軍事攻撃されると原発はどうなるか

藤岡惇

・9・11事件の衝撃

2001年9月11日の同時多発テロ事件は、多くの謎を残す奇怪な事件であったが、少なくとも、つぎのことを明らかにした。すなわち民間飛行機をハイジャックして、軍事目標につっこむならば、民間機は「ミサイル」に変えることができるということだ。

ハイジャック犯の乗っ取った「即席ミサイル」がニューヨーク市北郊のインディアンポイント原子力発電所に突っ込んでいたとしたら、世界貿易センタービル崩壊時の何百倍、何千倍もの被害が生まれたことだろう。

2001年9月11日の同時多発テロ事件以来、原子力発電施設はゲリラ勢力の格好の攻撃目標となると、国際原子力機構(IAEA)は警戒を呼びかけてきた8)。米国の原子力規制委員会(NRC)も、2002年2月に、原発に航空機が激突しても事故を拡大させない態勢づくりを国内の原発に義務づけた。この指令は、住民にパニックを起こさせないために非公開とされたが、対策を義務付けた行政指令の条項から、「B5b」と呼ばれている。『朝日新聞』の砂押博雄記者たちは、こう説明している。

「B5bに基づいて06年にまとめられた指導文書によると、米国内の原発(104基)を対象に全電源喪失事故に対応するため、持ち運びできるバッテリーや圧縮空気のボトルなどの配備・・・を義務づけている。・・・日本の保安院は06年と08年に米国に職員を派遣し、NRC側からB5bに関する詳細な説明を受けた。・・・だが原発での全電源喪失やテロは『想定外』として緊急性の高い課題とは考えず、伝えていなかった」9)。

その結果、米国の各原発には150名の武装警備員が配置されているが、日本のばあいはゼロのままだ10)。オバマ大統領のよびかけで、2010年4月12-13日に米国の首都で、47カ国の代表を集めて、核テロ攻撃の防止策を話し合う初の「核保安サミット」が開かれた。

国家だけでなく、いまや非国家の武装組織も、核物質や核爆弾の入手に全力をあげており、この事態を放置していては、彼らが小型核爆弾を使って、あるいは核物質を原材料にした粗製核兵器を用いて、要求を貫こうとする前夜にあること、この核テロこそが、現下の核危機のなかでも最大の緊急課題であるとオバマ政権が考えていることが浮き彫りとなった11)。

・原発ストレステストをめぐる欧州連合の攻防

2011年5月17日にドイツのレットゲン環境大臣が、「脱原発」のスケジュールを決めるにあたって、飛行機の墜落にたいする備えが不十分な原発を優先的に廃炉にしていくという方針を明らかにした。彼はこう述べた。ドイツには17基の原子炉があるが、そのうち「4基は小型機墜落への防護基準を満たしていない。残る13基すべても、大型機墜落への備えが十分ではない」と12)。

脱原発派の議員やオーストリア・ドイツなどは、原発のストレステストの実施にあたっては、人為的ミスや自然災害だけでなく、航空機の墜落への耐性やテロリストの軍事攻撃に見舞われた際の耐性という観点も含むように主張している。これにたいしてフランスや英国といった原発維持派は、このような軍事攻撃の可能性は少ないし、住民の不安を煽り、コストアップを招くとして、反対している13)。

・日本の場合はどうか

東芝の原発技術者であった小倉志郎さんといえば、福一の建設に際して、原子炉系の機器のエンジニアリングに携わった人。小倉さんは、『季刊リプレーザ』という雑誌(第3号、リプレーザ社、2007年夏号)に山田太郎の筆名で「原発を並べて自衛戦争はできない」という卓抜なタイトルの論文を書き、次のように述べた。

「まず、一番先に知っておいてほしいことは、原発の設計条件に、武力攻撃を受けても安全でなければならない、などということは入っていないということである。・・・現在ある商業用原発55基は、いかに発電コストを小さくできるのかという経済性を最優先で設計されているから、武力攻撃を受けた場合、どうなるかは少なくとも設計上はわかっていない・・・。

肝心の原子炉が停止の後に行わねばならない冷却は、武力攻撃を受けた場合にできるのだろうか。・・・(冷却系システムの)多くは、原子炉建屋の外の補機建屋、あるいは屋外にむき出しで置かれているものも多い。屋外にあるこれらの機器は、小さな通常爆弾でほとんどが破壊されるか、機能停止に至るであろうし、補機建屋などは、危機を風雨から護る目的で、武力攻撃に対する強度などはもっていない。

・・・原子炉建屋内の使用済み核燃料の貯蔵プールはどうなるであろうか。燃料プールは、原子炉建屋の最上階にある。つまり燃料プールの上には、建屋の天井があるのみである。この天井は、その上に機械を設置しないので、天井自体の重さを支える強度しかない。つまりごく小さな通常爆弾に対しても無防備と言ってよいであろう。・・・

別のほとんど防御不可能な攻撃は、巡航ミサイルによる原発への攻撃である。これはレーダーに検知されない低空で飛んでくるもので、防ぎようがない。・・・自爆を覚悟すれば、ジェット戦闘機によっても巡航ミサイル的効果を得ることは可能である。仮想敵国の兵士が「自爆」を覚悟するほどの憎しみを日本に対して持つとすれば、こういう攻撃も可能性を否定できない。

・・・最後に、次のことをおぼえておいてください。原発にたいする武力攻撃には、軍事力などでは護れないこと。したがって日本の海岸に並ぶ原発は、仮想敵(国)が引き金を握った核兵器であること。ひとたび原発が武力攻撃を受けたら、日本の土地は永久に人が住めない土地になり、再び人が住めるように戻る可能性はない」と。

・地下深くに移設する可能性とコスト

「戦争や原発をターゲットにするテロ事件は起こりうる」ことを想定し、敵軍やテロリスト集団が原子炉を攻撃してきても、安全を保てるという条件がないかぎりは、原発は認めてはならぬという慎重論が、欧米では少なくない。敵のミサイル攻撃を受けても、それなりの耐性があるのは地下式原発であろう。

冷戦下では「軍事司令部と同様に、原子炉は地下深くに設置すべきだ」という意見が強まり、1960年代には、地下埋蔵型の原子炉がスウェーデンでは2基、ノルウェイ・スイス・フランス・米国では各1基ずつ建設された。

日本でも、1975年に「原子力地下立地検討会」が通産官僚主導で作られ、その研究成果が82年1月11日付けの『読売新聞』で報道されたことがある。このような背景のもとで1991年に自民党内に「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」(地下原発議連)が結成され、会長に平沼赳夫議員、事務局長に山本拓議員が就任した14)。

ただし当時は、原発の安全性を信じる人が多く、地下式にすれば原発建設コストが、普通の原発に比べて1.5倍から2倍かかるというレポートもあり、地下式原発促進論は盛り上りに欠けた。東京電力自身、「地上でうまくいっているのに地下はやめてくれ」という態度を打ち出したこともあり、「地下原発議連」はスポンサーを失い、休眠状態に入る結果となった。

それが、福島第一原発の事故を受けて、息を吹き返した。11年5月31日に4人の首相経験者や与野党党首が顧問に名をつらねるかたちで、「地下式原発政策推進議員連盟」が再発足した。同議連の山本拓事務局長は、メディアの取材に答えて、つぎのように述べた。

「地下式原発は、事故が起きた時、放射能を容易に封じ込めることができる。ただ、当時は原発にたいする安全神話が非常に強く、議論が進まなかった。が、今回の事故で放射能漏れが起きた。では今後どうするかと考えた場合、地下につくるしかないのではないか。そこで・・・もう一度検討することになりました」と。

原子力工学の専門家の宮沢慶次・大阪大学名誉教授も「確かに、地下原発は放射能の封じ込めが容易です。また耐震性に関しても地上よりも地下のほうが、揺れの影響が少ない。津波の心配もなく、テロへの対策もしやすい」と口をそろえた。

しかし軍事司令部とは異なり、原発のばあいは、大量の冷却水が必要であり、沿岸部に建設することが不可欠となる。このような海沿いの地下深くに、最新型のミサイル攻撃や核攻撃を受けても安全なレベルの原発を建設しようとすれば、どれほどの巨費が必要となるかは想像を絶する。とても地上型原発の建設コストの1.5倍から2倍では収まらないであろう15)。

・福一の作業員として軍事要員が入り込む可能性

5年間で100ミリシーベルト、または1年間で20ミリシーベルトの被曝線量を浴びた作業員は、原発の仕事を続けてはならないという規制があるために、福一の事故収束作業から離れることになった作業員が2012年3月の段階で167名となった。ベテランの原発労働者から離職する状況のなかで、毎日3千人の現場作業員が必要とされる状況が福一では続いている。

もともと原発で危険な仕事に従事する作業員の確保は容易ではなく、暴力団関係企業から人材派遣をうけて必要人員を確保することが多かった。じっさい2012年秋に東電が調べたところ、福一で働く一般作業員2423名のうち47.9%にあたる1160名が、人材派遣業に雇われ、偽装請負の状況で働いていたことが判明した16)。

事故収束作業員のリクルートが困難となるにしたがい、軍事攻撃を意図した要員が作業員を装い、福一原子炉に接近することが容易となるだろう。関連して、福一をはじめ日本の原発は、不法侵入者の予知や摘発の仕事を2001年に設立されたイスラエルのテロ摘発を業務とする軍事企業のマグナ(Magna B.S.P)社に委託しているという情報が流れているが、この点の真偽の調査も求められる17)。

・福一4号炉の核燃料プールのゆくえ

軍事攻撃(テロ行為も含む)が行われた場合、もっとも攻撃されやすく、戦略的に大きなインパクトを及ぼすと予想されるターゲットは、やはり4号機の核燃料プールと次項で触れる使用済み核燃料貯蔵の共用プールであろう。4号機の核燃料プールは一定の応急措置はとられていはいるが、なお青天井に近いし、原子炉の格納容器の外にあるから攻撃されやすい。

周辺海域を航行する漁船から短距離ミサイルを撃ちこまれたり、航空機が自爆攻撃をしかけたら、あるいは福一の作業員に扮した軍事要員が核燃料プールを攻撃したとしたら、4号機プールの冷却装置は簡単に破壊されるだろう。あるいはプールの底に穴が開くと、冷却水は落下し、冷却不能に陥るだろう。

2012年6月11日から15日にかけて、4号炉の燃料プールを守る応急措置として、縦11メートル、横13.7メートル、厚さ4センチで重さ60トンの鉄板をかぶせる工事が行われ18)、同年10月12日からは、原子炉建屋南側最上部の壁を切断する作業が始まった。

同年12月3日に開かれた政府・東電中長期対策会議の場で、プール内に貯蔵された1533本の使用済み核燃料の移送作業の開始時期を当初の2013年12月から同年11月中旬に早めるとともに、燃料移送のための容器を1台から2台に増やすことで、取り出し完了期間を当初予定の2015年末から2014年末に早めるようにしたいと東電は述べたという。

4号炉燃料プールの将来に政府・東電がいかに深刻な懸念を寄せているかの現れであるが、1年前倒しが可能かどうかは未知数であり、注目していきたい19)。

・使用済み核燃料の共用プールは安全か

4号機の核燃料プールには広島型原爆5000発分に相当する放射性物質が貯蔵されていることはすでに触れたが、4号炉の西50メートルのところにある使用済み核燃料の共用プールには、福一に貯蔵・装填されている12,729本の核燃料のうち、50.1%にあたる6377本が保管されている。共用プールのほうには、4号炉の核燃料プールの4.2倍にあたる放射性物質、広島型原爆に換算すると2万1000発分に相当する放射性物質が貯蔵されており、30度程度の水温で冷却されている。

もし共用プールの冷却機能が止まり、6377本の核燃料が溶融したとすると、あるいは爆撃されて、2万1千発分の放射性物質が吹き上げられたとすると、チェルノブイリの事例の比でないほどの深刻な核惨事が現出することになろう。

共用プールは、そのような重要な役割を果たすにもかかわらず、この施設の任務も所在地も、政府・東電は積極的に明らかにしない方針をとってきた。試みに、「福一の核燃料共用プール」でインターネット検索をしていただきたい。共用プールの真実の姿を政府・東電は一貫して隠そうとしてきたことに気付かれるであろう。

それはなぜか。味方の弱点――アキレス腱は、可能なかぎり、隠し通すことが戦争に勝つ秘訣だからだ。共用プールの重要性をテロリストや対立国に知られ、この施設が福一のアキレス腱にほかならず、軍事攻撃されると、一たまりもなく破壊され、日本国土がすさまじい放射能汚染に見舞われることを、敵側に感づかれることを政府・東電は懸念していたからであろう。

2012年6月25日に政府・東電中長期対策会議が開かれ、同年12月から共用プールから核燃料を取り出す作業を始め、2013年11月には半数の核燃料を取り出すという方針を決めた20)。これが実現するならば、福一のアキレス腱を人知れずに消していく作業の第一歩となることだろう。

重度の心臓疾患を抱えた患者はマラソンを走る体力を失ってしまう。人の心臓を原子炉ないし核燃料プールにたとえてみると、冷却水は血液、冷却水を送るパイプは冠動脈だ。パイプが詰まると、心臓の発作や麻痺は避けられない。

それと同様に、日本という国はフクシマをかかえることで、もはや戦争ができない体になってしまった。このような体で戦争に立ち向おうとすると、原子炉や核燃料プールのなかの核物質の爆発と放出は避けられない。フクシマの核惨事を契機に、すでに客観的には、このような状況に入ったことを自覚する必要があろう。

・軍事攻撃を想定して原子炉のストレステストをやりなおせ

イスラエルがイラクの研究用原子炉施設を爆撃した1981年の事件をうけ、日本の外務省が日本国際問題研究所(当時の理事長は中川融元国連大使)に原発への攻撃がなされたばあいの被害予測の研究を委託していたが、1984年2月に同研究所は、「原発攻撃のシナリオ」報告書をまとめ、外務省に提出していた。最近になってこの報告書を入手した朝日新聞の鈴木拓也記者は、つぎのような記事を書いた。

報告書は①送電線や原発内の電気系統を破壊され、全電源を喪失したケース、②格納容器が大型爆弾で爆撃され、全電源や冷却機能を喪失したケース、③命中精度の高い誘導型爆弾で格納容器だけでなく原子炉自体が破壊されたケース、に分けて被害を予想した。それによると②のケースが起こっても、緊急避難を怠ったばあいは、平均3600人、最大1.8万人が急性死亡し、住めなくなる地域は平均で周囲30キロ圏内、最大で87キロ圏内となると予測した。

仮に③のケースが起こったならば、「さらに過酷な事態になる恐れが大きい」と記した。ところが「反原発運動への影響を勘案」して、「この報告書は部外秘とされ、50部限定で外務省内のみに配布し、首相官邸や原子力委員会にも提出せず、原発施設の改善や警備の強化に活用されることはなかった」21)。

原子炉への爆撃対策は、その後もほとんど手つかずのままだ。鈴木記者はこう続けている。「警察庁は2001年の米同時多発テロを受け、国内の全原発に訓練を受けた警備隊員を配置。2年に1回程度、テログループの侵入を想定した警察と自衛隊の共同訓練を実施している。青森県六ヶ所村の再処理工場は近くに米軍三沢基地があるため、設計段階で米国の研究所に施設の鉄筋コンクリートと航空機の衝突実験を依頼し、衝撃に耐えられる強度を設定した。

だが原子力安全・保安院は『原発と航空機衝突の可能性は極めて低い』として対策を講じていない。再処理工場の衝突実験もエンジンがかかった状態での墜落までは想定していない。まして爆撃やミサイル攻撃などの対策は手つかずだ」と。22)

医師で広島県医師会長を務める碓井静照さんも、こう説いている。「原発の場合、コンクリート製の建屋外部遮蔽壁の厚さは1-2メートルとされるが、DC10など百トンを超える大型旅客機の衝突で、少なくとも1・3メートル程度までのコンクリート壁は破壊される」、他方「日本の原子力施設で唯一航空機の墜落を想定しているのが、青森の日本原燃六ヶ所再処理工場だ。航空自衛隊の訓練地域から10キロメートルしか離れていないから、約20トンの戦闘機衝突にも耐えられるように設計されている」23)。

自衛隊陸将補であった池田整治さんがプロの目から警告しているように、朝鮮戦争が再開されると、丸裸状況にある福島第一、とりわけ格納容器外に置かれている6つの核燃料貯蔵プールと共用プールとは絶好の標的となるだろう24)。このような軍事攻撃が発生したばあいに、日本の原子炉は、どの程度の耐性をもち、どの程度安全なのかという問いをたてて、ストレス検査は行われる必要がある。

 

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藤岡惇 藤岡惇

立命館大学経済学部教授。以下、立命館大学ウェブサイトの藤岡氏のプロフィールページ「研究者からのメッセージ」より。 若いころは、コミュニティの自尊と自治の能力を育むような「開発」のありかたを求めて、「米国内の第3世界」と呼ばれていた南部地域の経済開発と公民権運動の調査研究にとりくんできた。住民参画型の調査を志したので、米国の草の根NGOに随分お世話になった。その成果は、2つの著作ーー『アメリカ南部の変貌』と『サンベルト米国南部―分極化の構図』(いずれも青木書店)にまとめられている。その後、冷戦期の核戦略を主軸にした軍拡が、どのように米ソの経済を荒廃に追い込み、「冷戦の勝者はじつは日本」といった評価を生み出したかの研究に転じた。ソ連解体後に、米国がいかに「日本の経済力の封じ込め」戦略に転じ、軍事技術の「含み資産」を商業世界に開放し、経済覇権の回復に役立ててきたかを、米国の宇宙空間とサイバー空間の支配戦略を軸にして研究している。社会派エコロジストとしての視点から、人間ー自己中心主義の極ともいうべき「宇宙軍事化」の動きをどのように自然と人間を中心にした持続可能な平和経済づくりの方向に転換したらよいかについても、世界のNGOの人たちとともに研究している。毎夏日米の学生たちが、広島・長崎の地で、核の時代の意味と平和な世界づくりの道を探究しあっているが、この国際交流プログラムの世話もしてきた。1970年京都大学経済学部を卒業、経済学博士(京大)。'79年本学へ。山歩きとジョギングが趣味で、好んで比良山系を歩く。

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