「資源のない国」から「自然豊かな国」へ―安藤昌益に学ぶ―(後)

中瀬勝義

6.「資源のない国」から「自然豊かな国」へ

前節でみられたように戦後の日本は外国の資源に依存した生活を展開してきた。しかし、それらの資源も有限であることから抜本的な国の在り方やライフスタイルを転換する必要 がある。

幸い日本は江戸時代には鎖国という外国との関係を閉じて、国内の資源のみで生 活しきてきた経験がある。当時の都市部の下肥と近郊野菜・農産物のリサイクルの資源循環型ライフスタイルは高く評価され、世界で最も清潔な都市と言われている。

ある意味その時代に戻るならば外国の資源に依存しない国の在り方が可能である。そんなことは急にはできるものではないが、徐々に転換していくことは可能ではないだろうか。

都市鳥研究家の唐沢孝一氏は、「江戸時代、浅草の浅草寺にはコウノトリが繁殖し、本所・向島の湿地帯にはトキやツル、シギの仲間などが数多く生息するなど、江戸の町とその周辺は野鳥天国さながらだった」と語っている。

しかし、昭和35年まで東京湾は広大なアサクサノリ漁場が広がっていたが、高度経済成長期に大部分の浅瀬が埋め立てられた。現在も東京都民や周辺市民の出すゴミで、毎年1平方キロメ―トル以上もの土地が生まれているが、可能な限り外国の資源に依存しない国づくりに転換し、縮小していきたい。

一度失った自然を元に戻すことは大変だが、最近川がきれいになり、鳥や魚が戻りだしていること等を考えると素晴らしかった自然を回復することは可能ではないだろうか。東京湾のアサクサノリなどの再生を行うことができれば、東京湾をはじめとして再び「自然豊かな国」を再生することが可能となる。最近、野田市を中心に「コウノトリと共生するまちづくり」プロジェクトが始まった。

兵庫県豊岡市で成功した「コウノトリ復活プロジェクト」に学び、コウノトリの餌となるカエルやドジョウや小魚などの小動物が生息できる冬水たんぼ、有機農業・小農薬農業に転換しようとした動きが関東自治体の連携で始まっている。

それは「資源のない国」から「自然豊かな国」への大きな転換を意味する胎動である。近代科学技術に基づく科学技術一辺倒の国の在り方から、古来日本が得意とする「自然と人の共生社会」づくり、安藤昌益が指摘する「法世」から「自然世」への転換の試みが始まったということではないかと期待される。

幸い日本には国土の廻りに世界でも6 番目に広い、広大な排他的経済水域(EEZ)が広がっている。最近、この海域の海底金属資源等を活用する「海洋立国」が叫ばれているが、安藤昌益に学び、海底資源等の開発ではない、環境に優しい海の利用としてマリンレジャーや海洋観光を提案したい。

江戸時代以前の日本は、海を通じて南蛮地域を中心に諸外国との関係も深く、山田長政の活躍に代表されるような海洋国家だったとも言われている。そんな時代の復活・再生を夢見たい。

昭和30年代後半からの高度経済成長期に、「新産業都市計画」として、全国各地に工業地帯をつくる計画が発表され、造成工事が始まった。既にあった京浜、中京、阪神などの工業地帯にならって開発を進めれば、各地に生産基地ができるという構想であったが、その14地点はほとんど全て失敗に終わり、港湾施設の他、発電所や石油備蓄基地以外、手のつかない広大な空き地が広がっている。

これらの海岸に面した未利用地域を海洋観光基地に活用する可能性が期待される。広大な未利用地を自然豊かな生物多様性保全地域・自然再生地域にするとともに、海洋観光のセンターとして、船遊びやマリンスポーツ、マリンレジャー、レクリエーションセンター、宿泊施設等の関連施設に活用することである。建設が途中放棄された港湾施設を観光等の多機能に転換活用し、海洋観光立国の目玉にしたい。

幸いこれらの地域の交通アクセスは地方都市に近いことなどから新しいアクセスを建設しなくても有望な地域が多い。高速道路ルートや新幹線ルートにも接続しやすい地点も多い。それらの地域は長い間放置され周辺人口も減少し、農林水産業も衰退しかけているところが多い。それら地域の活性化は重要な課題であり、これからの日本の優先課題でもある。

また、日本は、海岸線の総延長が34,700kmにも達する海洋国家である。この海岸に、約3000か所もの漁港が建設されていることはあまり知られていない。これらの各地に広がり存在している漁港の多くは水産業の減衰傾向と水産業者の高齢化・後継者不足で衰退し、その活用度は大変小さい。また、水産行政の中で建設された漁港は他の目的での活用が難しい状況にあり、漁港を抱える漁協や漁村の経営衰退は重要な課題となっている。

幸い、2001年に改訂された水産基本法には、「水産業・漁村の多面的機能」が加わり、農業や水産業がもつ多面的な機能として、経済活動主体が複数の生産物を産出し、一度にいくつもの社会的な要請に貢献していくことを目指すことになった。

従来は、水産物の安定供給に主軸を置いた政策を重視していたが、これからは、都市住民とのふれあいの場、国土の均衡ある発展への寄与など「多面的な」役割があると認識の変化がみられた。その内容は、漁村の景観等の保全とともに、多面的機能の発揮として、都市漁村交流、藻場および干潟の造成等の推進、健全なレクリエーションの場の提供、沿岸の環境保全等機能の適切な発揮に資するとされている。

このことから、漁港を活用した観光やマリンレジャーが推進され、漁業・漁村の経済的発展が期待される。漁港を含めた多機能の活用として、釣り、潮干狩り等の遊漁に加え、ヨットやダイビング等の海洋性レクリエーションの場の提供があげられる。

これらの海域を活用した「海洋観光立国」はこれからの日本の国のあり方として大変重要なキーワードではないかと考える。日本は北には流氷があり、南には世界的なサンゴ礁があり、生物多様性のホットスポット(生物多様性が高いにも関わらず、人類による破壊の危機に瀕している地域)でもあり、豊かな自然と温暖な気候、豊富な水と温泉に恵まれている。

この自然豊かな日本に、アジアを始め世界各国の方々に、長期バカンスを取っていただき、日本列島を1、2ヶ月かけてゆっくりと旅し、毎日温泉に入り、時にはマリンレジャーや太平洋船遊びを楽しんでもらうならば、観光客がみんな健康になって帰っていただける。まさに“癒しのジパング”になれるのではないだろうか。

国内的には週休3日や大型バカンスを導入し、現在の電気、石油、自動車や外国の資源に依存した産業・生活から、国内の資源に立脚した農林水産業と地域の製造業を再生・活性化した地産地消のゆとりある循環型ライフスタイルに転換する。市民農園や家庭菜園で自給自足に寄与し、農林水産エコツーリズムや内需型観光を楽しむ、「自然豊かな国」を夢見たい。

 

(参考資料)

安藤昌益研究会「安藤昌益全集八」農山漁村文化協会、1984 。

石渡博明「安藤昌益の世界」草思社、2007。

東條榮喜「互性循環世界像の成立」お茶の水書房、2011。

古倉宗治「成功する自転車まちづくり」学芸出版社、2010。

吉田太郎「200 万都市が有機野菜で自給できるわけ」築地書館、2002。

中瀬勝義「屋上菜園エコライフ」七つ森書館、2006。

中瀬勝義「海洋観光立国のすすめ」七つ森書館、2007。

中瀬勝義「海洋観光立国を夢見て」海洋政策学会、2011。

 

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中瀬勝義 中瀬勝義

1945年生まれ。東海大学海洋学部、法政大学法学部卒、首都大学東京大学院観光科学修士卒。環境調査会社で日本各地の環境アセスメント、海洋環境調査に参加。現在はNPO地域交流センター、江東エコリーダーの会、江東区政を考える会、江東5区マイナス地域防災を考える会等に参加。技術士(応用理学、建設、環境)。著書『屋上菜園エコライフ』『ゆたで楽しい海洋観光の国へ、ようこそ』(七つ森書館)。 中瀬勝義 | ちきゅう座 (chikyuza.net)  Email:k.nakase@ka.baynet.ne.jp

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