戦前の〝国家警察〞が復活、警察庁「日本版FBI」を目論む警察法改正の危険
政治・閣議決定と内閣委員会での質疑
警察庁に「サイバー警察局」を新設し、そこに捜査等の警察活動を認め、その実働部隊として、一地方機関にすぎない関東管区警察局にサイバー特別捜査隊を設置、全国を管轄させる。そのような内容を含む警察法改正法案(以下、法案)が、1月27日、閣議決定された。
翌28日に衆議院に送付されて受理された法案番号は「2号」。岸田政権にとって最重要法案と位置付けられていることを意味している。
この法案を審議する内閣委員会は、全閣僚が出席しなければならない予算委員会の合間を縫って開かれ、2月2日に8人が出席し、それぞれの所信表明が行なわれた。4日と9日の2日間にわたり所信表明に対する質疑が行なわれ、内閣委員会での法案審議の環境が整えられた。
二之湯智国家公安委員長は、所信表明の中で、「良好な治安を確保」し、「日本を世界一安全な国にするため、諸施策を強力に推進」するとし、その第一に、「極めて深刻なサイバー空間の脅威に的確に対処するため、産学官の連携や外国治安機関等との協力を進め、警察の対処能力の強化等に努めます。こうした観点から、警察のサイバー事案対処能力を強化するため、警察庁にサイバー警察局を設置すること等を内容とする警察法の一部を改正する法律案を今国会に提出しています」と言明した。
内閣委員会の定例開催日である16日と18日には提案趣旨説明が行なわれ、法案審議が始まっている。野党第一党である立憲民主党は、この法案の本会議での提案趣旨説明を要求していないそうなので、そのまま委員会審議が進められてしまうのだ。なんたる弱腰かと嘆くほかはない。
法案の重大性からすれば、本会議での趣旨説明を要求し、国民の前にその問題性を明らかにすべきだろう。
・警察法改正法案の構造
法案では、サイバー事案と重大サイバー事案を規定している。5条4項6号ハでは、「情報技術を用いた不正な行為により生ずる個人の生命、身体及び財産並びに公共の安全と秩序を害し、又は害する恐れのある事案」を「サイバー事案」とし、そのうち、国・地方公共団体の機関や重要インフラ等に重大な支障が生じる事案、対処に高度な技術を要する事案、国外に所在する者であってサイバー事案を生じさせる不正な活動を行なうものが関与する事案を「重大サイバー事案」としている。
この重大サイバー事案に対処するための事務を、国家公安委員会・警察庁が所掌することとし(法案5条4項4号)、さらに、同項16号で、「重大サイバー事案に係る犯罪の捜査その他の重大サイバー事案に対処するための警察の活動に関すること」を、国家公安委員会・警察庁の任務・所掌事務とした。これにより、警察庁が重大サイバー事案についての警察活動を行なうことが可能になる。
後に詳述するとおり、これは、警察にとっての重大な方針転換である。
警察庁が重大サイバー事案の警察活動を担うことに伴い、同庁の内部部局として、法案19条でサイバー警察局を設置し、25条でその所掌事務を「サイバー事案に関する警察に関すること」と規定した。
しかし、警察庁のサイバー警察局が直接警察活動を行なうものではなく、地方機関としての関東管区警察局にその事務を分掌させ、管轄区域を全国とした(30条の2)。
「サイバー事案」か「重大サイバー事案」かを分けるのは、サイバー警察局の担当と思われる。その場合、サイバー警察局は、すべてのサイバー事案を把握することになる。つまり警察活動は、単に事件が発生した以降の捜査だけではなく、犯罪を発生させないための“予防警察”も含まれている。
するとサイバー警察局は、「情報技術を用いた不正な行為」があったのか否かをまず検討するために、当該のコンピュータに入り、検証することになるだろう。それを予防警察が行なえば、警察は、コンピュータ内の情報をすべて把握することになる。
また、このサイバー警察局は、「サイバー事案に関する警察」を所掌するので、すべてのサイバー事案を担当することとなる。したがって、2013年に13都道府県警察に設置され、18年に千葉県警が加えられて現在14都道府県警察に設置されている「サイバー攻撃特別捜査隊」の活動と、多くの部分で重複する。
そこで法案は61条の3で、重大サイバー事案での警察庁と各都道府県警察の共同処理を認め、長官の任命した者に、その指揮を委ねた。このようにして、国家公安委員会・警察庁の意向が、サイバー事案では、上から下へと反映されることになる。
「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。