。誰がカルト規制の新規立法の担い手になるのかが不明で、具体化の道筋が見通せない状況になっていたのだ。

そこで私は、河野大臣に対し、この記事の内容を伝えたうえで、「河野大臣と新井長官は同じ考えなのか。消費者庁のメンバーが(関係省庁)連絡会議と一緒に新規立法を手掛けるのか」と聞いたが、返ってきた答えは、「現時点では何をやる何をやらないというものは一切ない。しっかり議論をしていただき、消費者庁で対応できるものは消費者庁で対応し、消費者庁の所管を超えているものは政府に提言という形で要請をしていくことになる」。

しかし岸田首相は現行法令を最大限活用すべきとの立場で、新規立法担当の特命チームが発足しているわけでもない。検討会の提言を具体化する組織(担当者)が存在していないことから「連絡会議に『新規立法についても検討すべきではないか』と提言はしていないのか」と再質問をしても、河野大臣は「しっかりと議論をしてもらい、それに基づいて消費者庁も報告していく」としか答えない。

河野大臣の煮え切らない回答に苛立ちながら「『新規立法、法改正が必要』という結論が(検討会で)出た場合には大臣ポストをかけて具体化するのか」と河野大臣の覚悟を聞いたが、それでも「結論をしっかり見ていきたいと思う」と同じ答えの繰り返しだった。

紀藤弁護士の特命大臣設置の提案に絡めて、「河野大臣が自ら名乗り出て、『新規立法をやらせて下さい』と(岸田首相に)言う考えはないのか」とも聞いたが、「議論を見ていきたいと思う」とひたすら待ちの姿勢に終始したのだ。

9月15日の第3回の検討会でも新規立法を求める声が出た。これを受けて翌16日の河野大臣会見でも同主旨の質問をした。現行法制最大限活用の岸田首相と新規立法を求める検討会メンバーとの違いを指摘したうえで、「河野大臣はどちらの考えに近いのか」と聞くも「検討会、最後までしっかりやっていただきたいと思う」と代わり映えのない回答。

続いて「検討会で『新規立法が必要』という結論が出た場合、岸田総理に意見を言って法改正につなげるのか」と再質問をしたが、河野大臣は「私がいま何か申し上げるのは避けている。あなたが何を考えているのかはあなたの自由だが、検討会の方向性とは何の関係もない」と答えるだけ。さらに「政府として(新たな)法律を出す場合、臨時国会に間に合うのか」とタイムスケジュールについても問うたが、「それは検討の今後の次第だ」としか答えなかった。

別の記者から岸田首相と9月14日・15日に会っていることを聞かれても、「(面会内容について)答えない」とノーコメントを貫いたのだ。

それでいて、メディア露出にだけは長けた河野大臣には、“客寄せパンダ大臣”との呼び名がぴったりではないか。岸田首相に方針変更を迫ることも、自ら特命大臣を名乗り出ることもしようとしない。信仰2世の訴えを受止めて、高額献金を根絶する新規立法への本気度がまるで伝わってこないのだ。

・野党の新規立法に自公はどう対応するのか

これに対して立民や維新などの野党は新規立法について検討を進めており、臨時国会に提出しようとしている。カルト規制に消極的な与党と積極的な野党が激突する対決型の国会審議となるのは確実だ。

参院選後に復活した「野党合同ヒアリング」(現・国対ヒアリング)も毎週のように開催され、統一教会問題と国葬問題を交互に採り上げている。

9月16日のヒアリングでは、名称変更問題に続く下村博文・元文科大臣の疑惑について追及した。週刊文春9月22日号が「下村元政調会長 統一教会系陳情を『党公約に入れろ』動画入手」と紹介したものだが、旧統一教会の要請を受ける形で文科大臣だった下村氏が議員立法を促す国会答弁をしていたことも明らかになった。

立民の柚木道義衆院議員は、記事の内容を裏付けるような2015年4月15日の文科委員会での国会答弁に注目していた。

「下村元大臣、元政調会長が『家庭教育支援法をマニュフェストに入れろ』と言った。立法府の大臣が『(統一教会が陳情した)家庭教育支援法案の議員立法を考えていただけ、大変ありがたい』という答弁は異例だ」「今日のヒアリングでも『文科省の中でもそういう議論はしていた』ということは認められた。下村元大臣は政府側でも与党側でも働きかけをしていたのではないかという疑念が深まったと思う」。

始まったばかりの臨時国会では、カルト規制法案をめぐる審議に加え、自民党と統一教会の関係についても論戦が繰り広げられるだろう。岸田政権が「やってる感」演出のパフォーマンスで済ませるのか、それとも河野大臣が“客寄せパンダ大臣”の汚名を返上、新規立法の牽引車役になるのか。

Parliament and the cloudy sky. Shooting Location: Tokyo metropolitan area

 

凪状態だった通常国会から打って変わり、“岸田退陣”もちらつく臨時国会は見どころ満載となりそうだ。永田町から目が離せない。

(月刊「紙の爆弾」2022年11月号より)

 

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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