【特集】終わらない占領との決別

対米自立─敗戦後76年の占領状態を終わらせ、戦後ヤルタ・ポツダム体制を打破せよ!―

木村三浩

そもそも、ブッシュ政権の「イラク=フセイン政権を倒す」という主張には大きなデマゴギーがあった。ご存じのように、平成13年9月11日、米国の世界貿易センタービルがアルカイーダと称する者たちから攻撃を受けた。そこで米国側は、「自分たちはテロに遭った被害国なんだ、だからテロを受けた以上は先制攻撃をして、テロの根拠地となっているアフガニスタンを攻撃しなくてはならない」と世界に訴え、同地を攻撃、侵略していった。

しかし、よく考えなくてはならないのは、そもそもアルカイーダがテロを仕掛けたというブッシュ政権の主張は、実際にきちんと検証されたのかということだ。また、アルカイーダとイラクのフセイン政権の関連をまことしやかに喧伝し、「サダム・フセインこそが下手人である」といった国際的なプロパガンダが相当行われたが、果たしてそれは事実であったのだろうか。

その一方で米国は、盛んに「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている」といい、それをことさらに「脅威である」と主張した。だが、この大量破壊兵器については、イラクは湾岸戦争以降、国連の査察に生真面目に応じてきたのである。結局、後になって「イラクに大量破壊兵器はなかった」と、米国自身が言い出す始末で、彼らの主張がまったくのでっち上げであったことが明らかになった。ブッシュ政権のイラク侵略とは、9.11のテロの被害がどうだとか、大量破壊兵器が脅威だとかいう話ではなく、要するにフセイン政権打倒の口実でしかなかったのである。

米国自身が、今日ではイラク攻撃の根拠とした大量破壊兵器の存在を否定している以上、米国は一独立国の主権を踏みにじったということであり、無謀な攻撃によって十数万人を殺害し、秩序と治安を破壊したのである。イラクに駐留していた米軍はすでに撤退したが、破壊したイラクに対しては何ら賠償もせず、弁済もしていない。まさに、米国はイラクへの侵略戦争を仕掛け、敗北したのである。

敗北した以上、米国はイラク侵略戦争検証委員会を設け、ブッシュを戦争犯罪人として処罰しなければならないはずだ。令和3年10月に他界したパウエル元国務長官も、開戦時の閣僚として国連安保理で示した大量破壊兵器保持の証拠がでっち上げであったことを告白している以上、当然、戦争犯罪閣僚として詐欺罪も含め問われなければならないだろう。イギリスでは、イラク侵略に反対した閣僚が辞任したりしたが、イラク戦争検証委員会が設けられ、当時の責任者の有責性を問うところまでは未だ至っていない。

9.対米自立を果たし、本当の主権恢復を実現せよ

翻って我が国の状況を見るならば、世界で一番最初にブッシュの戦争を支持したのが当時の小泉政権であった。国連安保理決議が得られない中での米国の攻撃であったが、その状況を見越して小泉は米国に恩を売るために支持をしたとされている。しかし、様々な問題があった侵略戦争を支持したことは、政治的、法的、道義的責任が含まれており、やはり小泉も戦争への加担者として責任を問われなければならないだろう。

ところで、『帝国の解体 アメリカ最後の選択』という著書を発表した米国のチャルマーズ・ジョンソンは、「世界の中での基地帝国」「ブローバックの世界」と題して、以下のことを指摘している。

「私は世界中に散らばる米軍基地のネットワークについて調べ始めた。ペンタゴンの公式統計によると、世界各地に737の米軍基地がある。イラクとアフガニスタン以外でも130カ国以上にある米軍基地に、アメリカは50万以上の兵士、スパイ、委託業者、兵士たちの扶養家族などを配置している。それらの国の多くは独裁政権に統治され、一般市民は米軍が自国の領土に入り込むことについては何の発言権も持たない」と、世界に展開する米軍基地の実態を示している。

そして、こうした基地帝国が財政的破綻から、将来は解体に向かっていくと予見している。しかしながら、現在のところ世界に基地を保持して覇権を誇示し、世界の警察官と自任していること自体が、むしろ反省なき継続された戦争誘発システムを形成しているというべきだ。戦後、必然的に共産主義を封じ込めるため、米軍の全世界的な展開がなされてきたが、軍隊の習性として、一度保持したものはそう簡単になくせないという実情もある。

だが、そのようなシステムが存在する以上、その桎梏下に入り米国の弟分として利益を獲得していくのか、自国の国益を守りながら世界の秩序を政治、経済、文化、道徳の分野で再構築していくか、という問題が必ず出てくることは間違いない。

我が国においては、まさに日米安保体制の下、国土の一定地域に米軍が存在し、かつてはあまり唱えられなかった「日米同盟」という言葉すら無批判に使われている。そして、我が国と米国は、民主的価値観を共有し、自由経済を信奉し、太平洋の地政学的な部分においても一体の関係にあると思われている。しかし尖閣列島において、もし日中が軍事衝突した場合に、安保条約が発動されるかといえば、非常に心もとない状況がある。

一方、独立心が低下してしまい、自国の領土を守る意志すら欠いているところに、たとえ同盟国だからといってそこに参戦することはあり得ない、というのが一種の常識ではないのか。したがって、我が国は冒頭でも記したように、戦後76年続く戦後体制を抜本的に見直し、「対米従属」の状況から脱却していかなければならない。

戦後日本は、一貫して米国との関係を強化し、経済的に発展を遂げたことも事実である。しかしながら、アメリカナイズされた今日の日本の現状は、様々なところで〝金属疲労〟を起こしている。国家百年の大計を外国に委ねることで、我が国の再生は望めるのであろうか。これまでTPPや日米FTAなど、自由貿易体制の生き残りを懸けた戦略的パートナーシップが協議されてきたが、よくよく内容を吟味してみれば、我が国の非関税障壁の撤廃とより強固なアメリカニズムの経済体制が敷かれるということに他ならない。

東京裁判史観に呪縛され、米国の軍事犯罪を裁くことを放置したまま、経済的に富んできた我が国は、冷戦によってその本質を検証せず今日に至っている。国を支えようとする国民の意識がしっかりしていなければ、我が国は亡国の民となることは間違いないだろう。自主独立の気概を持つために、今こそ「対米自立」を勝ち取らなければならないのだ。

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木村三浩 木村三浩

民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。

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