【連載】鑑定漂流ーDNA型鑑定独占は冤罪の罠ー(梶山天)

第10回 菅家さんが捨てたティッシュでのDNA鑑定が不安、逮捕後に採血して再鑑定

梶山天

話を足利事件に戻そう。菅家さん逮捕に自信で満ち溢れているかのように見えた捜査本部にも、一抹の不安があったようだ。捜査員が尾行で得たティッシュペーパーに付着していた精液が、本当に菅家さん由来のものか、まだ確認ができていなかったのだ。そのまま裁判になったら問題視されかねない。

これでは捜査や鑑定の手順を踏んでいないことになる。そこで捜査本部は逮捕から3日後の同年12月5日、足利簡易裁判所から鑑定処分許可状と身体検査令状を取り、警察の嘱託医が足利署で新たに菅家さんの血液10ミリリットル(ml)を採取した。

菅家さんを逮捕後に採血を行い、改めて科警研がDNA型鑑定を行った際の鑑定書表紙。

 

菅家さんを逮捕後に栃木県警が採血して、あえて科警研にDNA型鑑定を嘱託した10mlの血液。

 

それから山本博一県警本部長名で再度、血液型とDNA型が肌着から検出された精液の型と一致するかどうか「異同識別」を科警研に依頼した。検査を行ったのは、真実ちゃんの肌着と菅家さんが捨てたティッシュペーパーに付着した精液が一致したとした向山明孝、坂井活子両技官だ。

菅家さん逮捕後に新たに採血してDNA型鑑定した泳動像

 

この検査は12月13日に終了した。その結果は、血液型は「B型」で「分泌型」であった。DNA型鑑定は2種類の検査方式で行った。

ひとつは、DNA多型性の高いシングルローカス「VNTR(Variable Number of Tandem Repeat:反復配列多型分析)」の一つであるMCT118型検査が「16-26型」と一致した。もうひとつは、「HLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)」型の一つであるHLA DQα型が「1.1-1.3型」だった。MCT118型のほかにHLA DQα型検査を行ったのは、補完というか、補足的に検査されたものだとしている。

逮捕後に採血して、科警研がDNA型鑑定を行った結果。MCT118型鑑定は「16-26型」、HLADQα型は「1.1-1.3型」。

 

しかし、そのHLADQα型鑑定が実は冤罪を立証する再審で、そもそも肌着からのDNA型の抽出量が疑問視される要因に発展することになるとは当時警察関係者は、誰もが気付かなかっただろう。

菅家さん逮捕後に敢えて血液を採取し科警研に嘱託した鑑定結果は同じで、捜査本部は安堵したのであろうが、後に早い段階でこのMCT118型検査が欠陥検査だったことが指摘される。

ここで、足利事件の被害者である保育園児の真実ちゃんの殺害を認めたとして栃木県警に逮捕された当時の菅家さんの自白内容がどのようなものであったのか、司法警察員面前調書(供述調書)を通じて確認しておこう。

 

私は真実ちゃんを実際に殺してしまったのですが、殺したことを話す勇気がなく、ずっと殺したことを認めませんでした。しかし、私も真面目になることを真実ちゃんの霊に申し訳ないと詫びる決心がついたので、正直に殺したことを話します。

言いたくないことは、言わなくてもいいと刑事さんから言われましたが、私が、真実ちゃんを殺したことは事実ですから、正直に話をして、罪に服したいと思っております。殺した日は、平成2年5月12日午後7時頃であったと記憶しております。

私は勤め先のミツバチ幼稚園を午後1時過ぎに出て、足利警察署近くの自宅に戻り、食事をして、自転車で渡良瀬川沿いにあるニュー丸の内パチンコ店に行き、そこでパチンコをし、3~4,000円位をかけて、両替所で両替し、その時、両替所の近くで遊んでいた4歳位の赤いスカートに、短い、色は忘れましたが、Tシャツの様な上着を着た女の子が目につきました。

女の子が遊んでいた所は、ニュー丸の内とロッキーパチンコ店の駐車場でありました。その女の子は、非常に可愛い顔をしていたので、女の子に「自転車に乗るかい」と声を掛けたところ、「乗る」と言う様な返事をしたので、私の自転車の荷台にまたがる様にして、乗せ、そこから直ぐ近くの渡良瀬川まで、乗せていきました。

河原に行き、自転車から女の子を降し、手をつないで歩いている途中、自然に、女の子をいたずらするという気分になってしまいました。いたずらをすると考えた時は、女の子に騒がれては困るという気持ちから、女の子の首に手を掛け、うつ伏の状態にして、両手で首を絞めて殺してしまったのです。女の子が、私が首を絞めたために、いくらか全身を動かしましたが、そのまま絞めて殺してしまいました。

その場所、渡良瀬川の北側の河原で、私の背丈位ある雑草が繁っていました。そして、殺した場所から10㍍位岩井橋の方へ、女の子を抱きかかえて、雑草の生い繁った場所に移動し、女の子が履いていたスカートと上着、運動靴、パンツなどを脱がせて裸にし、自分のきんたまを出して、せんずりをし、精液を出したのです

精液は、女の子の両足の方にかかったと思いますが、はっきり憶えておりません。女の子のスカートなどについては、その付近に捨てた様に記憶していますが、後でよく思い出して話します。

女の子は、全裸で仰向けにして、そのまま、逃げて、自転車で、足利市福居町に借りている借家に行きました。なお、私が真実ちゃんを誘い出した時間は、午後6時過ぎ頃だったと記憶しております。詳しいことは後で話します。

 

 

連載「鑑定漂流-DNA型鑑定独占は冤罪の罠-」(毎週火曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】鑑定漂流ーdna型鑑定独占は冤罪の罠ー(/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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