【特集】沖縄PFAS問題とは何か

「沖縄問題?」としてのPFAS

与那覇恵子

人口が密集する町中で戦争準備訓練が強行される沖縄だが、全国テレビ放送は相変わらず、芸能、お笑い、食レポ、スポーツの「明るいニュース」だけを流し続ける。残念ながら、これが復帰50周年を記念する沖縄と日本の姿である。

これまで同様、頭越しに日米政府(日米合同委員会)に全てを決定され、再び戦場となる危機が目前に迫る状況では、個々の「沖縄問題」を討議するのも無意味と思われるが、本紙のPFAS問題特集に沿って、沖縄問題の一つとして、その汚染問題について述べたい。

汚染問題で巨大企業デュポン社を相手取って闘い勝利した弁護士を描いた映画「ダーク・ウォーターズ」(2019)は、PFASの認知度を高めた。10数年にわたる多くの困難を乗り越え、裁判で勝利する正義感あふれる弁護士の実話は私達に勇気を与えてくれる。

しかし、その勇気も、私達の相手は経済界の巨大権力ではなく政治界の巨大権力であることに思い当たると、状況は異なるのだと萎えてしまうのである。しかも、対峙するその巨大権力は日本政府と米軍(米国)の二重構造になっている。PFAS汚染は、私達の暮らしと命を日々脅かし続けているというのに、闘う術も限定され勝算の可能性も低いのだ。

沖縄県企業局がPFASによって沖縄の水源が汚染されていることを発表したのは16年1月である。北谷浄水場の水源河川で高濃度の汚染が発覚、嘉手納基地が汚染源と推定された。さらに県環境部の調査で、普天間基地周辺の湧水でも高濃度のPFASが検出された。

県内のPFAS汚染状況は、キャンプハンセン周辺排水路、沖縄市産業廃棄物最終処分場、嘉手納基地周辺の河川、湧水、井戸、キャンプフォスター周辺水路、普天間基地周辺の湧水、土壌、など、米軍基地による汚染が大半である。汚染原因は泡消火剤だとされる。沖縄市の産業廃棄物処分場も、普天間基地の泡消火剤の処分場であった。

20年4月の普天間基地からの大量の泡消火剤流出事件は大きく報道された。格納庫近くでの米兵によるバーベキューで消火システムが作動、泡消火剤が大量流出。近くのこども園に流れ込んだ人頭より大きな大量の泡は、ドラム缶719本分の14万3000㍑、川はピンク色だった。

県の調査で、上記の県内河川同様のPFOS、PFOAを含む10種類のPFASが、飲料水汚染判断基準の6倍値で検出された。米軍ではなく地域の消防隊員が処理、県の周辺土壌提供の求めに米軍は応じなかった。

当時の河野太郎防衛相は、県が求める周辺土壌調査の必要性を否定、基地内の別の場所で土壌調査を行うよう調整中と述べた。米軍の対応からして実際は県が調査発表した以上の濃度と推定する。

Water pollution in river because industrial not treat water before drain.

 

泡消火剤は、その地下水汚染で17歳の娘を失った米兵が規制強化を訴え、米国防総省が24年までの全面使用禁止を決定、すでに米国内外の米軍基地で使用されないと聞く。

日本の米軍基地では今も使用が許され立ち入り調査もできない状況は、米国隷属国家日本を表わす一例に過ぎない。その状況に日本国民が鈍感なのは、「日本問題」を「沖縄問題」として沖縄に押しつけ続けているからである。

原稿を書き終えた今朝の新聞は、うるま市のダムで米軍由来の不発弾725発、手榴弾入りドラム缶が見つかり取水中止となったと報じている。

1 2
与那覇恵子 与那覇恵子

独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ