【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

ウクライナ情勢に便乗、「憲法とは何か」を無視した改憲策動

足立昌勝

・跋扈する改憲策動

この核共有論も、憲法9条の改正なしには考えられないものであり、改憲論の一つであることは間違いない。

There are many hurdles to carry out the constitutional amendment that requires the consensus of the people. However, due to the influence of the COVID-19, there is also a movement to include a clause that restricts the rights of the people in the constitution, and further discussions will be watched.

 

すでに衆議院憲法審査会では、改憲策動が進んでいる。3月3日の同審査会の様子を、産経新聞(4日付)は「新型コロナウイルスの蔓延に加え、ロシアによるウクライナ侵攻が現行憲法の課題を改めて浮き彫りにした」として、以下のように伝えている。

〈日本維新の会の三木圭恵氏はウクライナ侵攻をめぐり「今の憲法で本当に国民の生命と領土と財産を守れるのか、国会は平和ボケしていないか、今一度考えることが重要ではないか」と訴えた。抑止力に歯止めをかける9条の理念で国を守れるのかとの危機感があり、「『自国は自分で守る』という当たり前の議論を敗戦から今日まで避けてきた。9条を含む憲法改正の議論を憲法審で行うことが真に求められている」と強調した。

維新の足立康史氏は、ウクライナが核保有国のロシアから一方的に攻め込まれている現実を踏まえ、日本国内に米国の核兵器を配備し共同運用する「核共有」政策、それに伴う非核三原則に関する議論も排除しない構えを示した。「議論を入り口から封じることは極めて非民主的で有害だ。タブーなき議論をしていくことを誓う」と語った。

維新を含む多くの党が必要性に言及したのが、憲法45条と46条に明記されている衆参両院議員の任期を緊急時に限って延長させるための議論だ。

官房長官を務めた自民党の加藤勝信氏は、任期満了後に行われた昨年秋の衆院選を振り返り「感染の急拡大、ウイルスの重篤化した形での変異が起きたときにどうなっていたかという思いは拭えない」と指摘。公明党の北側一雄氏は「大震災が起きたときに国政選挙の実施は不可能だ」と述べた上で「任期は明確に憲法に規定されている」と語り、憲法改正が必要だとの認識を重ねて示した。

国民民主党の玉木雄一郎氏も議論を急ぐべきだと強調。「憲法は飾っておくのではなく、魂を入れて生かすことが必要だ。息吹を吹き込む役割を憲法審が果たすべきだ」と述べており、国民を守るための憲法論議が国会で活発化する可能性がある。〉

「国民を守るための憲法論議」という表現に、産経新聞の見解が表れている。また、与党の自民と公明、ゆ党に位置する維新の会、ゆ党からよ党に近づいた国民民主党という立ち位置も、それぞれの議員の発言にそのまま表れているといえる。

続いて、3月17日にも衆議院憲法審査会が開催された。

この中で、自民党の新藤義孝氏は「国会議員は、憲法を改正しないかぎり任期を延長できない。どんな事態が起きても国会機能を維持することは国の根幹であり、緊急事態における議員の任期延長は最優先で議論を行なうべきだ」と訴えた。

これに対し、立憲民主党の奥野総一郎氏は「憲法では国政選挙ができないときには、参議院の緊急集会の活用を想定していると考えられ、必ずしも改正は必要ない」と指摘したうえで「国民投票の公平・公正を確保できるまでは憲法改正の発議はできず、国民投票法の見直しの議論を優先すべきだ」と主張している。

問題は、この野党の主張を国民がいかに理解するか、ということである。

ロシアのウクライナ侵攻に端を発し、北海道周辺でのロシア海軍の不穏な動き等を勘案すれば、そこから発生するであろう危機をあおり、憲法改正へとつなげようとする勢力は、「今はわが時ぞ」といそしんでいるのだ。

彼らには、今こそ憲法改正の時であり、この時を逃したら改憲は不可能となる、との意識があるのだろう。そして、日本は平和ボケだ、アメリカの核の傘の下で安穏と暮らしてきたつけが今表れているのだと繰り返す。

しかし、読めばわかる通り、これらは現行憲法を無視した議論である。現行憲法の持つ平和主義は簡単に捨て去るべきものではない。平和主義を世界的に普遍的な原則にするための努力こそが、日本が行なうべき役割である。

第2次世界大戦の敗戦国であるオーストリアは、1955年5月、アメリカ・イギリス・フランス・ソ連の4カ国との「オーストリア国家条約」によって独立が認められた。その際、条約の規定に従い、同年10月、「永世中立に関する連邦憲法法規」(中立法)を制定し、世界に向けて「永世中立国」であることを宣言した。

その結果、オーストリアはどの軍事同盟にも属さず、その領土に外国の軍事基地を置かないことを定めた。同時に国際連合への加盟も果たした。オーストリアは国連には加盟しているが、集団的自衛権を掲げるNATOには加盟していない。

一方、実質的なアメリカの占領期を経て独立を回復した日本は、アメリカ陣営の一員として存在する道を選んでしまった。それは、憲法の掲げる平和主義とはかけ離れていたにもかかわらず、である。この状態が、その後もずっと続き、現在に至っているのだ。

それを「平和ボケ」という言葉で片づけることはできない。日本の戦後を今一度見直し、平和主義を貫徹するための“中立主義”こそが日本のとるべき道である。

そのための努力こそが大切なのであり、何もしないでアメリカ陣営のみに与し、西側陣営の一員としてのみ活動を続ける姿勢こそが問題なのだ。

・ウクライナ危機への被爆国・日本の役割

この憲法問題について、琉球新報は3月1日、「憲法審での改憲論議 拙速判断避け議論尽くせ」との社説を掲げ、次のように述べている。

〈国会の憲法審査会で改憲議論を加速させる動きが出ている。岸田文雄首相は衆院予算委員会で憲法審での議論進展を促した。自民党は開催回数を増やしたい考えで、日本維新の会と国民民主党は毎週開催を訴え、後押ししている。

昨年10月の衆院選で改憲積極派の維新の会と国民が議席を伸ばした一方、改憲に慎重な立憲民主、反対する共産両党が議席を減らしたことが背景にある。「改憲勢力」の議席数が国会発議に必要な定数の3分の2を超えた。

また自民は新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ緊急事態条項の新設に前のめりだ。この条項は私権制限を伴い、立憲主義の理念を損なう問題をはらむ。新型コロナ特措法など個別の法律で対応できるにもかかわらず、憲法を変える議論を急ぐのは危険だ。改憲ありきの拙速な判断は避け慎重に議論を尽くすべきだ。(中略)

さらに懸念されるのはウクライナ情勢に乗じて憲法を逸脱する議論の加速である。台湾有事などを想定し敵基地攻撃能力保有を主張する意見が国会で相次いでいる。しかしこの能力の保有は憲法の原則である専守防衛を逸脱する。憲法の平和の原則を形骸化させるべきではない。〉

これこそが正論であろう。周りの状況に流されることなく、平和主義とは何かを考え、国際社会における日本の役割の中で考えるべきである。

また、東京新聞は3月16日付の1面トップで、「被爆国の重い国是 非核三原則ウクライナ侵攻で見直し論 見直し派『核共有議論を』 維持派『危険な方向に』」と題した以下の記事を掲載した。

〈唯一の戦争被爆国であり、核兵器の悲惨さを知る日本は戦後、原子力の平和利用を定める法整備や首相の国会答弁などで、核兵器の保持、製造、搬入を禁じる姿勢を鮮明にしてきた(中略)

非核三原則を巡り、自民党の茂木敏充幹事長は核兵器の国内配備ではなく、日本有事に使用の意思決定に関与する仕組みなら「三原則に直ちに反するとも言えない」と主張する。日本維新の会の松井一郎代表は「三原則は昭和の価値観」と議論を促す。

一方、立憲民主党の泉健太代表は「核は威嚇に使うことも許されない兵器。議論だけは良いなんて詭弁」と批判する。(中略)

「日本反核法律家協会」会長の大久保賢一弁護士は「核の脅威に核で対抗しようとすれば、日本を危険な方向に導く。唯一の戦争被爆国であること、国是としてきた背景を振り返るべきだ」と訴える。〉

今、世界は核廃絶に向けて大きく動き始めている。その端緒が核兵器禁止条約の発効で、2020年10月、50カ国の批准を受け、歴史上はじめて核廃絶に向けた国際条約が機能し始めている。

唯一の被爆国である日本は、米国の核抑止力に依存しており、核廃絶は非現実的という立場から条約締結には否定的である。

ウクライナの危機は、核戦争の危機でもある。だからこそ核廃絶の第一歩を踏み出す時だという声を今、被爆国日本こそがあげるべきである。

(月刊「紙の爆弾」2022年5月号より)

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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