【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナ戦争再々々論

安斎育郎

〇ゼレンスキー登場

ウクライナでは、 2015年 からテレビ 「 1+1 」で ウォロディミル・ ゼレンスキーが主演する政治風刺ドラマ『国民の僕 (しもべ 』が放映され 、 一介の歴史教師がふとしたことから素人政治家として大統領に当選し、権謀術数が渦巻く政界と対決する姿をユーモアを 交えて描き、大評判となりました。このドラマの絶大なる人気によって、国民の間には、現実の大統領と主人公のゼレンスキーを重ね合わせ、大統領選挙への出馬を期待する動きが起きました。

2018年、ゼレンスキーは期待に応えて 政党「国民の僕」を立ち上げ、翌年の大統領選への出馬を表明しました。 大富豪イーホル・コロモイスキーの支援を受けた彼は、ポロシェンコとの決選投票で73.2%の得票を得て当選し、実際の大統領になりました。ゼレンスキーの政党「国民の僕」は、現有議席ゼロから424議席中240議席以上 の単独過半数を占め、第1党になりました。

しかし、ウクライナが抱える経済、汚職、紛争といった難問を解決することが出来ず、支持率は下がっていきました 。ウクライナの汚職と腐敗はアフリカの発展途上国並で、腐敗認識指数( Corruption Perceptions Index )の国別ランキングでは、2021年度は122位で、エジプトやアルジェリアやフィリピンと同程度でした。軍も例外ではな く、ウクライナの新聞報道では、平均して国家予算の30%程度が汚職で消え、とくに国防予算の使い方が 酷く、ある軍事工場は100ドルの注文を受けると81ドルまでを盗んでいた と伝えられています。

親ロシア派勢力が優越しているドネツク、ルハンスク両州での内戦については、 2015年2月、 ベラルーシの首都ミンスクで行なわれたロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの首脳会談で停戦に合意 (ミンスク合意)されましたが、ゼレンスキーは 「主戦論」を唱える民族派の猛反発に直面 し、「ミンスク合意」を破って 自らも失地回復を唱えるように方針を転換しました。

世界の多くの国々がクマに襲われても果敢に戦うゼレンスキーを称賛し、我も我もと「うちに来て下さい」と招待し、褒め称えました。ゼレンスキーは「武器を与えて下さい」とアピールしていますが、和平よりも戦闘継続の道を突き進むベレンスキー大統領の方針決定の下でたくさんのウクライナ人が犠牲になりつつあります。戦争の原因は「アメリカがウクライナに N ATO 加盟を勧めたこと」であり、そのこ
とを不問にしてこの戦争をやめさせることは難しいでしょう。

〇クマの目を突いたのは誰か?

クマが暴れたら抑えなければなりませんし、ケガを負った人は手当てし、助けなければなりません。だが、クマの目を突いて暴れさせた者がいるとしたら、いや、もっと酷いことは、クマを暴れさせるために目を突いた者がいるとすれば、それこそ重犯罪人として断罪しなければならないでしょう。

NATOは2008年以来、ロシアというクマを突っつき続けてきました。クマは「痛いからやめてくれ」と言いましたが、攻撃はだんだんひどくなり、みんなで取り巻いて、「お前なんていつでもやっつけられるように傍にいつでも致命傷を与えられるハンターを雇ったからね」と脅しました。そして、ウクライナはすぐ近くの黒海で2021年 6月~7月にNATOと合同軍事演習を行い、イギリスの駆逐艦やアメリカの爆撃機など軍艦約30隻と航空機40機を参加させました。「なぜこの時期にこの場所で?」「これは挑発でなくて何でしょう?」─そう考えることは奇異なことではありません 。

ゼレンスキー大統領は2022年4月23日夜、首都キーウの地下鉄駅で記者会見し、米国のブリンケン国務長官 および オースティン国防長官と会い、さらなる 軍事支援や安全保障政策などを協議するとい いましたが、大統領は 「手ぶらでウクライナ訪問はできない。ケーキやスイーツの土産も求めていない。欲しいのは武器だ」と述べました。国民のための食料や医療ではなく、武器だと言ったのです。

世界は見通しもないままに「ウクライナの戦後」を心配しています。2022年4月7日のG7とEUの外相会合では、ウクライナ復興の名目でMSA を発動しようということで一応合意したと伝えられます。MSAはアメリカが 1951年に制定した相互安全保障法で、 自由主義諸国に対する軍事・経済等の対外援助の条件として、被援助国 に 防衛力強化を義務 づける仕組みです 。

ウクライナの閣僚がIMFと世界銀行の会合に行って 戦後復興に向けての資金提供 を 要請したようですが、これまでもすでに 西側諸国は軍事物資をはじめウクライナに総額2000兆円を超える物資を供給したとも言われます 。

英雄・ゼレンスキーは強気で支援を訴えていますが 、どこの国もこれ以上の 財政支援が難しくなっている中で、「そろそろ終わって貰わないと」という西側諸国の本音の一方で、トルコのチャグソグル外務大臣が言ったように、“いくつかの国々はウクライナ戦争が続くことを望んでいる”( Some NATO states want war in Ukraine to continue )と いう厄介な状況にあります。

ロシアが最初予定していたようなペースで戦果を収めていないと報じられていますが、ロシアは西側諸国の援助の様子を見て、この戦争が長引くことを予想してペースを落としている可能性もあります。いや、戦後を論じるのはまだ早いでしょう。

2022年3月7日 、 世界銀行理事会は、ウクライナへの追加の財政支援パッケージとして、4億8,900万ドルの回復のための融資を承認しまし た が、この緊急支援は、医療従事者の賃金、高齢者の年金、脆弱層のためのウクライナ国民の社会的保護 に不可欠なサービスを提供するためのものです。日本も、今回の支援パッケージと協調して1 億ドルを供与することになっています。

早く戦争を終わらせないと、ウクライナの人々の戦後生活の荒廃は空恐ろしいものになります。シカゴ大学のミアシャイマー教授も言う通り、そして、私も深く確信しているように、「ウクライナの中立化」こそが和平実現の切り札であり、それをアメリカが妨害すべきではないと思います。

(「2022年3月~5月ウクライナ戦争論集」より転載)

 

※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。

https://isfweb.org/recommended/page-4879/

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ