【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

日本のアジア侵略の共犯 戦争犯罪を免責された大新聞と〝文化人〞

浅野健一

・メディアは権力構造の一角を構成している

その一方で、朝日新聞は1999年に有事法に賛成して以来、自衛隊違憲説を捨て、日米軍事同盟に賛成してきた。天皇制についても丸ごと支持し、天皇家メンバーに「陛下」「さま」を付けて報道している。89年の昭和天皇の死去の際は「天使の死」(当時の「広辞苑」)を意味する「崩御」を使った。

事件事故報道では警察がキシャクラブ(戦中の1942年に今の形になった「記者クラブ」は海外にあるpress clubとの混同を避けるためkishaclubと英訳される)で広報した被疑者・死亡被害者の実名などの個人情報を垂れ流す一方、総務省接待疑獄の主犯である菅義偉前首相の長男の菅正剛氏の実名は一度も書いていない。自民党のダミー会社と取引のある「Dappi」アカウントの所有者であるワンズクエストの社名も書かない。

朝日新聞は時折、進歩的な論調を見せ、森友学園・安倍晋三記念小學院(安倍昭恵名誉校長)の国有地売却事件を調査報道し、昨年12月16日付では、国土交通省が「建設工事統計」を改ざんしていたことをスクープするなど、評価もできるが、しょせんは「体制内の改革」「ガス抜き」である。

日本では1980年代に「鉄の六角錐」(政界・官僚・財界・大学・労組・報道)が完成したと私は見てきた。特に、権力を監視すべき大学(アカデミズム)が御用学者で占められ、報道(マスメディア企業)によるイデオロギー・世論操作が権力構造の中に組み込まれている。メディアが権力のマウスピース、広報機関として機能するだけでなく、企業メディア(公共放送NHKを含む)が権力の一部となり、尖兵となって政治経済社会をリードしている。

ところが、朝日・岩波系文化人や市民運動の革新系活動家は現代のキシャクラブメディアの犯罪性に対し、見て見ぬふりをしている。
キシャクラブメディアの新聞・通信社と放送局には労働組合がある。新聞・通信社の労組の上部団体として新聞労連、放送会社の労組には民放労連がある。出版労連なども加えて日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)という共闘組織もある。NHKには日本放送労働組合(日放労)がある。メディア企業の労組には新聞研究部などのメディア研究の組織がある。 MICの周辺には日本ジャーナリスト会議(JCJ)、マスコミ9条の会などがあり、革新系の政党・市民運動・学者とも連携している。

MIC傘下の労働者は、この9年間の安倍・菅・岸田政権で、国政を私物化し、数々の疑獄事件を起こし、人民の命と生活を破壊してきた自民党政治家の個利個略・党利党略に怒りを持って取材報道してきただろうか。黙っているのは、報道加害の共犯者になることだ。大手メディアで取材報道に従事する記者・制作担当者などはほぼ全員、労働組合に加入する労働者だ。報道に携わるメディア労働者は、自民党と電通・博報堂によるメディアジャックを許していいのか。

メディア企業の労働団体が、自分たちの「革新」路線・組織維持のために、メディア改革に消極的な守旧派と組んで記者クラブ制度を擁護し、メディア責任制度(業界横断的な報道倫理綱領の制定と報道評議会設置)に反対している。

現在のキシャクラブメディアの報道は、戦時中の大本営発表報道と変わらない。今が昔と違うのは、2000万人以上のアジア太平洋の無辜の民と310万人の日本国民の死の犠牲によってもたらされた日本国憲法があり、表現(報道)の自由があることだ。政府の方針を批判しても特別警察に検挙され、投獄されたりすることはない。

人民の知る権利にこたえる世界でも最も強い報道の自由が憲法で認められているのに、ネオ・ファシスト政府の情報を垂れ流している点では、現在の報道機関の責任はもっと重い。

・敗戦後に解散すべきだった大新聞とNHK

前述したように、GHQは日本を反共体制にするため、日本の新聞・放送の戦争責任を免責し、そのまま存続させた。天皇制や帝国大学(学制改革で新制の国立大学)もそのまま残った。京都円山公園の学徒出陣式で「天皇の赤子として戦え」と檄を飛ばす蜷川虎三京都帝大教授(後の京都府知事=社共支持)の“雄姿”を京都大学新聞で見たことがある。戦後、蜷川氏の戦争責任が語られたことはない。

当時のメディアで、解散したのは国策通信社の同盟通信だけだ。同盟通信は1945年11月に自主解散し、共同通信・時事通信・電通の3社が発足した。私は72年に共同通信記者になったが、当時は、同盟だけは戦争責任を取って解散したと思っていた。しかし、新井直之文化部長(当時。後に創価大・東京女子大教授)から「戦争責任を問われてGHQから解散命令が出るとわかって自ら解散し、3社に分割して再出発したので、そう自慢できることではない」と聞いて、がっかりした記憶がある。それでも、共同通信社が敗戦後に発足した報道機関であることは、侵略戦争の責任をとらずに、報道を続けた新聞社やNHKよりはましだと思う。

Shibuya, Tokyo, Japan – December 19, 2016: NHK: Hepburn: Nippon Hoso Kyokai, official English name: Japan Broadcasting Corporation is Japan’s national public broadcasting organization.

 

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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