【特集】終わらない占領との決別

占領管理法体系から安保法体系+密約体系へ(後)

吉田敏浩

7.「アメリカ的占領」は終わっていない

「安保法体系」も「密約体系」も、実質的に「占領管理法体系」を引き継いでいる。占領の延長線上の米軍特権を維持し、さらに新たな特権を確保するシステムといえる。「安保法体系」が「密約体系」と表裏一体となって、「憲法体系」を侵蝕している。

Japanese Zero parked on runway near USAF plane

 

「安保法体系」が米軍特権を保障しているため、出入国管理権、関税自主権、刑事裁判管轄権など国家主権が制限を受け、憲法が保障する「法の下の平等」も侵害されている状態を、「安保法体系」と「憲法体系」の矛盾・対立だとみるのが、「二つの法体系」論である。憲法学者で名古屋大学法学部教授だった長谷川正安氏が提唱した。その著書『昭和憲法史』(岩波書店、1961年)で、次のように述べている。

「憲法には、およそ軍隊の存在を前提とした条文がなく、したがって、軍事機密を保護したり、軍人の権利・義務を特別にあつかったりする法令を生みだすはずがない。しかし、安保条約から生まれる行政協定〔地位協定〕、それにもとづく刑事特別法などをみると、憲法では予想しえない、軍人の特権や軍事機密の保護があつかわれている。このように憲法体系と安保法体系とは、全面的にあい容れない二つの法体系である」。

そして、「安保法体系」が「占領管理法体系」の延長線上にあることを踏まえて、1952年4月の対日講和条約発効による主権回復後も、「アメリカ的占領は事実上だけでなく、法律的にも終わらなかった」と指摘する。

さらに、「完全な独立国ではないが完全な被占領国でもない日本のような国家は、従属国とよぶのがもっとも適当であろう。憲法体系と安保法体系という矛盾した二つの法体系の併存は、まさに、この従属国に特有の法のあり方である。それが法的にみた安保体制である」と根本的な問題点をあぶりだしている。

このように米軍のフリーハンドの基地使用と軍事活動の特権を、「安保法体系」と「密約体系」で認めさせているアメリカの狙いは何か。それは、世界的な米軍基地ネットワークに在日米軍基地も組み込み、戦力を前方展開させ、自らの世界戦略に応じてグローバルにいつでも武力による威嚇、武力行使ができる軍事態勢を維持することだ。それが日米安保体制・日米同盟の本質である。

実際、米軍は朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン攻撃、イラク戦争などでも、在日米軍基地を出撃・補給・訓練などの拠点として利用してきた。日本政府もそれを容認してきた。日本各地の空で低空飛行訓練をおこなう米軍機は、イラク戦争などで空爆をしてきた。そのような米軍の基地使用と軍事活動を認め、基地の建設・維持に莫大な財政支援をする日本は、アメリカの戦争に加担している。間接的な戦争の加害者の立場にある。

8.軍事同盟強化の危険な道

21世紀に入り、安保条約・地位協定の本質としてあらわになってきたのが、自衛隊を米軍の補完戦力に組み込んで利用する米日軍事一体化の動きである。それは日米両政府による1996年の「日米安全保障共同宣言(安保再定義)」、2005年の「日米同盟・未来のための変革と再編」、1978年と97年と2015年の三次にわたる「日米防衛協力のための指針」(新旧ガイドライン)などの合意にもとづきエスカレートしてきた。

いまや安保条約で定めた「極東」の範囲を超えて、日米安保は日米同盟の名のもと地球的規模で米軍と自衛隊が連携を強める軍事同盟へと拡大している。それに合わせて、2015年には違憲の集団的自衛権の行使を盛り込んだ安保法制(戦争法制)を成立させた。憲法9条を変えて自衛隊を明記し、実質的に戦争ができる軍隊に変えることも企図されている。

米日同盟を米英同盟のような共に〝血を流す〟同盟へと変えたいアメリカの戦略と、それに呼応して軍事大国化を目指す第2次安倍政権以来の日本政府の思惑が合致している。軍事予算(防衛予算)は増え続け、アメリカからの武器購入も増加し、自衛隊の軍備は拡大する一方だ。敵基地攻撃能力を持つ兵器の導入も進めている(「かが」「いずも」の空母化とF35Bステルス戦闘機、長距離巡航ミサイルなど)。岸田政権も敵基地攻撃能力の強化を表明し、憲法9条への自衛隊明記の改憲にも積極的な姿勢をあらわにしている。

安保法制により自衛隊は海外で米軍の兵員や武器などの輸送、弾薬の提供、燃料などの補給、装備の修理・整備、基地などの建設、通信、負傷兵の治療、捜索救助、米軍艦・軍用機の防護など、幅広い軍事支援ができる。そうした活動中に自衛隊が戦闘に巻き込まれる可能性もある。集団的自衛権行使の場合は、米軍とともに初めから戦闘をすることになる。

自衛隊はすでにインド洋派遣とイラク派遣で、米軍への兵站すなわち戦争協力の実績を積んできた。インド洋では、アフガニスタン空爆作戦をする米軍艦に洋上給油をした。イラク派遣の自衛隊輸送機は、武装した米兵など多国籍軍の部隊を多数運んだ。自衛隊は米軍との実戦的な共同訓練・演習を積み重ねている。近年のアメリカによる中国への軍事圧力路線に従って、自衛隊は南西諸島へのミサイル部隊配備を進めている。米軍も南西諸島を中心に中距離弾道ミサイルの地上配備を狙っている。

このような米日軍事一体化の動きは、アメリカの戦争へのより一層の加担につながる。日本を戦争に巻き込む危険な道である。仮に台湾海峡有事となり、米軍が在日米軍基地から出撃し、自衛隊も米軍に協力すれば、米軍基地や自衛隊基地は当然、中国側からミサイルなどで反撃を受ける。すなわち沖縄はじめ日本が戦場となる。戦場となって深刻な被害を受けるのは日本で、アメリカ本土までが戦場となる可能性は薄い。日本はアメリカの防波堤、捨て石のように利用され、犠牲を強いられるおそれが高い。

アメリカは中国に対抗する自らの世界戦略のため、日本に犠牲を強いることもいとわないであろう。こうした戦略にそって、フリーハンドの基地使用と軍事活動の特権を保障する「安保法体系」+「密約体系」はフル活用されるだろう。

占領の延長といえる「安保法体系」と「密約体系」を、ずっとこのままにしておいてもいいのか。「終わらない占領」を終わらせるために、その実態を直視する問題意識が日本社会にひろがってほしい。

*「占領管理法体系」について『日本管理法令研究(全35号)』(日本管理法令研究会編著、有斐閣、1946年~53年)を参照した。

※「占領管理法体系から安保法体系+密約体系へ(前)」はこちらから

https://isfweb.org/post-2238/

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吉田敏浩 吉田敏浩

1957年生まれ。ジャーナリスト。著書に『「日米合同委員会」の研究』『追跡!謎の日米合同委員会』『横田空域』『密約・日米地位協定と米兵犯罪』『日米戦争同盟』『日米安保と砂川判決の黒い霧』など。

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