【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第48回 立ち遅れている司法制度が冤罪の温床

梶山天

桜井さんは取り調べについてこう振り返っていた。

「逮捕されたのは20歳の時。高校で勉強についていけなく中退してからは泥棒したり、人をだましたり。そんな過去があったから警察が目を付けたのでしょう。アリバイを主張したけど『お前と共犯者を見た目撃者がいる』と繰り返し否定された。なぜ、やってもいない嘘の自白をしたのか、と疑問に思うでしょうが、警察は犯人と思い込んだら『お前だ、お前だ』と攻め続ける。

いくら本当のことを言っても違うと否定される。『お前は隠しているんだ』と朝から晩まで続く。『お前が犯人だ。見た人がいる。証拠がある。早く自白しろ』と狭い部屋の中で一方的に攻められ続けられる。殴られはしない。ただ言葉で朝の9時から夜中の12時まで攻められる。それがいつまで続くかもわからないのです。

最初は警察は真実を言えば調べてくれるはずだと信じていた。でもその思いは深い絶望に変わっていった。自分の言葉が一切聴いてもらえない無力感もあるし、圧倒的な力の差がある中で『お前が犯人だ』と言われ続けられる。絶望感です。そんな状況から解放されたくて嘘の自白を始めた。

警察官の話に合わせてストーリーを進んで作っていった。蟻地獄です。町の噂で事件のことは聞いていました。家の中にタンスがたくさんあって、ワイシャツで縛られて8畳間の押し入れの前で殺されていた。自分かやったかのように話を合わせていった。細かい家の間取りは大きな見取り図を持った警察官に誘導されるがままに答えた。

日記もつけていた。本当のことを言おうか、いや、本当のことを言って死刑になるのは怖いと書いてある。警察官に『否認すると死刑になるぞ。死刑になってから助けてと言っても遅いぞ』と脅されていたからだ。結局、裁判官にも嘘の自白をしました」。

インタビューの最後には「捜査機関の取り調べは、違法捜査で犯罪だ。このような違法を捜査をさせないような厳しい法律を作るべきだ。国会議員らに働きかけて冤罪防止に尽くしたい」と述べた。

インタビューを終えた後の3人。左から金聖雄監督、桜井昌司さん、梶山ISF副編集長(於:東京・ISF編集部)

 

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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