シリーズ日本の冤罪㉒ 大崎事件:再審開始に向けて積み上がる「無罪」の証拠

青柳雄介

・6畳間か、土間か

確定判決は、どのようにしてアヤ子さんの“有罪”を認定したのか。

まず、事件に至る経緯を見ておこう。アヤ子さんは先祖代々農業を営む原口家の長男の嫁として一家を切り盛りしていた。男性兄弟はみな酒癖が悪く、酔っぱらって道路に寝てしまったり、暴力を振るったりすることがあり、特に被害者の四郎さんが酷かったという。 遺体発見の3日前である10月12日、親族の結婚式が開催された。一家は式に出席したが、四郎さんだけは、いつものごとく朝から酔っぱらっていて、結婚式に連れて行ってもらえなかった。

その日、四郎さんは夕方5時半、酒や食糧品を買いに自転車で出かけると、帰り道で自転車ごと、深さ一メートルの側溝に転落した。遅くとも夜8時には、誰かの手で道路に引き上げられていたようだが、近所の目撃証言から、わかっているだけで2時間半以上、四郎さんが道路に寝そべっていたとされる。家族が結婚式でみな不在だったため、近隣のIさんとTさんが四郎さんを軽トラックの荷台に乗せ、自宅の土間に置いて帰った、と供述している。アヤ子さんには9時過ぎに、「お宅の四郎が道路で寝ているので、迎えに行ってくる」と電話があった。

その電話を受けて、アヤ子さんはIさんの家に行って待っていた。四郎さんを置いて戻ってきたIさんとTさんにお礼を言って、TさんとともにIさんの家を出、10時半ごろには帰宅した。帰宅時、四郎さんのことが心配になったアヤ子さんは、四郎さんの家へ様子を見に行った。その際、その姿はすでに土間にはなく、奥の六畳間に薄明かりが点いていて、布団が盛り上がっていたので、「もう寝たんだ」と思い安心して帰った。

ところが確定判決は、この部分に関するアヤ子さんの供述を信用せず、以下のようなストーリーを立てた。

「このとき、(6畳間ではなく)土間でぐでんぐでんになっている四郎さんを見たアヤ子さんが、今だ、殺してしまえ」と決心をし、夫である一郎さんと、次郎さんに殺害を持ちかけた。これで殺人の共謀が成立したと認定されているのだ。

そして午後11時ごろ、アヤ子さんがタオルを持って一郎さん・次郎さんとともに四郎さんの家に再び行った。一郎さんと次郎さんは前後不覚の四郎さんに殴る蹴るの暴行を加えた。その後、3人で土間から6畳間に運び上げると、アヤ子さんがタオルを一郎さんに渡し、次郎さんとともに四郎さんの体を押さえつけた。その状態で、一郎さんが首にタオルを回し、力いっぱい首を絞めて殺した。

四郎さんを殺害後、次郎さんはいったん家に帰り、なんと息子の太郎さんに、死体を埋める加勢を求めた。そして翌13日午前4時ごろ、太郎さんを含めた4人で牛小屋に埋めた。

これが、判決が認定した事件の経緯である。

fresh crime scene at night

 

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青柳雄介 青柳雄介

雑誌記者を経てフリーのジャーナリスト。事件を中心に社会・福祉・司法ほか、さまざまな分野を取材。袴田巖氏の密着取材も続けている。

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