【特集】沖縄PFAS問題とは何か

基地の街に住むということ―沖縄県宜野湾市・PFAS問題

仲松典子

不安は水道だけではない。石灰岩層が走る宜野湾市には多くの湧水がある。国の指定文化財、喜友名区の「チュンナーガー」は往時を彷彿とさせる美しい石組みの水場だ。集落の人々は区分けした一画一画を、水汲み・沐浴・洗濯・牛の世話等々上手に使い分けた。

現在、喜友名区ではポンプでくみ上げて簡易水道としているが、このチュンナーガーから高濃度のPFASが検出された。家庭菜園の土や野菜からもPFASは出た。喜友名区ばかりではない。湧水を利用して栽培される大山区の田芋は宜野湾市の誇る特産品であり、市は「ターンムの日」まで制定し、人々はこの田園風景に親しんできた。

だがそのターンム畑の湧水からも高濃度のPFASが検出された。(資料:有機フッ素化合物環境中残留実態調査事業結果 沖縄県)自給率の低い離島県沖縄にとって緑地帯は重要な生産の場のはずだが、埋め立てて地価の上昇を待つ地主が増えた。一方、この畑を愛し、子ども達を自然の中で遊ばせながら生産の喜びを伝えたいと奮闘する人達もいる。汚染は彼らの夢を砕こうとする。

PFASは自然界にはない物質だ。根源はどこなのか。宜野湾市の地形は普天間基地から西側、海岸に向けてなだらかに下る。西側の湧水からは高濃度のPFASが検出されるが、基地東側、上方の湧水の値は低い。(資料:IPP普天間基地周辺のPFOS/PFOA汚染状況)

 ・日米地位協定が解決阻むPFAS問題

米軍は消火訓練にPFAS入り泡消火剤を使ってきた。しかし、基地内への立入りは地位協定が阻む。立入りに関し、政府が自賛する「環境補足協定」が締結されたが、立入りが可能なのは米軍から環境事故の報告があり、司令官が立入りを認めた場合である。結局米軍次第なのだ。返還後と違い、返還前に汚染が分かれば浄化責任を問われかねない米軍としてはおいそれと認めない。(参照:地位協定4条1項)

2020年4月、普天間基地で23万2000㍑の泡消火剤がもれ、市中に軽乗用車サイズの泡が舞った。泡は保育園の園庭にも舞い降りた。原因はコロナで自粛生活を余儀なくされた海兵隊員が格納庫付近でバーベキューをし、熱を感知したスプリンクラーが作動、隊員達はそれを停止するすべを知らなかったというお粗末だ。この泡の回収作業をしたのは海兵隊ではなく宜野湾市の消防隊員だった。

さすがの米軍もこの事故は隠し通せない。米軍からの報告で国が立ち入り調査をし、県・市の立ち入りはその後だった。しかも県・市に渡された土壌サンプルは米軍が採取したもので、県・市の採取は米軍が表土をはぎ取った後だった。

普天間基地の泡消火剤漏出事故はこれが初めてではない。地元紙の調査ではこの事故以前8か月内に4件起きており、全件が海兵隊員の不注意が原因だった。うち2件は報告もなかった。

残る泡消火剤の処理を日米で協議中、米軍は処理に費用が掛かるからと一方的に64000㍑の汚染水を排水溝に放出した。米軍は濃度2.7ng/ℓというが、市の調査では670ng/ℓという高濃度だった。

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仲松典子 仲松典子

山形県出身。高校まで沖縄の「お」の字も考えたことがなかった。 大学時代、「復帰」に揺れる「沖縄問題」と、うちなんちゅの現夫に遭遇。 1988年沖縄に移住、宜野湾在住34年。 引っ越し翌日、米軍機に頭上スレスレを襲われ(という実感)、 以来、怒りとともに「なぜ?」という疑問を追及せずにはいられず、今日に至る。

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