【連載】インタヴュー:時代を紡ぐ人々(前田朗)

第4回 幼稚園児まで差別するのですかー幼保無償化問題で差別のない施策を求める宋恵淑さんに聞くー

前田朗

・次善策を求めて

――次善策とはどういうことでしょうか。

宋――幼保無償化は2019年10月から全国で始まりました。その措置法で2019年5月に改正された子ども子育て支援法には5年後の見直しという付帯事項があり、幼保無償化を導入するが、対象外施設については別途、何らかの施策を考えるという趣旨の項目が入りました。ここに朝鮮学校をはじめとする各種学校の外国人学校幼保施設を入れられないか、と考えたのです。

――付帯事項のさらなる具体化は進みましたか。

宋――付帯事項の念頭にあったのは、日本の幼稚園類似施設です。例えば、神社仏閣の中にある小規模の幼児教育施設。あるいは大型団地の中にある認可幼稚園としての基準は満たしていない幼稚園のような施設などがこれにあたります。

――日本の幼保類似施設を念頭に置いているところに、朝鮮学校の幼保施設を入れてもらうのは、どういう手立てでしょうか。

宋――2020年度の1年をかけて、どういう施設に別途支援するかについて、「調査事業」が行われることになりました。これは国の事業ですが、実際の調査は地方自治体に委託します。その時に調査をする施設の3類型が示されました。①団地の中の施設、②神社・教会等の施設、③自然の中の施設――「森のようちえん」などです。園庭や教室がないため認可幼稚園になれないところです。

――3つの類型に外国人学校は入っていません。

宋――ただ、自治体の調査ですから、手を挙げた自治体が調査を行います。そこで朝鮮幼稚園のある自治体に「朝鮮幼稚園をはじめとする外国人学校幼稚園も調査の対象にしてほしい」と要請行動をしました。私たちが思っていた以上に多くの自治体がよい反応を示し、結果的に朝鮮幼稚園を含む15の外国人学校幼稚園が「調査事業」の対象施設に選ばれました。

それによって、「調査事業」の対象施設の3つの類型に入っていなかったけれど、4つ目として「外国人等を主たる対象とするもの」という類型があらたに入ったのです。こうして20年度に幼保無償化の対象外となった施設に対する調査が行われ、その調査を経て、21年度より、幼保無償化の対象とならなかった施設に対する「支援事業」が始まりました。

――その対象に、外国人学校幼稚園も入ったわけですね。

宋――はい。そうです。実は20年度の調査には縛りがあって、自治体から何らかの財政的支援が出ている施設だけが調査対象とされました。高校無償化からの朝鮮高校除外を契機に朝鮮学校に対する自治体独自の補助金を打ち切った大阪府、山口県、広島県などにある朝鮮幼稚園は、現に自治体からの補助金が出ていないという理由で、調査対象から外されてしまいました。

こうした補助金の有無によって調査対象から外されてしまった施設には、朝鮮学校だけでなく、森のようちえんなどもあります。そもそも幼保無償化は国の制度ですし、自治体からの補助金が出ていることを要件とするのはおかしいのではないかと思い、幼保無償化の対象外となった施設に対する本格的な支援を実施する際にはそうした縛りはなくしてほしいと関連省庁に訴えました。

――すでに差別されているところは、自動的にもっと差別される制度設計をしようとした。

宋――21年度の4月から始まった本格的な支援事業では、補助金が支給されているかどうかは関係ないということになりました。おかげで大阪でも、朝鮮幼稚園が「支援事業」の対象になる可能性が出てきたのでこの1年間、「支援事業」の対象にするよう要請活動を続けたところ、大阪府でも認められました。

――21年4月に一斉に始まったのですか。

宋――自治体側が手を挙げて相応の手続きを経て始まる制度なので、一斉にという訳ではありません。適用されたところと適用されないところがあります。朝鮮幼稚園は全国16都府県にあるのですが、21年度末までに10都府県で実施されています。22年度から実施される見込みのところもあります。始まった時期はズレがありますが、自治体の議会を通れば、その時点から適用されて、年度はじめの4月に遡って適用されます。

支援を受けられる施設は、国が定めた一定の要件を満たしていなければなりません。①保育従事者のうち3分の1以上が保育士や看護士などの国家資格を持っていること、②消防施設が整備されていること、③非常時における避難経路が確保されていることなどの要件があります。

――子どもたちを預かる施設として満たすべき条件ですね。

宋――この要件が明確になる前に、要件が設定されるという話を聞いて、高校無償化の時のように朝鮮学校を除外することが可能な要件を設定するのではないかと心配しましたが、幸いそれは杞憂に終わりました。

もともと幼保無償化制度は消費税増税分を財源とし、子育て世代への支援を目的としていましたから、幼保無償化やそれに付随してはじめられた「支援事業」から外国人学校幼児教育施設を除外するのはおかしいという声を聴いてもらうことができました。

――各種学校という条件と認可外保育施設であることの関係が分かりにくいのですが。

宋――各種学校は、認可外保育施設にもあたらないから対象にならないという話がありましたが、認可外保育施設は届け出制で、各種学校認可よりもハードルは低いのです。ですので、先に認可外保育施設としての届け出をし、のちに各種学校認可を得て、各種学校と認可外保育施設の「ダブル」で持っている施設がいくつもありました。ですので朝鮮幼稚園も認可外保育施設として届け出るプランもありました。

ところが、幼保無償化実施の準備過程で日本政府は各種学校の幼児教育施設からの認可外保育施設の届け出は受理しないよう、各都道府県に通知を出しました。各種学校と認可外保育施設の「ダブル」取得をできないようにしたのです。

――話がどんどんややこしくなります。

宋――はい。差別したり、ごまかしたりせずに、ストレートに認めてくれれば何も問題ないのに、朝鮮学校を認めたくないから、どこかで除外しようとする。そうすると他の学校にも関連するので、矛盾が出て来るんです。矛盾を侵してでも何が何でも朝鮮学校を排除しようとする。矛盾が出たら、説明ができなくなります。

2019年11月2日

 

・差別のない外国人学校法制を

――宋さんも朝鮮幼稚園の当事者です。

宋――二重の意味で当事者です。私は東京育ちで、朝鮮学校(幼稚園、初級、中級、高級学校)を経て、朝鮮大学校外国語学部を出ました。子どもが3人いますが、全員、朝鮮幼稚園に通いました。末っ子が今回の幼保無償化問題の時期に幼稚園でした。

私が高校時代は、大学受験資格問題がありました。文科省が、朝鮮高級学校卒業生に大学受験資格を認めなかったためです。私立大学は受験を認めるところが増えていましたが、国立大学はダメでした。朝鮮高級学校の生徒は日本の通信制高校にも通うという「ダブルスクール」をしなければ、大学検定試験も受けられませんでした。

大学受験資格問題が動いたのは2003年です。当初日本政府は、欧米系のインターナショナルスクール卒業生の大学受験資格を認める一方で、朝鮮学校や中華学校などのアジア系の学校の卒業生は認めないという形で押し切ろうとしました。

これに対し、アジア系の学校はもちろん、日本社会の様々な層から反対の声があがり、ついに日本政府はアジア系も含めて、民族学校・外国人学校卒業生の大学受験資格を認める弾力化措置を講じるに至りました。

それでも朝鮮学校の卒業生だけは、各大学による「個別審査」になり、差別が残っています。このことは国連の子ども権利委員会や社会権規約委員会などから批判されています。

――大学受験資格の差別解消は一歩前進しましたが、全面解決したわけではなく、火種が残っています。社会の雰囲気次第で差別が再燃する恐れがあります。最後に、いま取り組んでいることをお願いします。

宋――各種学校という縛りで、いろんなことが制約され、支援の枠の外に放り出されています。また、各種学校のなかでも朝鮮学校だけが狙い撃ちにされて露骨な差別を受けています。外国人学校の存在と意義を確認して、整備するための法制ができればよいと思います。

かつて1960~70年頃の「外国人学校法案」は外国人学校を管理し規制することが目的でしたが、そうではなく、平等を保障するための外国人学校法を制定できないかと思います。朝鮮学校差別やヘイト・スピーチが悪化している社会ですが、差別に反対する人たちと一緒に取り組んでいます。

 

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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