【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:Ⅱ 米国によるウクライナの全面支援表明

成澤宗男

この「大統領指令117号」は、ロシアにとってさらに懸念される問題となった。訪米したウクライナ大統領のゼレンスキーが2021年9月1日、米大統領のバイデンと会談し、「米・ウクライナ戦略的パートナーシップに関する共同声明」(注1)を発表したが、そこで「大統領指令117号」が実質的に認知されていたからだ。

Russia vs Ukraine flag on cracked wall, concept of war between russia and ukraine, silhouette of soldiers on russia vs ukraine flag

 

「共同声明」の前文では、「両国は、継続するロシアの侵略に直面したウクライナの主権と領土的一体性に関するコミットメントで団結している」と強調。続いて5つあるうち最も長文の「Ⅰ.安全保障と防衛」という項目の中で、以下のように述べられている。

「ウクライナ東部の戦争やクリミアの奪取を含むロシアの侵略は、1万4000人以上のウクライナ人の命を奪ったとされ、欧州と黒海地域を不安定化させ、世界のルールに基づく秩序を脅かしている。米国は、ロシアによるクリミアの併合なるものを認めないし、これからも認めないだろう。米国は、国連憲章や国際法を基盤としたウクライナ東部のロシア主導の紛争に対する外交交渉を目指すノルマンディ・フォーマットを含む、国際的な努力に全面的な賛同を確約する」。

これでは、「大統領指令117号」の「クリミア自治共和国とセヴァストポリ市の占領回復と再統合戦略」を、暗に米国が認めたに等しい。さらにそこでは、「占領回復と再統合」がクリミアだけに留まらないことまで示唆している。

ドンバスと呼ばれるロシア系が多数を占めるウクライナ東部では、極右やネオナチが主導するクーデターが起きた直後の14年5月に、クーデターを拒否してウクライナからの分離を目指すドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)が「独立宣言」を発した。以後、現在までこれを鎮圧しようとしたウクライナ軍との間で紛争状態が続いている。

Soldier in military uniform stands on the ruins of the destroyed house. Hot spots on the planet. The concept of the fight against terrorism.

 

ミンスク2を破棄したウクライナ

これに対し政治的解決を図ったのが、15年2月11日にベラルーシのミンスクで調印された停戦協定(ミンスク2)であった。ところが「共同声明」には、「ウクライナ東部のロシア主導の紛争」が言及されながら、「ミンスク2」という用語が見当たらない。

Group of diverse caucasian hands holding “Peace” word, letters colors represents a Ukrainian flag. Composition is isolated on white.

 

ロシアは仲介した独仏やウクライナと共にミンスク2に調印したが、そこでは①2月15日からの欧州安全保障協力機構(OSCE)が監視する無条件の停戦、②最前線からの重火器の撤退、③捕虜の解放、④ウクライナにおけるドネツク・ルガンスクの大幅な自治権を認める憲法改正等々の順守義務を、紛争当事者としてのウクライナとドネツク・ルガンスク側に課せていた。

Kiev, Kyiv, Ukraine – September 18 2021: OSCE office in Ukraine

 

ところが、調印後もウクライナが特に前記の④を一切履行しないまま、「共同声明」では「領土的一体性」がことさら強調されている。ロシアはウクライナが両共和国への「自治権」付与を拒否し、米国のお墨付きでミンスク2を実質的に破棄したと見なしただろう。

実際、ウクライナは21年4月5日、「ミンスク2」の停戦合意を実行に移すためのウクライナとロシア、OSCEからなる「三者コンタクト・グループ」への参加を、「会場となるベラルーシがロシアの影響下にある」との理由で、今後拒否すると発表した。

しかも、ウクライナ国家安全保障・国防会議書記長のオレクシー・ダニーロフは今年1月31日、ミンスク2の履行は国家の「破壊」を意味すると言い出し、「すべての国民にとって、ミンスク合意を実行に移すのは不可能であるのは明白だった」(注2)と断定している。

ウクライナがミンスク2を順守しないのなら、「大統領指令117号」で示された「占領回復と再統合戦略」が、米国の同意のもとにドンバスにも適用されかねない。

 

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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