【連載】鹿児島基地問題レポート(野呂正和)

第1回 南西シフトの波に曝される鹿児島県内の自衛隊基地

野呂正和

・南西諸島の軍事強化

政府は2010年の防衛計画大綱で「南西諸島の防衛力強化」を示した。2011年6月21日に日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、「馬毛島を検討対象とし、米軍の空母艦載機の恒久的な施設として使用されることになる」との合意と、今回の南西諸島における自衛隊配備強化に伴い、沖縄県与那国島に至る「第一列島線」の軍事強化が急ピッチで進められている。

written crisis on real newspaper with shallow dof.

 

とりわけ馬毛島は、核燃施設や石油備蓄基地にノミネートされるなど無人島ゆえの様々な施設に翻弄されてきた。ここに巨大軍事基地が建設されようとしている。

2018年10月には日米共同訓練として上陸訓練を中種子町の長浜海岸と中種子島空港も使い、長崎の水陸機動団200人、ヘリ部隊20人、それに海兵隊90人が参加して行われた。

奄美大島瀬戸内町古仁屋海峡は、天然の軍港として沖縄戦に対して備えもしていた。その古仁屋近辺に巨大弾薬庫とミサイル配備がされた。

①鹿屋無人機

鹿屋基地に1年間、急に米軍が無人機を一時展開させている。デモフライトもなされたが、市民の間からは特段大きな反対の動きはなかった。

2022.7.21 鹿屋市と九州防衛局が「展開・安全協定」締結。運用は1年、無人機1機で30時間飛行でき、ローテーションで第一列島近辺の哨戒に当たる。

11.21 運用開始。MQ98機が駐留し、米兵200人が鹿屋市内のホテルに滞在。

防衛省は、無人機を数百機購入することにしている。つまり、その後自衛隊が独自に哨戒活動するための自衛隊員への教育期間の1年ではないか。

②馬毛島とFCLP

馬毛島は西之表市の西12㎞に浮かぶ8㎢、標高72mの温暖な島で、マゲシカを中心に豊富な動植物と良好な漁場が存在する。

1951年、緊急開拓法施行で39世帯が入植。1959年、最高113世帯528人が生活していた。1977年、市と馬毛島開発会社が協定書を締結。1978年、石油国家備蓄構想が発表された。1980年には無人島になった。

1995年、所有権を持つ住友銀行は4億円を市に提示するが取りあわず、その後に土地所有した立石勲氏から日本版スペースシャトル着陸場誘致の覚え書締結。2000年、放射性廃棄物の持ち込み拒否に関する条例制定。2003年、県は保安林の一部を解除して開発を可能にした。同時に違法伐採も行っていた。

2004年、馬毛島開発が馬毛島飛行場特区構想を申請。2009年、立石氏450億円を提示。タストンエアポート社は2019年11、160億円で合意。鹿児島県の許可を受けずに行った違法伐採と滑走路工事の件は不問になったままである。

なぜ、馬毛島が米軍のField Carrier Landing Practice(FCLP:陸上空母離着陸訓練)訓練基地の候補になったのか。米空母艦載機の運用には空母の滑走路を想定した離着陸の訓練、さらに夜間の訓練であるNight Landing Practice(NLP:夜間離着陸訓練)も必須になっている。

米軍厚木基地でのFCLPとNLP訓練は、騒音問題で日本政府が裁判に敗れたため、1991年に米軍は日米地位協定によって厚木の訓練を1,400㎞離れた小笠原諸島の硫黄島で行っている。

そうした中で、米軍岩国基地で展開する200機もの艦載機の訓練を馬毛島に移転する計画が浮上した。同計画は、2011年の2プラス2で正式に合意した。

訓練移転を急ぐ防衛省は、2019年12月20日、防衛副大臣や事務次官等関係者が種子島を訪問し、また鹿児島県の伊藤祐一郎知事に対しても理解を求めるため説明を行った。

主な動きは以下のとおり。

2011.5.16  馬毛島で米機訓練報道 すぐさま首長らは反対を表明
6.3 北沢俊美防衛相、米長官に「馬毛島最大限努力」を伝達
6.21 日米(2プラス2)共同文書で馬毛島検討を明記
6.25 自民県連、馬毛島反対を決議
7.8  防衛省が住民説明会
7.25 伊藤知事、防衛副大臣に抗議
8.22~防衛省が漁協組合に説明会開く
9.1  漁民、市民120人「違法開発」を提訴へ
10.14 4市町で反対署名が過半数に達し、10.21には7万人分を提出。
10.21 伊藤知事、防衛省に断念要請

2012.2. 首長らで組織する馬毛島への移転に反対する「米軍基地等馬毛島移設
問題対策協議会」総会を開く。この間、中種子町など協議会を離脱。

2019.12.2 政府が馬毛島買収合意を正式発表

2020.3.9 西之表市議会で八板俊輔市長は事実上の反対を表明
8.7 政府から基地配置案を提示された八板市長は「不満、不安」を表明


9月   漁協が海上ボーリング調査を承認
10.7 八板市長、「同意できない」と移転計画に反対
11.9 八板市長、岸信夫防衛相に計画反対を伝える。
12.21 防衛省が海上ボーリング調査開始

2021 1.8 防衛省 外周道路や基地施設設計など4件の入札を公告
1.24 八板市長、塩田康一知事に「反対」と明言
2.1   八板市長が144票差で再選
2.18 環境アセスに着手
2.19 環境アセス方法書の縦覧開始
4.12 八板市長再選後、防衛省で「計画に同意できない」と伝達。
5.16 デモフライト
6.17 中種子町議会、防衛大臣宛てに「計画推進」意見書を提出。
6.18 南種子町議会、同上
6.23 西之表市議会、「基地整備計画賛成」意見書を可決
11月 アセス中にもかかわらず、基地本体の仮設プラントを発注
12.24 馬毛島整備費3183億円閣議決定

2022 1.7 馬毛島=「候補地」⇒「整備地」に
1月 管理用道路整備に着工
8月 葉山港浚渫工事
9.7  馬毛島小中校跡地の売却を市の幹部会で確認(3370万円)
9.12 防衛省、3市町に米軍再編交付金の交付方針
10.1 馬毛島小中跡地、隊員宿舎用の私有地売却決議
西之表市議会で八板市長の問責決議を否決。1議員が誤って「反対」ボタンを押す。
10.17 アセス知事意見提出を締め切り
夜間の騒音など39項目を九州防衛局に提出。
10.19 米軍再編交付金10億6200万円交付
11.22 馬毛島中央に3万年前の石器発見
12.1   八板市長リコールに向けた署名集めを開始
鹿児島県議会で知事計画を容認

③中種子などでの訓練

2018.5 陸自の水陸起動団と海自の共同訓練
2018.10.13 陸自と海兵隊上陸訓練
2021.11.25 中種子町長浜海岸 離島奪還訓練 1500人

④奄美駐屯地

2019年春 奄美市名瀬大熊のゴルフ場跡地に建設
2022.8.14~9.9「オリエント・シールド」
8.31 離島防衛の共同訓練に双方の電子部隊が参加。陸自は12式地対艦ミサイル(SSM)、米軍は高い機動性ロケット砲システム「ハイマース」

⑤瀬戸内分屯地

2019年3月ごろ 210人配備 同9月には日米共同訓練
2019年9月「オリエントシールド」に米軍と中距離地対空誘導ミサイル部隊が参加。
2020.10.30 日米は14人が参加して、臥蛇島で合同訓練を行う。
2021.6.18 「オリエントシールド」に参加した4600人のうち、奄美では米陸軍地対空誘導弾パトリオット部隊40人、陸自中距離地対空誘導ミサイル部隊40人が演習行う。
2022.11.10~19 「キーンソード」16回目。日本周辺の海空域の徳之島・奄美大島で日米共同演習を実施。武力攻撃事態を想定しオスプレイが初参加。英、加、豪も参加。

・まとめ

長崎、福岡、宮崎、鹿屋、馬毛島、奄美、沖縄本島、宮古、石垣、与那国が「台湾有事」の最前線に組み込まれた。今後の5年間で43兆円もの巨費を投じて軍事整備をするという。ミサイルを弾薬を戦闘機をトマホークを・・。

昨年(2022年)末に閣議決定した「安保関連三文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)は、2015年の安保関連法成立に続き、完全に専守防衛を放棄した。

近代戦において戦略兵器で戦争抑止を期待できるだろうか。否である。弾道不明なミサイルを、それも多数のミサイルを迎撃できる方策はない。敵基地攻撃ならぬ反撃能力を構築するにはアメリカ軍の情報網に頼るしかない。アメリカが良しとしない有事に日本独自に突っ込むことはあり得ない。

つまりは、アメリカの世界戦略のお先棒を担いで有事を肩代わりすることになる。そのためにアメリカから役に立たないオスプレイやF-35など大量に買わされるだけである。さらに「台湾有事」になると沖縄から米軍は撤退する。グアムやアメリカ本土からの戦略を取るに違いない。

何といっても、50を超す原発関連施設を攻撃されたら、福島原発事故の比ではない。

この危険極まりない戦争準備に福祉や教育を犠牲にするだけでなく、疲弊している国民への膨大な防衛費負担を岸田首相は「国民に責任」とまで言い放った。

米軍再編交付金などで、岩国や馬毛島を揺さぶり、少ない地方交付税の自治体を翻弄し続けている。平和憲法そして9条は空文化したのも同然だ。

80億人を突破した「宇宙船地球号」で戦争をしている場合ではない。気候変動、水、食糧、エネルギーをいかにシェアーして生きていくか、ここに人類の知恵で私たちの未来を見出すしかない。

 

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野呂正和 野呂正和

1951年4月15日生まれ、71歳。鹿児島県末吉町出身。鹿児島大学教育学部音楽科卒業。県立高校6校で音楽を担当した。2009年から高等学校教職組合執行委員長。2014年6月から3年間鹿児島県護憲平和フォーラム事務局長。2013年と2017年衆議院議員選挙に立候補したが、落選。九州比例次点。2019年県議会議員選挙では15票差で落選。音楽活動では、主宰するMA-SA-KAの会では、独自に編曲した曲を中心にした奏会を6回実施してきている。

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