【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第3回 きょう世界は変わった!!帝国アメリカの「終わりの始まり」か

寺島隆吉

前章では、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部ドンバス地方の2カ国「ドネツク共和国とルガンスク共和国」を独立国として承認したとのニュースを紹介しました。

そして、これは帝国アメリカの「終わりの始まり」になるのではないかという私見を述べました。

ところが今日のニュースによると、ウクライナは相変わらずドンバスへの攻撃を続け市民への被害も出ているようです。これは明らかに「停戦協定」「ミンスク合意」違反です。

しかし、このウクライナ紛争のそもそもの発端は、アメリカが2014年にネオナチ勢力を利用して選挙で合法的に選ばれた政権にクーデターを仕掛けたことでした。

このことを、当時の国務次官補ヌーランド女史が「50億ドルの大金と30年の年月を費やした」と、ニューヨークで講演しているのです。

*米国のヌランド国務次官補はウクライナで50億ドルを扇動に使ったと公言、その手先はネオナチ
米国のヌランド国務次官補はウクライナで50億ドルを扇動に使ったと公言、その手先はネオ・ナチ | 《櫻井ジャーナル》 – 楽天ブログ (rakuten.co.jp)(『櫻井ジャーナル』2014 . 02 .16)。

さらに言えば、ウクライナの政変は、アメリカがマッキンダーの「ハートランド理論」に従って、ロシアを包囲する政策を続けてきたことに起因しています。それを具体化したのが悪名高い1992年の「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」でした。

ソ連が崩壊する直前、モスクワが東ドイツと西ドイツの統一に合意したとき、アメリカを初めとする欧米勢力は「NATOをこれ以上、東に拡大しない」ことを約束しました。

それを反故にし続けていることが、今日のウクライナの悲劇を生み出す遠因になっています。

もちろんアメリカやEUは、そんな約束はなかったと否定し続けていますが、最近その約束があったことを暴露する事実を見つけました。それは以下の2つです。

(1)West promised not to expand NATO -Der Spiegel(西側はNATOを拡大しないことを約束した )。
NATO deceived Russia about expansion and a British document proves it , top German weekly discovers(NATOは拡張についてロシアを欺き、英国の文書がそれを証明、ドイツのトップ週刊誌が発見)。
West promised not to expand NATO – Der Spiegel — RT Russia & Former Soviet Union 18 Feb, 2022

(2)NATO did promise Moscow it wouldn’t expand, former German defense official tells RT(「NATOは拡大しない」とモスクワに約束した、と元ドイツ国防省高官がRTに語った)。
Willy Wimmer told RT he personally witnessed the West vowing that NATO would not expand to the east(ウィマー氏は西側諸国がNATOを東側に拡大しないことを誓うのを個人的に目撃したとRTに語った)。
NATO did promise Moscow it wouldn’t expand, former German defense official tells RT — RT Russia & Former Soviet Union 19 Feb, 2022

まず最初の記事(1)は、ドイツの高級週刊誌『シュピーゲル』が暴露した記事です。

「NATOを東に拡大しないと約束」。ドイツの週刊誌『シュピーゲル』誌によって暴露されたイギリスの公文書。

 

この記事の標題では「ドイツのトップ週刊誌が発見」となっていますが、実は、この事実を発見したのは、米国ボストン大学の政治学教授であるジョシュア・シフリンソン氏でした。

これは氏が英国国立公文書館で発見したもので、当初この文書は「機密」とされていました。が、ある時点で機密扱いを解除されたものを、シフリンソン教授が見つけたわけです。

この記事によれば、シフリンソン教授は2月18日に、「西側諸国の外交官たちが本当にNATO非拡大の誓約をしたと信じていたことを示す文書を、シュピーゲル誌と協力して作成できて光栄だ」とツイートしています。

EUは長い間、そのような約束はしていないと否定し、常に「オープン・ドア政策」を採ってきたと主張してきました。

しかし先述のように、ドイツの週刊誌『シュピーゲル』が最近発表した文書は、この約束があったことを示しています。

その記事は、さらに次のように続けています。

「上級政策立案者は非拡大の誓約がなされたことを否定しているが、この新しい文書はそうではないことを示している」とシフリンソン氏はツイートし、エルベ川やオーデル川の「向こう側」には、NATOがわずか8年後に拡大を開始した東欧諸国が含まれていることを指摘した。

新たに発見された文書には、1991年3月に米国、英国、フランス、ドイツの当局者が、「NATOをポーランドとその先に拡大させない」ことをモスクワに誓約したことについて議論している様子が描かれています。

この記事は、上記の約束について、さらに詳しい事実を次のように紹介しています。

1991年3月6日にボンでおこなわれた、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツの外務省の政治局長による会議の議事録には、ドイツ統一に関する「2+4」協議について複数の言及があり、西側当局者がソ連に対して、NATOがドイツ東部(旧・東ドイツ)の領土に押し入らないことを「明確にした」ことが記されている。

アメリカのレイモンド・ザイツ国務次官補(欧州・カナダ担当)は「我々はソ連に対して、2+4会談でも、他の交渉でも、東欧からのソ連軍撤退から利益を得るつもりはないことを明確にした」と、文書で述べている。

ザイツ氏は「NATOは公式にも非公式にも東へ拡大すべきではない」と付け加えた。

英国の代表も、「東欧諸国のNATO加盟は受け入れられない」という「一般的な合意」の存在に触れている。

西ドイツの外交官ユルゲン・フロボック氏は、「我々は2+4交渉の間に、エルベ川を越えてNATOを拡張しないことを明確にしていた」と述べている。

ここで言う「エルベ川を越えて」というのは、東ドイツとポーランドの境界線であるオーデル川を指していたことが、後に議事録で明らかになった。

「したがって、ポーランドやその他の国々にNATOの加盟を提案することはできない」。

さらにフロボック氏は、西ドイツのヘルムート・コール首相とハンス・ディートリッヒ・ゲンシャー外相もこの立場に同意していたと指摘した。

ご覧のとおり、今日のウクライナ紛争をつくり出したのは、アメリカを初めとする欧米勢力なのです。そのことをさらに確認する記事が先述の(2)でした。

それは、欧州安全保障協力機構(OSCE)の元副総裁ウィリー・ウィマー氏が、2月19日のRTインタビューで語った記事です。

このインタビューでウィマー氏は、「モスクワがドイツの再統一に合意したとき、NATOを中東欧に拡大しないことを、ソ連と約束した」と語っています。それを、この記事は、さらに詳しく次のように述べています。

 

1985年から1992年までドイツ国防相の政務官を務めたこのベテラン政治家ウィマー氏は、ヘルムート・コール首相に、「欧州におけるNATO」と「NATOにおける連邦軍」に関する声明を送った。

そして、「その声明が、統一に関する条約に完全に盛り込まれたとき、この約束を自ら目撃した」と述べている。

当時、ベルリンが「旧東ドイツの領土にNATO軍を駐留させず、オーデル川の近くでNATOを止める」という決定をしたのも、この約束の一部だったとウィマー氏は付け加えた。

1991年3月6日にボンでおこなわれた米英仏独の外務省政治局長によるドイツ統一に関する会議の議事録は、まだ存続していたソ連に対して、NATOがこれ以上、東に拡大しないことを西側諸国が「明確」にしたことを示しているようだ。

ウィマー氏は、1990年代初頭に西側諸国の指導者が行った約束は、結局、悪名高い1992年の「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」で策定された米国の野心によって打ち砕かれたと考えている。

NATO(北大西洋条約機構)本部、ベルギー首都ブリュッセル

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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