「文通費問題」はただの〝ブーメラン〞ではない 維新の会は嘘だらけ

西谷文和

これは宴会だけではない。18年10月、大阪府知事だった松井は府議会の本会議休憩中に6分間、わざわざ公用車に乗り込んで府庁近辺を巡回。府庁舎は全面禁煙なので、「モク切れ」の松井が車内でタバコを吸うためだった。ちなみに大阪府は国よりも厳しい受動喫煙の防止対策をしている自治体である。このとき松井は「(窓を開けて吸ったので)マナーは守っている。タバコは吸い続ける」と逆ギレ弁明に終始した。

実はこの事件のあった5年前、13年6月に橋下徹市長(当時)は「勤務時間内にタバコを吸った」と、複数の職員を処分していたのだ。そのうちの一人は消防署長で、「公用車や庁舎の中でタバコを吸った」と3カ月の停職処分を下している。おそらく処分に抗議したのか、恥辱だと感じたのか、この消防署長は直後に依願退職している。「松井も3カ月停職させろ!」と憤るのは私だけだろうか。

ついでに言うと20年12月、松井が公務の合間にやはり公用車を使ってスパが自慢のホテルに64回も通っていたことが判明。批判された松井は「社会通念上、問題ないと思うけどね」とまたも開き直っている。

・松井の暴政に立ち上がった教職員

もうここまで来れば「逆ギレの松井」と言うしかないが、教育分野でもやらかしてしまった。

21年4月19日、松井は会見でいきなり「大阪市の小中学校は原則オンライン授業。子どもは自宅で学習するように」と発表。現場の教職員は寝耳に水で、保護者から電話がかかってくる。「今、テレビで松井さんが言ってますが、本当ですか?」。大阪市の学校現場は大混乱に陥った。

小学校1年生は入学直後だ。ローマ字も漢字も読めないし、タブレットを渡されたところで、授業のサイトを開くことすらできないのではないか?

私のような素人でも「無理筋の命令」だとすぐにわかるのだが、ここで敢然と1人の教職員が立ち上がった。大阪市立木川南小学校(淀川区)の久保敬校長が「豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」と題する提言を、松井宛に提出したのだ。

いわく「大阪市長が全小中学校でオンライン授業を行うとしたことを発端に、そのお粗末な状況が露呈したわけだが(中略)子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかきむしられる思いである」と、松井の暴走を批判したうえで、最後に「これは、子どもの問題ではなく、まさしく大人の問題であり、政治的権力を持つ立場にある人にはその大きな責任が課せられているのではないだろうか」と締めくくっている。

なにしろ相手は「逆ギレの松井」である。久保校長のその後はどうなったのであろうか? 勇気ある校長にインタビューした。

――いきなりの「松井命令」は、事前に相談や調整はあったのですか?
久保 ありません。今までもテレビの記者会見で初めて知ることは多々ありました。いろんな意味で「慣らされていた」ので、あーまた今回もや、そのうち教育委員会が正式に言ってくるだろうと。

――「原則自宅でオンライン」が、1~2時間目は自宅でオンライン、3~4時間目は登校して給食、5~6時間目に自宅に戻ってオンライン、になったんですね。

久保 そうです。でもうちの学校は集団登校だったので、地域の見守り隊の方にどう説明しようか、「行って帰って」を繰り返させて子どもたちは負担にならないだろうか、と不安でした。

――家にネット環境がない子どもは?

久保 前年度に1人1台のタブレットを配っているからそれで授業をせよ、ネットがない家庭にはWi-fiのルーターを貸与する、と。しかし4台しか来なかったんです。

――全然足りませんね?

久保 それで教育委員会に「追加配布を」とお願いしました。回答は「足らないのはお宅の学校だけではありません」(苦笑)。困惑したのですが、校長判断で従来通りの登校を維持しました。保護者や子どもたちからは「先生、ありがとう」と。

――ネット環境の整備もせず、現場の実情も調査せず、ドヤ顔の松井市長がテレビで「言うだけ」。だから提言を出さざるを得なかったのですね。

久保 松井市長宛に郵送したのですが、教育委員会が忖度して市長に手渡さないかもしれない。友人のOB教職員に「こんな手紙を出しました」と連絡したのです。すると彼らがSNSで告知。それが爆発的に拡散されて。

――市長は激怒したでしょうね。

久保 記者会見で松井市長は「校長なのに現場をわかっていないようだ」「ルールに従えないのなら、組織を出て行ってもらうしかない。処分の対象だ」などと言われたようです。

――久保先生を守れ、という声が広がりましたね。

久保 教育委員会にすぐに呼び出されて「顛末書」を書きました。結局、処分は「文書訓告」に留まりました。

久保校長によると、「信用失墜行為」を行なった、つまり、世間を騒がせたから、勝手なことを言ったから、「文書訓告」になったとのこと。もし「久保校長の言う通りだ」「松井こそ謝罪せよ」などの声が盛り上がらなければ、減給、あるいは停職などになっていた可能性もあったわけだ。

Building of Osaka City Hall with its nameplate

 

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西谷文和 西谷文和

大阪府吹田市役所勤務を経て、フリージャーナリスト。NGOイラクの子どもを救う会代表。新刊『自公の罪 維新の毒』(日本機関紙出版センター)。

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