【連載】人権破壊メカニズム“知られざる核戦争”(矢ヶ﨑克馬)

第2回 小児甲状腺がんは放射線被曝による(上):「科学的」と称するデータ処理で真逆の結果を導くことができる ―原子力ムラ「専門家」を使った権力の歴史ねつ造を許してはならない―

矢ヶ﨑克馬

ここで検査の方法などを紹介する。

(検査の方法/順序)
検査はまず甲状腺エコー所見に従って A1、A2、B、C の判定を行う。
ここで、A1、A2、B、C判定は以下の基準である。
A1:のう胞、結節ともに、その存在が認められなかった状態。
A2:大きさが 20mm 以下ののう胞、又は、5mm 以下の結節が認められる。
B:大きさが 20.1mm 以上ののう胞、又は、5.1mm 以上の結節。
C:すみやかに2次検査を実施した方がよいとの判断。

その結果BないしC判定となった者が「要精査」とされ、2次検査に回される。 2次検査では詳細な超音波検査や血液検査、尿検査、細胞診を行う。第42回県民健康調査検討委員会(2021年7月26日)発表までの結果を図5にまとめた。

図5 福島県民健康調査甲状腺検査結果(崎山比早子氏提供)

 

特徴的な事柄は、今までの常識に反して、がんに判定されるまでの成長速度が早いことである。図5に示されているが、5回の検査を通じて、検出不能だった前回調査から約2年間で5.1mm以上に成長した者が計48人もいることである。これはれっきとした科学記録である。

このことが語る非常に重要な情報は、「東電事故後の小児甲状腺がんの多くは非常に短い期間で増殖し大きくなる」ということである。これはれっきとした福島県の調査によって現れた事実であり、「あり得ない」と経験主義により客観的事実を否定して片づけられるものではない。

(2)2巡目で「悪性ないし悪性疑い」と判断された71名は、1巡目での判定はA1:33名、A2;32名、B:5名未受診:1名となっている。短期間で成長した「悪性ないし悪性疑い」が多数発見された。がんが疑われる大きさまで組織が増殖することはスクリーニング効果では決して説明できない3)⑨。

しかも毎回の有病発見率が1巡目と同程度に「高率」であること自体がスクリーニング効果ではあり得ないことを物語っている。

(3)山下俊一氏グループ3)⑤はチェルノブイリ原発事故後重要な調査を行っている。原子炉事故日:1986年4月26日にすでに産まれていてヨウ素を吸い込み内部被曝をした子ども達と、チェルノブイリ原発事故後しばらくしてから生まれヨウ素を吸い込まなかった子ども達との間に小児甲状腺がんの発症率に違いがあるかどうかを調査した。それぞれの子どもを1万人程度ずつスクリーニングしている。チェルノブイリ原発事故当時に生まれていた(1986年4月26日以前出生)子ども達の結果は31人(9720人中)が甲状腺がんと判定され、生まれていなかった子ども(1987年1月以降出生)のがん判定はゼロ人(9472人中)だった。このことは明確にスクリーニングをしても被曝をしていない子どもには甲状腺がんが発生していないことを示している。
福島県での甲状腺検査結果を「スクリーニング効果」という理屈は山下氏自体が研究した結果により破綻している。

上記事実は、検査方法により検出確率が飛躍的に増大したことを理由に現場のデータを分析すること無く、放射線被曝の可能性を否定すること自体が非科学的であることを示している。同時に県民健康調査委員会が行ったデータ競りが科学的でないことを示すものである。

(以下『小児甲状腺がんは放射線被曝による(下)』に続く)

〈参考文献〉

1) ウクライナ緊急事態省:「チェルノブイリ事故から25年:将来へ向けた安全性」、2011年ウクライナ国家報告2016(京都大学原子炉実験所翻訳)
2) A.V.ヤブロコフ等:「チェルノブイリ被害の全貌」(岩波書店、2013)
3) ①http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/info/20120913_2.pdf
②福島原発事故の真実と放射能健康被害「SPEEDI甲状腺被曝調査の致命的ミスを今、暴露する!実測結果まとめ」https://www.sting-wl.com/speedi100msv.html
③Cardis etal.:Risk of thyroid cancer after exposure to 131I in childhood. J Natl Cancer Inst 97:724-732 (RS)(2006)JNCI Journal of the National Cancer Institute 98(8)
④Likhtarev et al.:Health Phys 1995 Oct;69(4):590
⑤山下俊一等: Lancet 2001 Dec 8;358(9297):1965-6. doi: 10.1016/S0140-6736(01)06971-9. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11747925/
⑥Tronko MD et al.: Thyroid carcinoma in children and adolescents in Ukraine after the Chernobyl nuclear accident: statistical data and clinicomorphologic characteristics. Cancer. 1999 Jul 1;86(1):149-56.
⑦環境省「甲状腺線量の比較」https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-03-06-26.html
⑧原子力安全委員会事務局:小児甲状腺被ばく調査に関する経緯について(2012年9月13日)https://www.iwanami.co.jp/kagaku/20120913_2.pdf
⑨第24回県民健康調査検討委員会 福島調査・甲状腺がん疑い2巡目だけで59人〜計174人 http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2059
4) ①山下俊一:「福島県における小児甲状腺超音波検査について」首相官邸 https://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g62.html
②UNSCEAR:2020報告書
5)①2019年6月3日、第13回甲状腺検査評価部会 資料1-2 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/311587.pdf
②2019年7 月 8 日:第35回検討委員会:「甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめ」
③朝日新聞(2021年3月9日)https://www.asahi.com/articles/ASP395JSWP37UGTB00H.html
④濱岡豊:福島甲状腺検査の問題点 学術の動向2020/3、p34~
6) ①Tsuda et al.:Epidemiology 27 316-(2016)、津田俊秀ら:甲状腺がんデータの分析結果、科学87(2) p.124(2017)
②松崎道幸:「福島の検診発見小児甲状腺がんの 男女比(性比)は チェルノブイリ型・放射線被ばく型に近い」
③豊福正人:「「自然発生」ではあり得ない~放射線量と甲状腺がん有病率との強い相関関係~」
https://drive.google.com/file/d/0B230m7BPwNCyMjlmdTVOdThtbEE/view
④矢ヶ﨑克馬:「甲状腺がんースクリーニング効果ではない」https://www.sting-wl.com/category/ 福島原発事故と小児甲状腺がん
⑤矢ヶ﨑克馬:「多発している小児甲状腺がんの男女比について」
https://www.sting-wl.com/yagasakikatsuma21.html
⑥“Minimum Latency & Types or Categories of Cancer” John Howard, M.D. Administrator World  Trade Center Health Program, 9.11 Monitoring and Treatment, Revision: May 1, 2013. http://www.cdc.gov/wtc/pdfs/wtchpminlatcancer2013-05-01.pdf 
7)①USSR State Committee, “The Accident at the Chernobyl Nuclear Power Plant and Its Consequences”, August 1986. ―A.
②Stohl et al.: “Atmos. Chem. Phys. Discuss.”, 11, 28319 (2011)、
③UNSCEAR (国連科学委員会) 2013 年報告書
8)ONE DECADE AFTER CHERNOBYL(1996, Vienna)
9)矢ヶ﨑克馬;隠された被曝(新日本出版、2010年)

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矢ヶ﨑克馬 矢ヶ﨑克馬

1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。

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