【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第24回 スタンガンの調書はこうして作られた

梶山天

今度は「わいせつ後から殺害まで」という欄を見てみよう。

勝又拓哉受刑者が書いた文面には阿部検事が被害者の首の左側にスタンガンの痕があると教えられたと記されていた。

 

「最初刑事の時『いたずらをし終えてどうしたの』と聞かれ、私は寝ました、と答えました。『いつまで寝てたの』と聞かれ、私は次の朝と答えたら、刑事が怒りだして『Nシステムでキミの車の走行記録があるのよ、その日の夜、車で出かけてないのか』と聞かれ、私はあー出かけました。

そうしたら刑事は地図を出して、『Nシステムがここで記録されているけど、キミの所に行ったの??』と聞かれ、私は幾つかのルートを示したけど、どれも刑事が欲しい答えじゃなくて、それで実際に行ってみることにしましょうとうことになって、ついでにナイフも探そうということで行きました。刑事か行ったルートは、母が以前茨城の一乗院という所に行くときのルートでした。行きながら地図を見せられ、カーナビもあって、私はルートを何とか覚えられました。それで地図を書かされて、やっと刑事の希望通りにルートをかけました。

それでいたずらをし終えて、有希ちゃん連れ出して茨城にいったということになって、『どうして茨城なの』と聞かれ、遠くと思ったからとしか答えようがない、実際に当時と遠くと思い浮かぶものは、神奈川の大和か町田とかもあり得たけど、刑事が欲しい答えは茨城だから茨城としか答えるしかなかった。それで、『外に連れ出すときに何したの』と聞かれ、私は多分ズボンをはかせたと思うと答えた。

刑事からは『足首にもガムテープを縛らなかったのか??』と聞かれ、私はあー多分したと思うと答えた。そして有希ちゃんには白色のジャンパーを着せたと答えた。そして有希ちゃんを抱え刑事の時は後部座席に置いたと答えた。その後『後ろに座らせるのは不安じゃないか』と刑事か言うので、助手席に座らせたと答えを変えました。そして車を走らせ、刑事が言う現場(地図で)付近で頭でいろいろ考えてわけわからない道に入った。それが現場ということになった。

私はそこで殺害することにしたという話と、刑事からは『ナイフはどこに置いてあったの??』と聞かれ、私は車をいじるのが好きで車のダッシュボードに置いてあったと答えた。車をいじるのに軍手もよく使ったので、軍手も使ったと答えた。そして刑事は『ナイフはいつ買ったものなの??』としつこく聞いてきたので実際はわからないけど、答えないとまた怒るし、それで事件の何カ月か前に買ったと答えた。

変な話、『ナイフに指紋をつけたくないから軍手をはめた』とか言ってるけど、ナイフはそもそもすでに私の指紋だらけで、今考えると、おかしい言い訳だよなーと、それで『有希ちゃんを降ろして直ぐに刺したのか』と刑事に聞かれ、私は、無言でした。そうしたら刑事は『真っ暗な中で刺したのか』と聞いてきて、私は考えました。そして車の前に連れて行き刺したと答えた。

そうしたら刑事は『10回刺し終えるまで、有希ちゃんはずーと立ったままだったのか??』と聞かれ、私は人間そんなに立てないだろうと考え、5回くらい刺したら膝が崩れたと答えました。残りの5回はそのまま肩をつかんで刺し続けましたと言いました。

再逮捕された後、現場に行ったことがあって現場はとっても細い道でバックとかできるような場所じゃないので、『有希ちゃんを殺してそのまま置いたの??』と聞かれた時は、私は斜面に投げ入れたと答えました。阿部検事は『1回だけ投げ入れたの??』もう1回みたいな感じで聞かれたので、もう1回何歩か歩いた後に投げ入れたかもしれないと答えを合わせていきました。

その後その場から離れるために車をバックさせ、途中でUターンしたと書いていました。この現場でバックを、Uターンをしたという矛盾点、刑事も検事も何も言わないからそのままにしました。現場検証に連れていかれた時、Aの地点に車を止めたと説明したのは、それはA地点に有希ちゃんにたむけた人の花があったからです。そしてB地点に有希ちゃんと説明したのは、B地点にもあって有希ちゃんがいたと思ったからです」(あと省略)。

これが取調べの全貌である。一審の裁判官の皆さん。あなたたちが目を通した勝又受刑者の供述調書は、こうやって作られたものです。この文章をどう思いますか。裁判員の皆さんはさぞかし悔しがるかもしれませんね。取り調べ官たちのいいかげんさ。これが捜査の事実です。これは取り調べではありません。

人ひとりがもしかしたら極刑も辞さない殺人事件の裁判で、真正な裁判を侮辱されたといっても過言ではない捜査側の行動を。裁判所は完全に検察からなめられていることに気づきませんか。肝に銘じて全うな仕事をしてもらいたい。

 

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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