軍事攻撃されると原発はどうなるか

藤岡惇

・「宇宙の火」降下の本質の直視を

「宇宙の火」(核反応エネルギーの火)を司ってきた「核の天龍」は、地球生命圏に降下することで、親(原爆)と子(原発)という双頭の顔をもつ「核の暴龍」となって、地表でとぐろを巻く時代が始まった。この出生の物語をハワイ在住の画家の小田まゆみさんが、的確に描いている(付図を参照)。原発推進勢力は、頭部の双頭のところだけに視野を限定し、「平和のためのアトム」と「戦争のためのアトム」とは区別でき、分離できると宣伝してきた。

この点に触れて、フランスの海洋学者で冒険家でもあるジャック=イブ・クストーは、1976年5月の国連の会議で次のように警告した。「平和的な原子と好戦的な原子とを長期間分離しておくには、私たちは、あまりにも国家感情が強すぎますし、強烈な攻撃性を克服できていません。平和目的の原子だけを抱きしめながら、戦争目的の原子を憎むことなど、できないのです。私たちが生き延びようとするならば、両方とも棄てさることを学ばねばなりません」と。

資本主義の苛烈な競争の現実、および私たちの人間的発達の状況をリアルに直視するならば、やはりクストーが説いたように、双頭の龍を2つの龍に切り裂き、分離することは、現状では不可能ではないか。私たち人間は、「宇宙の火」を制御できるだけの高みに達していないという現状を謙虚に、かつ正確に見据えよう。

「宇宙の火」というのは核反応にもとづいているため、いったん燃え出すと、数万年も消えないのであって、ニュートン力学の次元を超えた現象だ。にもかかわらず、ニュートン力学次元の技術を用いて制御すれば、安全に利活用できると人々は思わされてきた。

いったん破綻すると、「カタストロフィ」(影響が時間的にも空間的にも無限定に広がり、制御不能となるタイプの破局)となるにもかかわらず、「リスク」(管理が可能なタイプの危機)であるかのように「錯覚」させ、「リスク管理」という従来型手法を用いて対処できると思わされてきたと言ってもよい25)。

「核の時代」とは、人が戦争を絶滅しないかぎり、戦争のほうが人を絶滅させる時代のことだが、このような核爆発(放射性物質の爆発的な放出を含む)を引き起こす能力を一群の核大国の独占から開放し、すべての政治・軍事勢力に平等に与えたことが、フクシマの最大の意味であった。

第一次世界大戦の惨禍が国際連盟とパリ不戦条約を生みだし、第2次世界大戦の1945年1月までの惨禍が国際連合憲章を生みだし、広島・長崎の核の惨事が国連憲章を超えた高みをもつ日本国憲法9条を生みだしたとすれば、フクシマの惨事は原発があるかぎり、どんな政治・軍事集団であれ、多少の冒険(自爆攻撃など)を覚悟しさえすれば「核爆発誘発能力」をもつという新しい時代の到来を告げた。

・日本を「東アジアのイスラエル」に変えてもよいのか

「中国や北朝鮮の膨張や侵略を抑止してもらうために、日米安保条約も在日米軍基地も必要ではないか、米軍の傘がないと不安だ」と考えている日本人は少なくない。現段階では沖縄をのぞけば、むしろ多数を占めているのかもしれない。

しかし東アジアだけにとどまらず世界全体に睨みをきかす「米国の軍事拠点」としての位置を、在日米軍基地は与えられてきた。米軍にとっての日本の位置というのは、中東におけるイスラエルの位置と似ているし、日本の軍事的台頭をそのように見なす人々は東アジアには少なくない。

在日米軍を「日本における妖怪=軍国主義勢力の復活を抑止する『びんの蓋』だ」とみる人々をあわせるとむしろ多数派を占めていることを、私たちは自覚しておいたほうがよい。

ただし日本とイスラエルの間には、一つの相違がある。イスラエルはアラブ民衆からの敵意を正確に認識し、地下式も含めて1基の原発も設置してこなかったが、日本の場合、こと原発にかんしてはコスト削減のために、「憲法9条があるから原発への軍事攻撃など想定外」とみなして、支配層が率先して「平和ボケ」をあおってきた経緯があることだ。

その結果、軍事攻撃されたら容易に破壊されるタイプの原発を地上に54基も建設し、広島型原爆100万発分に相当する「死の灰」を地上に蓄えてきたわけだ。

日本の原発のテロ対策をイスラエル企業のマグナ(Magna B.S.P)社に委託しているという説もあるが、このような背景のもとで「日本のイスラエル化」を推進するとすれば、どのような結末を迎えるのかを想像する直観力が、いま切実に求められているのではないか。

・真実の共有と和解・共生を

今から93年前の1919年3月5日に、朝鮮半島に広がる3.1独立運動の報を聞きながら、孫文の良き支援者であった宮崎滔天は、こう書いた。

「朝鮮彼の如く、支那此の如く、・・・嗚呼、何らの不祥事ぞや、今や我国に一つの友邦無し。・・・罪を軍閥にのみ帰するなかれ、総て是れ国民の不明に基づくの罪なり。国民今に於いて自覚せずんば、遂に亡国あるのみ」26)。

滔天が予想したとおり、2か月後の1918年5月4日、ベルサイユ講和会議で戦勝国日本への山東省譲渡が決まったとの報道に怒った北京の大学生約3000人が、「反日デモ」を繰り広げた。いわゆる5.4運動の開始であるが、この運動は瞬くうちに各地に飛び火し、日貨排斥運動が中国全土に広がった。

日本帝国による朝鮮統治の不当性を認め、朝鮮独立運動の志士たちへの弾圧を日本政府(天皇)は公式に謝罪してほしいという見解を2012年8月14日に韓国の大統領が述べ、日本軍「慰安婦」や竹島(独島)の帰属問題とも重なって、南北朝鮮で野田内閣への批判が高まった。その1か月後の12年9月になると野田内閣が発表した尖閣諸島の国有化措置をきっかけとして、再び中国全土で日貨排斥運動の嵐が吹き荒れたことは記憶に新しい。

仮に福一から大規模な核物質の再放出が起こり、東京圏の全住民が圏外に避難する必要に迫られたとしよう。このような可能性は、今も相当の確率で存在する。東京圏には3500万人が住んでいるし、2歳未満の乳幼児とその母親、および妊婦など、遠距離避難が切実に求められる「放射能弱者」層だけで数百万人にのぼるだろう。風上の地に彼らを避難させようとすれば、結局は、私たちの父祖の故郷――2000年前に弥生人たちがやってきた朝鮮半島と台湾・中国大陸に避難させてほしいと両国に頼むしかないのではないか。

今帰属先をめぐって憎悪の炎が燃え上がっている尖閣(釣魚)列島と竹島(独島)とは、あわせても6.48平方キロしかない。ソ連に返還を求めて係争している北方4島は5036平方キロだから、面積はその0.13%、日本の国土面積と比較したばあい、その5万8000分の1にすぎない。尖閣(釣魚)・竹島(独島)問題は当面は、北方4島並みに棚上げし、父祖の出身地たる「西方浄土」の地に乳幼児と母子とを緊急避難させてもらえる関係を築いておくことのほうが大切ではないか。

今から65年前、原爆ドームの深い影を背負って、アジアの2000万の戦争犠牲者と被爆者の血と脂を墨にして、日本国憲法9条が起草されたとすれば、福一で無残に破壊された4基の原子炉の深い影を背負うことで、憲法9条が新たな生命力を獲得する時代が始まったように思われる。

(注)

1)福島県庁のホームページ内の「原発の状況」、『読売新聞』2011年3月18日。
2)『朝日新聞』2012年8月14日。
3)たとえばX-37B “Space Plane”:Still No Clear Mission,at a High Price, Union of Concerned Scientists,Nov.2012.
4)宇宙衛星の防護の弱点については藤岡惇『グローバリゼーションと戦争――宇宙と核の覇権めざすアメリカ』、サイバー戦争のしくみとリスクについては、リチャード・クラークほか(北川知子ほか訳)『世界サイバー戦争――核を越える脅威』2012年、徳間書店を参照してほしい。
5)ロジャー・クレイア(高沢市郎訳)『イラク原子炉攻撃!――イスラエル空軍秘密作戦の全貌』2007年、並木書房、247ページ。
6)『時事ドットコム』2011年5月25日付。
7)『朝日新聞』2012年5月15日。
8)ヘレン・カルディコット(岡野内 正ほか訳)『狂気の核武装大国アメリカ』2008、集英社新書。
9)「SAPIO特集―世界原発戦争とテロの交差」『SAPIO』2011年6月15日号、8-9ページ。『日本経済新聞』2012年1月16日。
10)『朝日新聞』2012年5月3日。
11)『朝日新聞』2010年4月13日。
12)『朝日新聞』2011年5月18日。
13)今井佐緒里「原発ストレステストをめぐる欧州連合の攻防」『世界』2012年6月号、204-213ページ。『朝日新聞』2011年5月26日。
14)山本拓『地下原発―共存のための選択』1992年、文明堂書店。
15)「こんなご時世なのに動き出す『地下原発議連』の思惑」『週刊新潮』2011年5月19日付け、28ページ。
16)『朝日新聞』2012年12月4日。
17)「福島第一原発にイスラエルの会社の『謎』」『週刊現代』2011年5月22日号。
18)『日本経済新聞』2012年6月9日・6月16日(夕刊)。
19)『Days Japan』2012年12月号、9ページ。『日本経済新聞』2012年11月27日。『産経新聞』2012年12月4日。
20)『共同通信』2012年6月25日。
21)『朝日新聞』2012年7月31日。
22)『朝日新聞』同上。
23)碓井静照『放射能と子ども達』2012年、ガリバー・プロダクト。
24)池田整治『原発と陰謀』2011年、講談社、25-31ページ。
25)関曠野「ヒロシマからフクシマへ」『現代思想』2011年5月号。
26)和田春樹「東北アジアの隣人と新しい関係を築こう」『世界』2011年6月号、110ページ。

※この記事はカナダ・バンクーバー在住のジャーナリスト・乗松聡子さんが運営するPeace
Philosophy Centreの翻訳記事(https://peacephilosophy.blogspot.com/2012/12/japanese-nuclear-reactors-as-possible.html)からの転載です。

 

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藤岡惇 藤岡惇

立命館大学経済学部教授。以下、立命館大学ウェブサイトの藤岡氏のプロフィールページ「研究者からのメッセージ」より。 若いころは、コミュニティの自尊と自治の能力を育むような「開発」のありかたを求めて、「米国内の第3世界」と呼ばれていた南部地域の経済開発と公民権運動の調査研究にとりくんできた。住民参画型の調査を志したので、米国の草の根NGOに随分お世話になった。その成果は、2つの著作ーー『アメリカ南部の変貌』と『サンベルト米国南部―分極化の構図』(いずれも青木書店)にまとめられている。その後、冷戦期の核戦略を主軸にした軍拡が、どのように米ソの経済を荒廃に追い込み、「冷戦の勝者はじつは日本」といった評価を生み出したかの研究に転じた。ソ連解体後に、米国がいかに「日本の経済力の封じ込め」戦略に転じ、軍事技術の「含み資産」を商業世界に開放し、経済覇権の回復に役立ててきたかを、米国の宇宙空間とサイバー空間の支配戦略を軸にして研究している。社会派エコロジストとしての視点から、人間ー自己中心主義の極ともいうべき「宇宙軍事化」の動きをどのように自然と人間を中心にした持続可能な平和経済づくりの方向に転換したらよいかについても、世界のNGOの人たちとともに研究している。毎夏日米の学生たちが、広島・長崎の地で、核の時代の意味と平和な世界づくりの道を探究しあっているが、この国際交流プログラムの世話もしてきた。1970年京都大学経済学部を卒業、経済学博士(京大)。'79年本学へ。山歩きとジョギングが趣味で、好んで比良山系を歩く。

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