【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

復帰50年、『沖縄国会』における沖縄の民意の無視

宮城恵美子

・沖縄側の復帰要求は「即時無条件全面返還」

さて「復帰」に議論を戻そう。石川氏によると、沖縄側の復帰要求は「即時無条件全面返還」である。その方針は「1968年4月14日の『第13回復帰協定期総会』で決定された。当時は65年佐藤首相来沖を契機に議論が盛んになり、66年8月に森清総務長官は来沖して「教育権分離」を、中曽根康弘氏は米軍基地の無い宮古・八重山の『地域別特別返還論』を、67年9月佐藤首相は沖縄基地を要とした『核安保論』を、下田武三駐米大使は核付き返還論を、いずれも沖縄の民意を無視した発言が出た為に、復帰協は、長期異民族支配には「即時」を、核付き条件には「無条件」を、分離には「全面返還」を突きつけた「即時無条件全面返還」を打ち出した。これが政府の返還論に対置した復帰協の要求スローガンであった。この闘いを通して県民意識も覚醒していったと石川氏は説明している。

そして政府復帰論に琉球政府が異を唱え、基地撤去や人権保障等住民の声を網羅した文書が「建議書」である。その作成に参加した平良亀之助氏によれば、佐藤・ニクソン会談後、平良氏は、琉球政府に新設された「復帰対策室」に採用された。

Okinawa Aerial View

 

平良氏が当時を述懐して言うには、「日本政府は、アメリカの統治下琉球政府には、米軍に気兼ねして、全く介入もしなかったのに、いざ施政権返還が決まったとなるや、琉球が日本の一地方自治体であるかのように、一方的に琉球政府に指示してきた」「共同声明の数日後に調査の具体的な事項例のサンプルやフォームまで指示してきた」「①琉球政府の国・県事務分離調査②復帰時における本邦の法律適用に関する調査③沖縄及び本邦の政府関係機関の調査④標準的沖縄県の機構の調査の依頼であった」。

声明後数日で琉球政府に来たということは、返還内容が各省庁では分かっていて準備も進んでいたのではないか、と思ったという。その一方、琉球政府は共同声明が発表される4日前に3人が「復帰対策室」の辞令交付を受けただけだった。復帰に備えての具体的な動きは無かったという。「数年前から復帰時点を知らされて準備にかかっていても満足な準備はできないほどであろうに。(略)思案し始めたところへ、かねて本土側が用意してあったものを突き付けてきたのだ」「沖縄の側に考える時間を与えることは」無かったと述べている。

緊迫した中、官公労仲間らと「行政研究会」を作り議論して主席に提言する必要性と、米軍から勝ち取ってきた沖縄の自治や諸々の権利、例えば教育委員会の公選制を、復帰によって本土同様の任命制に変えるべきではない、など課題があった。

復帰前年、「沖縄国会」が開かれ、返還協定、関連法令成立が進められていた。平良氏らは法案を探しだし「行政研究会」で点検したら、納得できる内容ではなかった。正式に琉球政府「復帰措置総点検プロジェクトチーム」を設置、超短期決戦で八汐荘とゆうな荘に泊まり込んで71年10月16日の沖縄国会に間に合わせるべく、意見をまとめ主席に上申した。それが建議書である。屋良朝苗主席は自ら執筆した前文を添えて、日本政府に具申する決心をした。

「71年11月17日、主席は午後3時15分羽田に到着したが、同時刻頃、野党議員の質問最中に、自民党議員が審議を打ち切って、日本が一方的にアメリカに従うという中身の返還協定並びに復帰措置法案を強行採決したのだった」。しかも「日本の主権の及ばない琉球に、わざわざ『沖縄住民の国政参加特別法』を制定してまで、沖縄代表の議席を国会に設けたのは何だったのか。

単刀直入に言えば、復帰後に沖縄から出る不満等を想定して、『沖縄代表も出席している中で決めたこと』と言う既成事実を作りあげておく画策であったはずである」。しかも、「その特別委員会には、『国政参加』議員、安里積千代氏、瀬長亀次郎氏が質問通告も出していたのに、二氏の質問は封じられた。そして琉球政府の建議書は門前払いされた」(『うちなーの夜明けと展望』)。

私は平良氏とは同じ小禄九条の会の仲間としてお話を伺ったことがある。現在85歳、今も毅然と政府に立ち向かっている。建議書の話をする時は怒りで体が震えておられる。

平良氏は、日本政府の対応に納得しなかった屋良主席は衆参両院議長並びに総理大臣ほか全閣僚に「建議書」を渡した、つまり文書で要請しているので、今も建議書は生きていると力説している。

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宮城恵美子 宮城恵美子

独立言論フォーラム・理事。那覇市出身、(財)雇用開発推進機構勤務時は『沖縄産業雇用白書』の執筆・監修に携わり、後、琉球大学准教授(雇用環境論・平和論等)に就く。退職後、那覇市議会議員を務め、現在、沖縄市民連絡会共同世話人で、市民運動には金武湾反CTS闘争以来継続参加。著書は『若者の未來をひらく』(なんよう文庫2005年)、『沖縄のエコツーリズムの可能性』(なんよう文庫2006年)等がある。

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