【連載】週刊 鳥越俊太郎のイチオシ速報!!

第7回 難聴者になって考える/今、字幕放送の現実/ここまでとは?驚く

鳥越俊太郎

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週刊 鳥越俊太郎のイチオシ速報!!
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まずは私的な話から聞いていただきたい。

この金曜日と土曜日には伊豆にいた。

私たち夫婦も結婚して遥かなる時間を超えてきた。いろんなことがあったが、どうにか54年間を仲良く過ごしてきた。

そのための両者にとっての慰め、ということで車を駆って伊東と熱海へ向かった。

参考までに伊東の「風の薫MORI premier」と熱海の「大観荘」に宿泊した。

ともによく知られた名家で、食事が素晴らしい。以下は伊豆での話。

私だけのちょっとした事件、ことは2日目の大観荘での夕食後、部屋に戻って

何気なくテレビを見始めた。

NHK10時からの放送。

「アナザーストーリー『昭和が終わった日』天皇崩御・そのとき!テレビは何を伝えたか 診断した病理医の苦悩」

これが番組のタイトルだ。

アナザーストーリーはいつも見ているので、チャンネルは他に回さずに見続けたんだが、何かが違う。と言うより番組が何をやっているのか、全く分からなくなった。

私は正真正銘の「難聴者」である。つまり、今や私はテレビを耳で聞いて理解する健常者ではないのだ。従って出演者や登場人物の発言が字幕となって出ていないと、番組の進行が全く分からなくなってくるのだ。

こういう時先ずは自分が完全なる「聾者」になっていることを思い知る。平たく言えば「難聴者」のことだ。テレビだけではない日常の生活でも不自由がある。

妻との会話がうまく転がらない。

妻がキッチンから何か話しかけている。

しかし、私には声は聞こえるのだが、意味が分からない。私の耳がちゃんと音を拾ってくれていないのだ。

こういうことは外で、友人との食事やパーティのような集まりでは最悪の事態となる。騒がしい状況ではただでさえ聞き取りにくい友人の声が、というか言っている意味が聞き取れなくなる。

この時点で会話─意思疎通が出来なくなり、実に困ったことになる。

特に質問されているときには、答えなければならないのだが、質問の意味が不明では答えようがない。

質問されていることだけは分かるので大きい声で相手に頼む。

「ゴメン、ちょっと耳が悪いので、聞こえなかった。もう一度大きい声で言ってくれる?」

相手の友人も知らなかったので戸惑う。

「ええっ ???・・・・」

申し訳ない。ちょっと自分のことを言い過ぎたな?

私が一番言いたかったことは世の中には私のような「難聴者」は、実はゴマンと存在するということだが、そのことは案外知られていない。

高齢社会が進行するにつれ、この日本社会では年々増えている。しかし、難聴者は自分が難聴者であることをあまり他人には知られたくないので、その件については黙っている。

難聴も立派な身体障害の一つだ。

他人とのコミュニケーションが取れないのは、目が見えない、つまり視覚障害などと同じ身体障害なのだ。

しかし、難聴は周りの人たちからは見えない。誰にも気づかれない身体障害なのだ。

ここが一口に身体障害者と言っても他の障害者とは大きく異なるポイントである。

では、日本には「難聴者」はどのくらいの人数がいるんだろう?Googleで調べてみた。

補聴器工業会の調査によると日本における難聴者数は1430万人と推定されており、人口に対する比率は11.3%で世界で3番目に多いと報告されています。一方、日本の補聴器の普及率は、難聴者人口の13.5%のみとなっており、欧米諸国の普及率が30~40%であることに比べ、非常に低い水準となっています。

だそうだ。

ええっ?こんなにいるのか?正直驚1430万人とは驚いたねえ!

10人に1人は難聴者なのか。

多いなあ。

これも日本が急スピードで高齢化社会を迎えていることの反映に違いない。

ただ、前に書いたように「難聴者」の障害は誰にも気づかれない。本人が明かさない限り目に見えない、認知されない障害というのが特徴だ。

私は60歳を過ぎた頃から耳鳴りがするようになり、やがて難聴や眩暈も併発するようになった。

この時点でようやく耳鼻咽喉科に駆け込み、検査の結果立派な「メニエール病」であることが判明。他人、例えば友人との会話が成り立たなくなったのは大困りだが、最大の不自由がテレビの音声が聞き取れない、第二に困るのが妻との意思疎通。キッチンとリビングとの間に壁が出来たことだ。

先日、伊豆熱海の旅館で「アナザーストーリー」(NHK)を見た。が、全くナレーションの声、意味が私の脳に届かないのだ。

その時、私は怒った。「NHKもひどいなあ!難聴者のことを全く考えてない。こんな差別をよくやるなあ!?」

しかし、ちょっと待てよ、自宅で見ていた「アナザーストーリー」は何ら問題なかったよな?あれ?おかしいなあ?ここが静岡県だから?NHK静岡放送局が字幕を入れてないの?いやいや、そんな筈ないな。考えることしばし、一つの可能性が、テレビ受信機の型式が古いのかな?力道山の試合を電気屋さんの軒先で見て以来、誰にも負けない「テレビっ子」になってしまったと、「自負」する位のテレビ人間からすると、今回の事件は何とか結論を出さねば!!と帰宅。

何気なく「東京新聞」のラテ欄のページを見て驚いた、いやあびっくりした。

ほとんどの番組名の頭に

00「解」「字」アナザーストーリー

という具合になっており、日本のテレビはほぼ完全な「字幕」社会になっていたのだ!!さらに「東京新聞」のラテ欄の片隅に小さくこんな説明が付いていた。
もう何十年も新聞やラテ欄も見ているのに初めて気がついた。

「字」字幕放送
「2」二カ国語サービス
「多」音声多重放送
「解」目の不自由な人への解説
「 SS2」サラウンド・ステレオ
「S2S3」サブチャンネル2’3
「デ」データ放送
「双」双方向サービス
「4K」4K制作番組
「8K」8K制作番組

うわー、こんなにもあるのか??
しかし、大発見。

NHKは本当に真面目にどの番組も難聴者のために「字幕放送」にしてある。

「字」のマークだらけだ。

なのに23日の日曜日朝9時からの番組はこうなっているんだよ。

00 日曜討論 与野党論戦 円安・物価高の対策は 賃上げをどう実現する

ああ、ここには流石に「字」マークはないねえ。討論番組と聞いて思い出した、あれね!?ああ、やっぱり。

1・25朝まで生テレビ 激論 政治を斬る

これも「字」マークはなしだね。

もう一つ発見。「字」マークの番組には2通りあって、一つは収録番組の字幕。
これは人物の話と同じタイミングで字幕がついていて分かり易い。

こっちは「字幕放送」でいいのか?

思わず突っ込みたくなる放送。

生放送の場合。音声や映像と字幕のタイミングが10秒ぐらいずれるため、画面上は人物や画像と字幕が合わないことが起きる。見ていて不快感が発生する。
で色々調べていたらこんな記述が。

「あさナビ」で放送の出し方に工夫

東京2020期間に放送した「あさナビ」では放送の送出を30秒遅らせ、その間に字幕を作成し、ナレーションや画面スーパーなど放送内容にぴったり合わせた字幕放送を実現しました。聴覚に障がいのある人にもない人にも同じタイミングでストレスなく情報をお届けできるようになりました。

ふーん??こういう実験があったのね??でも現在どこのテレビ局も採用していないのは何故?

「アナザーストーリー」のような完全なる収録番組は字幕放送は効果を発揮する。しかし、ニュース番組や生のバラエティ番組などは映像と字幕のタイミングがズレて画面上はメチャクチャ混乱した映像になっている。「あさナビ」の実験は活かせないのだろうか?

「アナザーストーリー」から始まった、テレビの一つの物語でした!

(2022年10月24日)

 

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鳥越俊太郎 鳥越俊太郎

1940年3月13日生まれ。福岡県出身。京都大学卒業後、毎日新聞社に入社。大阪本社社会部、東京本社社会部、テヘラン特派員、『サンデー毎日』編集長を経て、同社を退職。1989年より活動の場をテレビに移し、「ザ・スクープ」キャスターやコメンテーターとして活躍。山あり谷ありの取材生活を経て辿りついた肩書は“ニュースの職人”。2005年、大腸がん4期発覚。その後も肺や肝臓への転移が見つかり、4度の手術を受ける。以来、がん患者やその家族を対象とした講演活動を積極的に行っている。2010年よりスポーツジムにも通うなど、新境地を開拓中。

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