【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ロシアからの新たな脅威? NATOこそが現実の脅威だ(3)

アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

米国に奉仕するためのEUという虚構

2004年にEUの近隣国に対し、財政的な支援を提供する「欧州近隣政策」(ENP)が進展し、近隣諸国のEU加盟に向けて準備することになった。

それに含まれるものは、「行動計画」と「安定化・連合プロセス」だ。そのマクロ経済改革には「EUに沿った合理化と標準化政策」をはじめ「市場解放の支援となる資金の受領」や「公共支出計画の削減」、「国家資産の民営化とそれらの資産のEU内企業への売却上の障害を除去するための規制緩和」が含まれる。

この諸政策は、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の「構造調整改革」に類似している。ENP資金の受領国には、ウクライナ、モルドバ、グルジア、モロッコ、ヨルダンが含まれている。「行動計画」を実施しなかった諸国には、アルジェリア、ベラルーシ、リビア、シリアが含まれていた。

多くの場合で、NATO加盟はEU加盟への布石となってきている。そうでない場合には先にEU加盟となるが、それはエリート諸国への政治的、イデオロギー的な献身となり、軍事化(防衛能力と相互運用性の構築)と最終的なNATOへの吸収を準備する。

米国がNATOを支配するのとまったく同様に、EUがヨーロッパ全体で東部と南部に拡大するにつれ、米国はEU内において増大する自らの影響力を行使する。イラク戦争のころにNATOに現れた様々な相違は、EUの鏡に映し出されている。

フランスとドイツの指導者たちは、例えばフランスのドミニク・ド・ビルパン外相のように、イラクにおける米国の戦争計画に反対したため米国で誹謗中傷された。

2003年のイラク戦争で、イラクを侵略する米陸軍。NATO内で米英と開戦に反対した仏独との間に亀裂が入った珍しい例となった。

 

米国のドナルド・ラムズフェルド国防長官は仏独連合の「古い欧州」を非難し、それをエリートたちが広範に米国の政策を支持した英国と新たな東欧のメンバー諸国から成る「新しい欧州」と比較した。実際に長年の間、英国は米国の求めに嫌がらずに応じる、米国のためにEUに置かれた「トロイの木馬」と見られている。

シャルル・ド・ゴール大統領は、まさにその理由のため、英国の欧州経済共同体(EEC)への加入を2回、拒否した。それは彼が反英国であったからではなく、英国の加入が、その同盟を支配するようになる恐れのある米国の加入の突端となると見なしていたからだ。

ド・ゴール体制下のフランスは欧州における米国の勢力を常に疑っており、米国から自立的になるひとつの汎欧州統合を好んだ。それはまた、自国の権益圏とみなすもの―例えばマグレブ(注=アフリカ北西部のアラブ諸国)と西アフリカにおけるフランスの旧植民地―に強引に割り込もうとするアングロ-アメリカンの試みに憤慨した。

その結果、ド・ゴールはNATOに対して半ば離脱的な態度を採り、1966年にはNATOの統合軍事機構からフランス軍を除外し、さらに非フランス人からなる軍はすべてフランス国土から排除した。フランスはまた同じ頃に、フランス自身の核兵器システム(核抑止力)を開発する計画を推進した。

だがフランスは、ニコラス・サルコジ大統領(2007年5月16日~2012年5月15日)の下で大西洋主義の位置にいくらか戻った。フランスはNATOのフルメンバーシップを再開し、2009年にはNATOの統合軍事機構に再加入した。しかしフランスは、ドイツとの連合を完全に断念したわけでは決して無かった。

仏独対アングロ-アメリカン同盟

EUはフランスとドイツによって創られたかもしれないが、過去10年間にわたり、それはますます当初の加盟国とアングロ-アメリカン連合の間で共有された組織となった。

仏独の軸(ベルギー、オーストリア、ルクセンブルクを含む)は欧州における陸上の勢力を代表し、大西洋から太平洋まで伸びる強力なユーラシア圏を生み出すためにロシアを含む方向へと傾く。

しかしながらアングロ-アメリカン同盟にとっては、米国支配の外にあるひとつの欧州の(あるいはユーラシアの)大国という概念は、彼らの最悪の悪夢である。アングロ-アメリカン同盟は北米が東欧およびコーカサスへと進出するために、欧州と軍事力を合わせてロシアが隔離され、包囲されるべき敵とされる大西洋主義の海洋勢力を象徴する(注3)。

ゆえに、両方の陣営が拡張を好む一方で、独仏同盟はさらなる拡大の前に、新規加盟した諸国に対する自分たちの影響力を強化するための時間をもっと与えるだろうゆっくりしたペースの拡大を支持する。しかし急速な拡大は米国と英国の権益にかない、EU内での米国の影響力を強化してきた。

NATO内、およびEU内でのライバル意識にもかかわらず、両者は互いが必要であることを認識している。アングロ-アメリカン同盟は、フランスとドイツの一番の役割は、ユーラシアへのさらなる拡張に向け、欧州に対する大西洋主義の影響力を勝ち取るために米国の政策にカバーを提供する点で非常に重要だと認識している。

実際、アングロ-アメリカンと仏独両陣営の利害が偶然一致することは度々あった。ドイツはユーゴスラビア(スロベニアとクロアチア)における分離主義運動を最初に承認し、さらにコソボにおけるアルバニア人分離主義者への支援を最初に提供した。

ドイツはその後のNATOの「人道的」介入から多大な利益を得た。わずか数年でユーゴスラビアは比較的に強い独立国家から、小さくて弱く、負債を抱え、自由市場の「需要」から、あるいは多国籍の投下資本の捕食から、自国の資源と住民を保護することができない国へと次々になってしまう一連の諸国へと変えられた。

旧ユーゴスラビアのコソボ紛争におけるNATOの軍事介入の究極的目的についてのいかなる疑問も、NATO側が紛争解決のためと称しセルビアに押し付けた「ランブイエ協定」の第1条を読めば霧散するはずだ。それは次のように明記している。

「コソボの経済は、自由市場原則に従って機能しなければならない」

その上、「協定」はNATOの諸軍がコソボを占領して政治的支配力を振るうだけでなく、それ以外のユーゴスラビアの土地に対する実質的なNATOの占領を行なうべきである、と要求した。仮に拒否されるように作られる「和平提案」があるとするなら、これがまさにそうだった。

コソボでは、ユーゴスラビアの崩壊で新たに誕生した他の民族的小国家におけると同様に、民営化されたその資産が債務返済計画変更と構造調整計画に従い、外国の投資家たち(主にドイツと米国)へと安値で手渡された。

コソボ自体は、米国本土の外にある最大の米陸軍基地のひとつで、コーカサスと中央アジアへの重要なルートにまたがるボンドスティール基地(1999年建設)が置かれた場所である。

英国では、その3つの主要な政党である保守党、労働党、自由民主党のすべてにいる有力なエリートたちが、米国との「特別な関係」を自慢し、NATOとEUにおける大西洋主義の目的を伝統的に支持してきた。

その支配的なコンセンサスは、EUからの英国の撤退を求める英国独立党(UKIP)および保守党の平議員の多くからなる政治的右派による脅威を受けているかもしれない。

それはまた、EUが新自由主義経済を欧州大陸全体に定着させ、労働組合の権利を損ない、メンバー各国の民主主義を迂回する巨大ビジネスの創出になると見なす政治左派と労働組合運動の大半により反対されている。

しかし米国の立場は、オバマの国務次官補(欧州・ユーラシア担当)のフィル・ゴードンによって明確にされた。2013年1月、ロンドン訪問において彼は以下のように宣言した:

「我々は、英国がその中にいる外交的なEUを歓迎する。我々はEUが団結してひとつの声で語り、世界全域とヨーロッパにおいて我々と共有する利害に集中しているときに恩恵を得る。……我々はそのEUにおける強い英国の声を見たい。それが米国の利害にかなう」(注4)。

(翻訳:レンゲ・メレンゲ)

 

(注1)Zbigniew Brzezinski, 「A Geostrategy for Eurasia in Preparing America’s Foreign Policy for the 21st Century, eds David L Boren and Edward J Perins Jr (Norman, Oklahoma: University of Oklahoma Press, 1999) p 311.

(注2)14 Rothkopf, David. 「Beyond Manic Mercantilism Council on Foreign Relations, 1998.

(注3)15 This is part of a wider US geo-strategic position where the challenge to US global hegemony comes from an alliance between Russia, China and Iran which controls much of Eurasia including the lion’s share of its oil and gas resources.

(注4)『The Guardian』 January 9 2013 「Britain should stay in European Union, says Obama administration」(URL:https://www.theguardian.com/world/2013/jan/09/us-warns-uk-european-union

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アラン・マッキノン(Alan Mackinnon) アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

アラン・マッキノンはグラスゴー大学で医学士の学位を取り、同時に政治活動に参加し、そこで身につけた反帝国主義、平和的共存という理念に生涯を捧げた。結婚後、夫婦でタンザニアでの医療活動に従事。帰国後は平和運動の指導的役割を担いながらリバプール大学で熱帯医学を学び、その後は「国境なき医師団」の一員として再びアフリカに向かい、シエラレオネで医療活動にあたった。その際の経験から、現代の帝国主義、軍拡競争とアジア・アフリカへのNATOの拡大といった課題についてさらに理解を深める。 1990年代の湾岸戦争では、「スコットランド核軍縮キャンペーン」の議長として抗議運動を取りまとめ、2011年の「9.11事件」を契機とした「対テロ戦争」に反対し、「戦争ではなく正義を求めるスコット連合」を結成。英国の政党や労働組合、宗教団体、平和運動グループの代表を集め、アフガニスタンとイラクに対する米英の戦争に抗議活動を続けた。また、スコットランドへの潜水艦発射型大陸間弾道核ミサイル「トライデント」の配備に反対し、先頭に立って闘った。晩年はがんで片足を失いながらも、最後まで平和実現のための歩みを止めることはなかった。

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