「資源のない国」から「自然豊かな国」へ―安藤昌益に学ぶ―(前)

中瀬勝義

4.「資源のない国」日本では、工業を中心とした国づくりは最早不可能である

資源の少ない日本は、外国から資源を購入し、良い製品をつくり、付加価値を高めて外国に販売することで国が成り立ってきた工業貿易立国である。今までは、生産性の低い農林水産業から生産性の高い工業に労働力を集中、特化した国づくりを推進してきた。

しかし、中国、インド、ブラジルをはじめ世界各国が工業化を推進している現在では、世界の産業構造が大きく変化し、日本のビジネスモデルは最早不可能になってきている。

産業の基礎素材であるとともに、国力の評価尺度にもなる粗鋼の国別生産量に注目すると、表1のように2006年から 2010年の5年間で中国は生産量を5割アップし、日本の6倍、世界で断トツである。その他にも途上国のインド、韓国、ブラジルが急成長しており、逆に日本やアメリカは減少傾向で、世界の工業生産状況は大きく変化している。

 

また、2010年の世界の自動車生産国別比較に注目すると中国が世界第1位、日本が2位、アメリカが3位、4位以下はドイツ、韓国、ブラジル、インドである。2008年の生産台数と比較すると中国、インド、ブラジルの成長が大きく、逆にアメリカ、日本、ドイツの後退が明らかになっている。

自動車は人類始まって以来の最大の発明とも言わ れ、誰もが乗りやすく、非常に便利で、生活を豊か にし、広範な開発に有効に働いてきた。日本におい ても自動車産業は際立って一人勝ちの状態だったが、自動車王国だったアメリカの自動車会社GMがトヨ タに追い付かれたように、今では中国が日本を追い越している。

このことは従来日本が世界から安い資源を購入し、付加価値の高い製品をつくり、高く売れた時代の終焉を推察させるもので、工業が安い人件費の国へ移転していることを示している。さらに、途上国のGDPが上がり、人々の生活レベルが向上すると、よりよい生活を求めて自国の資源を自国で消費する傾向が高くなるとともに、世界的な資源戦争をもたらし、資源のない日本が今後とも安い資源を国外から購入し続けることは不可能であることが推察され、抜本的な省資源・省エネルギーが不可欠である。

ちなみに環境省の「我が国の物質フロー」によると日本の年間利用資源は、15.9億トンで、輸入資源が7.6億トン、国内資源が7.8億トンで、利用資源の50%弱は国外からの輸入に頼っていることが示されている。その資源から輸出1.7億トン、蓄積純増7.5億トン、エネルギー消費及び工業プロセス排出4.9億トン、食料消費0.9億トン、廃棄物等5.8億トンが生まれていることになる。輸入資源が利用資源の略 50%もあることに驚かざるを得ない。その上、エネルギー消費及び工業プロセス排出量が4.9億トン、廃棄物等が5.8億トンもあることに留意する必要がある。

また、世界のエネルギー資源の採掘寿命は資源エネルギー 庁によると、石油が41年、天然ガスが67年、石炭が192年、ウランが85年と短いことが言われている。そのことは、従来のような外国の資源に依存した日本の国の在り方、ライフスタイルは最早ありえないということを意味している。

東條榮喜氏によると、昌益は農耕と両立する「工」は肯定するが、鉱山開発の「鉱工業」は明確に否定し、環境汚染や人命の点から鉱山開発・鉱工業に対する批判的糾弾的態度は、極めて明確で、河川鉱害(垂れ流し)・大気汚染・人体鉱毒病その他の悪循環の拡大が指摘されている。鉱工業からの資源によって成立する工業については基本的に昌益の視点で見ると問題点の多いものであり、危険な産業である。

日本のこれまでの歴史の中で、足尾銅山をはじめとした鉱毒事件、近年の四大公害事件をはじめとした各地の公害問題などは克服し、環境改善がなされてきたと言われているが、今回の福島原子力発電所の大事故によって問題が上手く解決してこなかったことを改めて思い知らされている。

福島第一原発事故は今までの最大レベルと言われてきたチェルノブイリ事故を超す大事 故であることが判明しつつある。原発は「エネルギー危機」を理由に推進されてきたが、この「危機」は、エネルギー資源の枯渇の危機ではなく、石油の浪費の上に成り立ってきた経済や社会の仕組みの危機であり、欲望を刺激し続け、豊かな生活を求めさせてきた国や企業の在り方やライフスタイルを抜本的に転換しなければならないことを意味している。

〇「『資源のない国』から『自然豊かな国』へ―安藤昌益に学ぶ―(後)」は9月24日に掲載します。

 

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中瀬勝義 中瀬勝義

1945年生まれ。東海大学海洋学部、法政大学法学部卒、首都大学東京大学院観光科学修士卒。環境調査会社で日本各地の環境アセスメント、海洋環境調査に参加。現在はNPO地域交流センター、江東エコリーダーの会、江東区政を考える会、江東5区マイナス地域防災を考える会等に参加。技術士(応用理学、建設、環境)。著書『屋上菜園エコライフ』『ゆたで楽しい海洋観光の国へ、ようこそ』(七つ森書館)。 中瀬勝義 | ちきゅう座 (chikyuza.net)  Email:k.nakase@ka.baynet.ne.jp

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