【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ロシアからの新たな脅威? NATOこそが現実の脅威だ(2)

アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

冷戦終結後に作られた継続の名目

要するにNATOとは、米国のより広範な地政学上の利権に沿うよう米国によって創られ、そしてほぼ米国によってコントロールされている軍事同盟である。

旧ソ連の「脅威」への対抗が、NATOの中心的な目的であったことは決してない。旧ソ連とワルシャワ条約機構が崩壊した際、その「脅威」は消え、NATOはアイデンティティと正当性の危機に陥った。多くの人は、NATOが長年の間にその有益性を失ったと考えた。

NATO心酔者たちはドイツの専門家ジョセフ・ジョフのように、後退するソ連の軍隊が、「NATOにその回復力と存在価値を与える『脅威』を、持ち帰ってしまいつつある」(注5)と考えた。

米コネティカット大学の歴史学教授のフランク・コスティリオラは次のように書いた。

「冷戦期を通じ、ソ連への恐怖は欧州における米国の国益の手段としてのNATOが果たす役割を不明瞭にさせていたが、それが氷塊するにつれて、その底にあるNATOの政治目的が赤裸々に暴露された」。

NATOは消滅する代わりに米国の推進のもと、急速に拡大し、新たな戦略的ミッションを採り入れた。そうするにはソ連の「脅威」がなくなったため、いくぶん創造的な考え方を要した。新たな「脅威」は、その同盟の継続とそれにおける米国の役割を正当化できるものでなければならなかった。

NATOは今や、不確実な世界に「安定」を提供するために必要とされるものとされた。究極的には「ならずもの国家」やテロリズム、サイバー攻撃からの脅威が呼び出されるだろう。

1990年に米国連邦議会での証言で、ジェームズ・ドビンズ元国務次官補代理(欧州問題担当)は、「我々は今、NATOが創設されたのと同じ理由でNATOを必要とする」と述べた。

NATOにおける米国のリーダーシップという「接着剤」がなければ、西欧諸国はそれぞれ自国軍を「再国有化」し、昔の地政学上のゲームを演じ、同盟を別の方にシフトさせるという昔の悪い方法に逆戻りするだろうし、「安定装置」としての米国がなければ、西欧諸国の地位は、彼らの「歴史的紛争」へと戻る可能性もある(注6)、とドビンズは主張した。

こうして、その主張が行き渡り、NATOにおける米国の役割は、欧州諸国を彼ら自身から守ることである。盟主としての米国は、「ドイツを抑えておく」ための調停者兼安定装置として、なおも必要とされた。

米国の政治学者でテキサスA&M大学教授のクリストファー・レインによれば、以下のようにNATOは3つの主要な米国の目的にかなったという。

「それは米国の優勢に挑むことになりそうな、欧州のパワーセンターの台頭を未然に防いだ。それは欧州の潜在的地政学上の対抗関係に蓋をし続けることで、その大陸に安定を与えた。それは欧州大陸の中心とその周辺を安定化させることで、門戸開放のための安全保障の枠組みを創りだした。要するに冷戦後のNATOとは、それを通じて米国が欧州におけるその盟主としての地位を恒久化させるための道具であった」(注7)。

米国の世界支配の一環として欧州に軍事網を張り巡らし、各地で軍事演習を繰り返しているNATO。写真は2018年11月にノルウェーで北欧諸国が参加し実施された冬季演習。

 

しかしながら米国の政策立案者たちにとって本当の「脅威」は、復活する帝国同士の対抗関係からでも、外的な「ならず者国家」から来るのでもなく、真に独立した国家群である欧州から、特にそれが欧州における米国の覇権に対して挑もうと求める場合に起こる。

NATOや、EUと米国の間で交渉が進められている自由貿易協定である「環大西洋パートナーシップ」についての崇高な(そして人を誤らせる)美辞麗句の陰に隠れているのは、ひとつの単純な事実だ。

欧州における米国の政策は、ヘゲモニーを求める他の同盟国の努力に対抗することではなく、米国自身の支配権を恒久化させることである。

米国の政策立案者たちは、覇者が自己を愛する一方で、他の諸国が不可避的に覇者を恐れ、それに対抗する釣り合いを取るために同盟を形成することを理解していないように見える(注8)。

(翻訳:レンゲ・メレンゲ)

 

(注1)The International Republican Institute, the National Democratic Institute, the American Center for International Labour Solidarity (an affiliate of the AFL-CIO), and the Center for International Private Enterprise (an affiliate of the Chamber of Commerce). These organisations channel funds to centrist and right wing trade unions and other organisations. The NED board of directors is drawn from the elite of US government policy making. Past members include Henry Kissinger, Madeleine Albright, Zbigniew Brzezinski, Frank Carlucci, General Wesley Clark and Paul Wolfowitz.
(注2)26 September,2013「Former Soviet states stand up to Russia. Will the U.S.?」(URL:https://www.washingtonpost.com/opinions/former-soviet-states-stand-up-to-russia-will-the-us/2013/09/26/b5ad2be4-246a-11e3-b75d5b7f66349852_story.html)
(注3)Judis, John. 「Minister without Portfolio」 The American Prospect, May 2003.
(注4)29 January,2012 Whitlock, Craig「NATO allies grapple with shrinking defense budgets」 (URL:https://www.washingtonpost.com/world/national-security/nato-allies-grapple-with-shrinking-defense-budgets/2012/01/20/gIQAKBg5aQ_story.html).
(注5)Joffe, Joseph「The Security Implications of a United Germany」 Adelphi Papers, no 257 (Winter 1990/91), 87.
(注6)US Congress, Commission on Security and Cooperation in Europe, Implementation of the Helsinki Accords. 101st Cong., 2nd sess., 3 Apr.,1990,8,18.
(注7)Layne, Christopher「The Peace of Illusions: American Grand Strategy from 1940 to the present」 2006. Cornell University Press, Ithaca.
(注8)Schwarz, Benjamin. Layne, Christopher「NATO: at 50 it’s time to quit」 The Nation, 10th May 1999.

 

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アラン・マッキノン(Alan Mackinnon) アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

アラン・マッキノンはグラスゴー大学で医学士の学位を取り、同時に政治活動に参加し、そこで身につけた反帝国主義、平和的共存という理念に生涯を捧げた。結婚後、夫婦でタンザニアでの医療活動に従事。帰国後は平和運動の指導的役割を担いながらリバプール大学で熱帯医学を学び、その後は「国境なき医師団」の一員として再びアフリカに向かい、シエラレオネで医療活動にあたった。その際の経験から、現代の帝国主義、軍拡競争とアジア・アフリカへのNATOの拡大といった課題についてさらに理解を深める。 1990年代の湾岸戦争では、「スコットランド核軍縮キャンペーン」の議長として抗議運動を取りまとめ、2011年の「9.11事件」を契機とした「対テロ戦争」に反対し、「戦争ではなく正義を求めるスコット連合」を結成。英国の政党や労働組合、宗教団体、平和運動グループの代表を集め、アフガニスタンとイラクに対する米英の戦争に抗議活動を続けた。また、スコットランドへの潜水艦発射型大陸間弾道核ミサイル「トライデント」の配備に反対し、先頭に立って闘った。晩年はがんで片足を失いながらも、最後まで平和実現のための歩みを止めることはなかった。

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