【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

「自由」「民主主義」の党綱領を自ら否定、自民党・公明党は即時解散せよ

浅野健一

・山上氏の鑑定留置で消えた「供述」報道

安倍氏暗殺事件で現行犯逮捕された山上氏は7月25日から11月29日まで鑑定留置中だ。山上氏は勾留満期の7月29日を待たず、25日、鑑定のため大阪拘置所に移送された。起訴は早くても年末となる。

 

前号で書いたが、事件では山上氏の動機に関する「供述」情報が逮捕の数時間後からNHKなどで詳しく報道された。警察がメディアにリークした「供述」は、山上氏が安倍氏と統一協会の関係に関し、「繋がりがあると思い込んだ」という捏造。一方、山上氏本人がSNSに書いた文章、フリージャーナリストへ出した手紙は一次情報だ。伯父の山上東一郎元弁護士(元大阪弁護士会所属)が報道各社の取材に対し行なった説明も信頼できると思う。

山上氏の鑑定開始以降、「供述」情報が消えた。山上氏の身柄が拘置所に移ったため警察の取り調べはほとんどできなくなったからだ。

精神医学者でノンフィクション作家の野田正彰・元関西学院大学教授は私の取材に、「鑑定でひどいことにならないよう、元弁護士の伯父を通じて助言したい。鑑定で問題があれば、私も協力したい」と支援を申し出ている。

Finger pressing a button with the word beliefs intead of facts during a cognitive psychological experiment. Composite image between a hand photography and a 3D background.

 

東一郎氏は8月1日、テレビ大阪の単独インタビューに応じ、山上氏の担当弁護士から連絡が入り、「伯父や妹に申し訳ない」と話していると述べた。山上氏のために全国から現金など差し入れをする動きがあり、かなりの金額になっているという。東一郎氏は事件後、統一協会と政治家との繋がりが次々と明らかになっている点について聞かれ、「まだ表に出ていないお金の流れを明らかにしてほしい」と答えた。

その後の9日には、東一郎氏宅に1カ月身を寄せていた山上氏の母親が7日に家を出て、支援者(協会関係者)の所へ移ったと明らかにした。母親は「謝罪会見を開きたい」と東一郎氏に話したという。統一協会で田中氏が翌10日に会見し、韓国で安倍氏追悼が行なわれたのと、母親の抱え込みとは連動していると思われる。

奈良県警は逮捕直後に、山上氏の氏名・住所などを県警記者クラブに広報している。私は奈良県情報開示条例に基づき、県警捜査一課と奈良西警察署が事件発生の7月8日から14日までに記者クラブに提供した広報文の複写を入手した。

開示された複写文書によると、広報文は①被疑者の逮捕、②被害者の死亡、③解剖結果(死因)の3枚。それに、8日(刑事部長ら3人)と9日(県警本部長)に行なわれた県警の記者会見の連絡文2枚の計5枚だけだった。県警は、山上氏の「供述」に関しては、8日の会見での口頭説明以外、一度も広報していない。

・奈良弁護士会が「供述報道」批判の会長声明

奈良弁護士会(馬場智巌会長)は8月10日、記者会見を開き、「節度ある取材活動および報道姿勢」を求める会長声明(8月9日付)を発表した。

Japanese lawyer emblem

 

会長声明は、安倍氏暗殺事件について「逮捕勾留中の被疑者の取調べにおける供述が極めて大量かつ即時に報道されている」として、「報道機関の報道姿勢及びそれを許し意図的で行き過ぎたリークを行っているとも言える捜査当局の姿勢には刑事手続の根幹に触れる問題を含んでいる」「これらの報道内容が、将来裁判員として刑事裁判の審理に関わるであろう市民の目にも触れたであろうことは想像に難くない」と指摘した。

声明は最後に、「捜査当局に対しては、予断を与える恣意的な情報提供行為を止めるよう求め、報道機関に対しても、節度ある取材活動及び報道姿勢を求める」と述べている。馬場氏は、声明を出すことは被疑者の弁護人にも伝えており、声明文は奈良地検や奈良県警・警察庁にも送ったと述べた。

今回の会長声明は、捜査機関の非公式の情報漏洩が確認もせず垂れ流される実態を指摘し、取材報道従事者に改善を求めた有意義な内容だ。

Group of people, female politician confronted by journalists with microphones.

 

普通の市民が被疑者・被告人、犠牲者になると「実名」報道する記者クラブメディア企業が、今回、精神鑑定を申請した奈良地検・検察官検事、4カ月もの鑑定留置を認めた奈良地裁の裁判官、鑑定する精神科医を仮名(実名の対語)にしているのも問題だ。

「安倍氏と統一協会が繋がっていると思い込んだ」などという虚偽「供述」をメディア企業の社員記者に漏洩した「捜査関係者」、夜回り・夜討ち朝駆け取材で得た情報を垂れ流して書いている記者の署名もない。

私は17日、馬場氏に質問書を送った。「今回の会長声明を公表するに至った経緯は」「現在の奈良県警クラブ・司法クラブの幹事社を教えてほしい」「奈良県警、奈良地検、報道機関から何か反応はあったか」「山上氏の弁護人は3人で、うち2人は奈良弁護士会の刑事弁護委員会所属の国選弁護人、もう一人は私選弁護人と聞いているが、弁護人の氏名はどこかで開示されているか」「山上被疑者の4カ月の鑑定留置は必要だと思うか」等を尋ねた。

馬場氏から「回答は奈良弁護士会の常議員会に諮る必要があるため、回答期限に間に合わない」との主旨の返信を受けた。回答を待ちたい。

その後の25日、馬場氏から、山上氏の弁護人の2人が吉川雅明・小城達両弁護士だと連絡があった。

山上氏の鑑定留置を認めた裁判官の所属(裁判所か簡裁か)と氏名を聞くため、8月19日、奈良地裁(田中健治所長)に電話でファクス番号を聞くと、黒澤郁夫総務課長が対応した。

しかし、黒澤氏は「そうしたことについて、一般の方の質問には答えていない」と述べ、ファクス番号も教えない。他の報道関係者からも取材があるようで、「回答」を読み上げていた。

私が「一般の方というが、私はジャーナリスト。奈良司法記者クラブ加盟の報道機関の記者には答えるのか」と聞くと、「記者クラブには様々に対応しているが、どういう対応かも、一般の方には答えられない」と答えた。

私は「日本国憲法第15条は『すべて公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない』と規定している。『一般の人』と『一般でない記者クラブの社員記者』を分けるのは違憲ではないか」と指摘した。すると黒澤氏は「区別でも差別でもないが、一般という言葉は撤回する」と述べた。

私はまた、同日、奈良地検の工藤恭裕検事正と岸澤正樹広報官に、山上氏の鑑定留置を申請した検察官、奈良弁護士会の会長声明への回答等を質問したが、回答を拒否された。

「法の支配」「自由で開かれた民主主義の国」の裁判所・検察庁が、重大事件の被疑者の身柄について決定を下した者を秘匿するのだ。

・「統一協会系のメディアと知らなかった」はウソ

統一協会の犯罪が議論されなくなった今世紀初めから20年間にわたって教会を監視し続けてきたのが、フリージャーナリストの鈴木エイト氏だ。歴史が動くときに、その時代に欠かせない表現者が現れるものだが、今は、鈴木氏が時の人だ。鈴木氏がこの間、ずっと現場主義で教会を取材し、実態を究明してきたことに敬意を表する。

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私は共同通信千葉支局時代(1974〜81年)に、自民党議員の秘書・事務職員・県連職員などに統一協会メンバーが多数いるのを知り、関心を持っていた。防衛相になった浜田靖一氏の父親・幸一氏はその典型だった。ハマコーと呼ばれた彼は議員時代から暴力団メンバーだと千葉県警幹部は言っていた。

1984年に第1作『犯罪報道の犯罪』を出版した際、統一協会系の月刊誌『知識』から、「200万円を提供するので、浅野さんの好きな取材をして連載を書いてほしい。その中に、戸塚ヨットスクールの報道被害を必ず入れてほしい」という提案があった。私は原稿・講演を頼まれたら、応じるようにしているが、ヤクザと統一協会は受けないと決めている。

同志社大学の教授時代にも、学内に原理研があり暗躍していた。同大では入学式に学生自治会の学友会(ブント系の伝統)の会長が新入生への挨拶で、「統一協会・原理研究会と日本共産党民主青年同盟には気を付けて騙されないように」と毎年言っていた。2階席から、毎年のように「民青同盟を誹謗中傷するな」と叫ぶ男性がいた。

山上氏の安倍氏への銃撃で、自民党と協会の癒着関係が明るみに出て、国政選挙のない「黄金の3年間」が、自民党の暗黒時代になった。ジャーナリズムの力が問われている。

『知識』は今も発行されているようだ。世界平和教授アカデミーの機関誌で、他に「世界平和研究」を発行している。

カトリック中央協議会の声明によると、次のような系列紙(誌)があるとされる。〈世界日報、宗教新聞、新天地、週刊宗教、ファミリー、知識。また、次のメディア媒体も公言または報道等により、統一協会系であることが知られる(順不同)。思想新聞(機関紙)、中和新聞、ワシントンタイムズ (米国)、世界日報(韓国、日本)〉。

Newspapers

 

二階俊博元幹事長は「政治家は支持者を選べない」と居直ったが、二階氏は「過激派」「オウム」の支援も受け入れるのだろうか。

多くの自民・公明両党の議員たちが、統一協会系の雑誌・新聞を全く知らなかったと言っているのはウソだ。もし知らなかったら、その時点で政治家失格だ。私はネット検索がない38年前に調べて、統一協会の誘いを拒否した。

政治家なら、それぐらいのチェックをすべきだ。そのために、秘書や事務所スタッフがいるのではないか。

(月刊「紙の爆弾」2022年10月号より)

 

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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