【特集】ウクライナ危機の本質と背景

権力者たちのバトルロイヤル:第38回 マフィア国家とフロント国家

西本頑司

西側メディアから「 なぜ、 ナチス?」と疑問視されてきたが、ナチスではなく「マフィア」に置き換えれば、違和感は解消される。つまりプーチンは、「ウクライナがマフィアのフロント国家となり、ロシアに対して犯罪行為をしているために、犯罪組織を取り締まる」とアピールすれば、今よりは、国際社会の理解を得ていた可能性がある。

もとより、マフィアのフロント化した国家に対する軍事制圧は、アメリカが行なっている。1991年、パナマの独裁者・ノリエガに対し、アメリカは軍事侵攻し、ノリエガを「麻薬取締法」で逮捕し、米国内で裁いているのだ。

実際、ロシア軍は全面的な軍事行動ではなく、アゾフ連隊の拠点制圧と「逮捕」に重点を置いている。

ロシア側から見た現在のロシア・ウクライナの関係は、メキシコが麻薬カルテルのフロント国家となって、マフィアの構成員たちが反米テロを画策しているという状態に近い。メキシコでは2000年代から麻薬犯罪組織と政権の間で「内戦」状態が続いているが、メキシコ政府の親米政策ゆえにアメリカも静観している。

もし、麻薬組織が国家を乗っ取り、反米化すれば米政府は、間違いなくメキシコ国内の麻薬組織に軍事制圧を強行しよう。また西側メディアもアメリカの軍事行動を容認するのではないか。

もちろん、それをもって今回のロシアによる“侵略”が正当化されると言いたいのではない。なぜプーチン大統領は、自国でしか通用しないような「ナチス」を持ち出さず、ウクライナのマフィア支配を国際社会に説明して“極悪国家”を強調し、西側諸国にウクライナを支援しないよう要求しなかったのか、ということだ。また、どうして西側諸国は、そのマフィア支配の状態を知りながらウクライナを支援しているのか、という疑問もわく。

Vienna, Austria – March 30, 2014: A sign made up of a photo composite of Vladimir Putin and Hitler looms over protesters who have gathered in the main square in Vienna to protest Russia’s annexation of Crimea from Ukraine.

 

その理由は、プーチン大統領のロシアがマフィアを国営化してきたこと、そして、そのロシア国営マフィアによって長年、甚大な被害を受けてきたのが西側諸国だったところにある。

Man posing in the dark with a fedora hat and a trench coat, 1950s noir film style character

 

ウクライナ戦争とは、国営マフィアを使って西側諸国を長年、攻撃してきた「マフィア国家ロシア」に対し、西側諸国が、その報復としてマフィアのフロント国家となったウクライナをけしかけている……というのが、この戦争の“裏面”なのである。

それゆえにロシアもマフィアの存在を表沙汰にできず、西側メディアもウクライナのフロント国家化の実態を伝えるわけにはいかず、こうして偏向報道が繰り返されてきたのである。

・ロシア国営マフィア

ウクライナの犯罪組織をロシア軍が「取り締まる」。これは、いわばアメリカが、他国を“悪の枢軸”と名指しして攻撃してきた手法である。

しかしロシアの場合、自らマフィアを国営化して西側諸国で非合法活動を長年続けてきた以上、西側諸国が理解を示すことはない。まずはロシアのマフィアを取り締まれ、と反発しよう。

問題は、ロシア、いや、プーチン大統領が、マフィアの国営化の責任は西側にあると、こちらも反発している点なのだ。

先にも説明したよう、エリツィン時代のロシアは軍関係こそ国家が管理していたが、重要な輸出産業である資源やエネルギー企業の大半はマフィアのフロント企業となっていた。

ロシア経済そのものが「闇経済化」した結果、ロシアの国家財政は破綻し、国民の生活は困窮する。ソ連時代から、わずか10年でGDPの半分が消し飛んだほどなのだ。

ロシアを強国にするには、当然、マフィアを抑える必要がある。そう理解したプーチン大統領は、チェチェン紛争を利用し「軍」を掌握。そして大統領になると(第一期・2000年〜2004年)軍の武力という強権を使い、ロシア国内のマフィアを次々と「国営化」する。

すでにロシア経済がフロント企業を軸に回っている以上、すべてを潰した場合、経済が破綻する。それを避けるには、マフィアを取り込むしか選択肢はなかったわけだ。

こうしてプーチン大統領は、歯向かったオリガルヒを国家の強権で“不当”な逮捕・拘束する一方、自分に従ったオリガルヒとマフィアは厚遇する。その代表がマフィア最大勢力「ソルンツェフスカヤ・ブラトヴァ」であろう。

米誌フォーブスの企画「犯罪組織ランキング」(2018年度)では、6代目山口組を抑えて堂々の1位(推定収益8500億円)。そのボスであるセルゲイ・ミハイロフは、アメリカでの違法な麻薬売買などの犯罪を行なっているが、その支援にはFSB(ロシア国家保安局)が関わっていることがウィキリークスによって暴露されている。「国営マフィア」による欧米諸国への犯罪工作は「ゆすり作戦」と呼ばれ、アメリカの違法薬物取引の3割から4割はロシアンマフィアが管轄しているという。

ヨーロッパにおけるロシアンマフィアの活動拠点は200カ所以上、構成員は実に16万人に及ぶ。その被害総額は、天文学的な数値になるのは間違いなく、ロシア経済の一翼が「非合法活動による違法収入」とすらいわれている。日本でも北海道や新潟などの日本海側でロシアンマフィアが精力的に活動している。

これらは、プーチン大統領にすればソ連崩壊時の混乱と民主化で莫大な国富を西側に奪われた以上、それを「取り戻している」という認識なのだろう。

それだけに日米欧の西側諸国が、武器を紛争地帯にばらまくウクライナのマフィアを使い捨てにして、「マフィア国家ロシア」と潰し合わせているのか、と邪推したくなる。

2月24日の開戦以降、報道も含めて多くの「違和感」を覚えるのは、この戦争が「マフィア国家」と「フロント国家」というヤクザの「抗争」であり、この国際謀略を画策した西側諸国が、そうした実態を隠しているところから生じている。

いずれにせよ、戦争の発端から報道を含めて歴史に残る「愚行」と言いたくなろう。

Apartment building destroyed through war in Borodyanka (Borodianka), Ukraine

 

(月刊「紙の爆弾」2022年8月号より)

 

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西本頑司 西本頑司

1968年、広島県出身。フリージャーナリスト。

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