【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:Ⅻ ポスト冷戦の米世界戦略と戦争の起源(その3) 

成澤宗男

狙われているロシアの「分割」

実際、ブレジンスキーは1997年の『フォーリン・アフェアーズ』誌9/10月号で発表した論文「ユーラシアにとっての地政学」で、「欧州ロシア・シベリア共和国・極東共和国からなる緩やかな連合体ロシア」という名目の、ロシア三分割=解体の見通しを提示している。そして、それによってのみ最終的に「ロシア帝国復活の企てに対し永続的障害を加える」ことが可能になると主張した。(注6)

ブレジンスキーの「ロシア解体論」

 

このロシア解体論は、ブレジンスキーという名高いルッソフォビア(ロシア嫌悪症)の持ち主の妄想として片付けられない。米国下院で6月23日、「ロシアの脱植民地化:道徳的、戦略的必須条件」と題した公聴会が開かれた。

発言したのは連邦議員やシンクタンクの研究員、海外NGOの「活動家」らで、チェチェンやタタールスタン、ダゲスタンといった地域がロシアという「帝国主義」によって「植民地化」されていると次々に批判。「脱植民地化」という名目で各地域の分離主義運動を支援するよう求めたが、結局はロシア連邦の解体という狙いに落ち着く。

「近代史上最強の植民地帝国である米国が、敵対国の『帝国主義』をテーマにした公聴会を開催する」(注7)ことの滑稽さはともかく、6月23日の下院公聴会は、すでに「ロシア解体」が米国の政治アジェンダに含まれているという可能性があるのを示唆している。

そうだとすれば、現在バイデン政権とNATOが総力でウクライナを支援している代理戦争の最終ゴールも垣間見えてこよう。それが、NATOとロシアの全面戦争に発展しかねず、核の応酬という事態となる可能性も排除されないどれだけ破局的な結末をもたらす企てであるか強調するまでもないが、今こそ一連のプロセスの根底にある「ウクライナなしでは、ロシアはユーラシアの帝国ではありえない」というブレジンスキーのテーゼが問われる必要がある。

もともとこうした認識はブレジンスキーのオリジナルではなく、第一次世界大戦で帝政ロシアと戦ったヴィルヘルム2世のドイツ帝国陸軍将校や当時の地政学者の着想に負っている。

「欧州、特にドイツに対するロシアの脅威を減らすには、ウクライナ・ロシアをモスクワから完全に排除する必要がある」(注8)とするその方針はナチス第三帝国にも引き継がれたが、『巨大なチェスボード』はその20世紀後半版に等しい。

だが21世紀の現在、疑いなくユーラシアを取り巻く状況は一変した。それに伴い、『巨大なチェスボード』も時代錯誤となったと断言しうる。

劇的な世界戦略の転換へ

何よりも2014年2月のクーデター以降、ウクライナは軍事や航空機、重工業等の分野でロシアとの多くの経済関係を「切り離し」たが、これによってロシアの国力が劇的に低下した兆候はない。

しかも当時のオバマ大統領とバイデン副大統領は両国の「切り離し」には成功したものの、それがブレジンスキーの期待であったユーラシアにおける米国の戦略的優位性につながったとは言い難い。なぜなら経済(金融)力と技術力、グローバルな戦略構想の面でロシアを上回るどころか、米国の覇権すら根底から揺るがしかねない中国という巨大パワーが新たに出現したからだ。

おそらくブレジンスキーも、一世を風靡した自身の戦略書がもはや時代にそぐわなくなった事実に気付いていた形跡がある。それを示すのが、死の1年1ヶ月前に発表した「グローバルな再編成に向けて」(注9)という論文に他ならない。『巨大なチェスボード』との内容的落差は同じ著者なのかと疑わせるほど巨大で、そこには「ユーラシア」という語句すら消えている。

しかも「世界の最高権力者」であり、「唯一の、そして史上初の真のグローバルパワー」であると豪語していたはずの米国は、もはや「世界的な帝国主義国ではない」と断言。代わって「欧州を代表する国民国家になることが可能」(!)だとしたロシアと、「米国の究極の同等かつ有望なライバル」と呼ぶ中国を共に「新しいパートナー」と呼び、「協力関係の構築」を提唱している。

加えて「軍事的、イデオロギー的に一方的な結果を求めることは、長期化し自滅的な無益(self-destructive futility)をもたらすだけ」で、「永続的な紛争と疲労を伴う」と警告しているが、これこそ戦後一貫した米国の世界一極支配を目指す戦略に対するドラスティックな修正、あるいは破棄の勧告ではないのか。

だがこのブレジンスキーの「遺言」とも言うべき論文を、ワシントンの政界はもとより、外交エスタブリッシュメントの一角を構成する言論界は冷たい沈黙で応えた。

無論、ウクライナを「駒」とする代理戦争で「流血と戦争を長引かせ、ロシア軍を泥沼に引きずり込み、平和的解決を妨げるためにすべての努力を注入する」という現在のバイデン政権に至る方針は微動だにせず、「ロシアの政権打倒」(注10)という連邦解体を射程に入れた究極目標も同様だろう。

おそらく長い目で見れば、戦後米国を代表する一代のストラテジストの眼力は、この「グローバルな再編成に向けて」に凝縮されているのかもしれない。それでもブレジンスキーが敷いてしまった「ウクライナのアフガニスタン化」路線に没頭している「子分」たちは、立ち止まる気配もない。

しかしながら「自滅的な無益」というその不吉な予測が現実にでもなったら、繰り返すように人類全体の破滅に直結する恐れがあるのを、米国以外の諸国も知る必要があるだろう。

(注1)March 14, 2008「Obama: I’ve learned an immense amount from Dr. Brzezinski」(URL: https://www.youtube.com/watch?v=ASlETEx0T-I
(注2)June 26, 2022 June 26, 2022「Brzezinski’s Proxy War Playbook: “Regime Change in Moscow”」(URL: https://www.globalresearch.ca/brzezinski-proxy-war-playbook/5784601
(注3)July 2, 2014「Brzezinski: The West Should Arm Ukraine」(URL: https://www.atlanticcouncil.org/blogs/natosource/brzezinski-the-west-should-arm-ukraine/
(注4)22 March, 2022「Western media’s coverage of Ukraine war has been disgraceful, says British scholar」(URL: https://openthemagazine.com/feature/western-medias-coverage-ukraine-war-disgraceful-says-british-scholar/
(注5)August 26, 2021「Living With Brzezinski’s Mess」(URL: https://original.antiwar.com/ted_snider/2021/08/25/living-with-brzezinskis-mess/
(注6)September/October 1997「A Geostrategy for Eurasia」(URL: https://www.foreignaffairs.com/articles/asia/1997-09-01/geostrategy-eurasia
(注7)June 29, 2022「World’s Largest Imperial Power Sponsors Calls for Russia to ‘Decolonize’」(URL: https://libya360.wordpress.com/2022/06/29/worlds-largest-imperial-power-sponsors-calls-for-russia-to-decolonize/
(注8)August 29,2014「US-NATO’s Strategic Objective: The Creation of a West Slavic neo-Nazi Reich. The Separation of Ukraine from Russia」 (URL: https://www.globalresearch.ca/us-natos-strategic-objective-the-creation-of-a-west-slavic-neo-nazi-reich-the-separation-of-ukraine-from-russia/5398134
(注9)April 17,2016「Toward a Global Realignment」(URL: https://www.the-american-interest.com/2016/04/17/toward-a-global-realignment/
(注10)April 25, 2022「Ukraine Is a Pawn on the Grand Chessboard」(URL: https://original.antiwar.com/rick_sterling/2022/04/24/ukraine-is-a-pawn-on-the-grand-chessboard/

 

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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