【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第8回 代用監獄制度悪用、母あての手紙書きかえ

梶山天

今市事件の一審裁判の初公判は、2016年2月29日に宇都宮地方裁判所であった。42席の一般傍聴席を求めて913人が長い列をつくるなど何かと関心の高い事件だった。開廷直後に検察官が起訴状を朗読、松原里美裁判長が罪状認否を行った。

裁判長が「(起訴状の)意味はわかりますか」と問うと、勝又拓哉受刑者(当時被告)は「わかります」と答え、再び裁判長の「違っている内容はありますか」との質問に「殺していません」とはっきりと否認した。さらに「遺体遺棄現場に行きましたか」との問いにも「言ってません」という声が静まり返った法廷の中に響いた。

さあ、被告として殺人罪に問われた勝又受刑者が本当に女児を殺害したのか。連載8回目は3月3日の被告人質問における法廷での攻防を再現してみる。被告への質問は弁護人、検察官の順番で行われた。密室での取り調べで何が起きたのか。とんでもない話が被告の口から吐露される。目が離せない。

◎弁護人
——(被告への接見に来た)姉を通じて母親に手紙を渡したのはいつか?
被告:「たぶん……2月24日だった」
——どんな内容か
被告:「ひたすら謝るというか」
——どういうことを謝る手紙?
被告:最初は、今まで仕事をしていなくて、ごめんなさいというのと、殺人の調書にサインして、みんなに迷惑かけてごめんなさい」
——殺人をやったからサインしたのでは?
被告:「違います」
——やってないのにサインしたんですね
被告:「あ、はい」
——検事からどんな取り調べを受けて調書にサインしたのか
被告:「強要というか、ずっと『君、人を殺したことあるでしょ』と圧迫されて、頭がパニックになって、気がついたら後ろの看守の人が    肩を揺さぶって『調書にサインしろ』と言われて、わけも分からずサインした」
——「人を殺した」と何回も言われた?
被告:「はい」
——手紙にある「引き起こし事件」という表現は殺人を認める調書にサインしたことというふうには読めないが、どうしてそういう表現に?
被告「最初に手紙を書いたときは5枚ぐらい書いたが、看守の人から『この内容じゃ駄目』と言われて、マジックペンで黒く塗りつぶされた手紙を渡され、書き直した」
——検事に殺人を認める調書にサインするように言われたことも書いたのか?
被告:「はい」
——最初の手紙はどういうふうに書いた?
被告:「断片的だけど……、殺人の調書にサインしてしまって、みんなに迷惑かけてごめんなさいって感じで……」
——他には?
被告:「(涙声で)調書は強要されたもので、僕はしてません。けど、それ以上思い出せない」
そういうことを書いたら駄目と言われた?
被告:「駄目と言われて、黒く塗りつぶされて……(涙をぬぐう)」
——ちょっと落ち着きますか(被告が呼吸を乱す)大丈夫?
被告:「はい、大丈夫」
——どうなった?
被告:「書き直そうとして、看守に戻された黒塗りの手紙を見て、わけがわかんないから、どうしようもないとキレたら看守の人が『手伝ってあげるから書きなさい』と。それで、看守が言った文章そのまま書いた」
——最初に書いたもの、思い出せたか?
被告:「思い出せません」
——元の手紙はどうなった?
被告:「廃棄されました」
——人を殺したことを認める調書にサインしたことを謝るのと、自分で引き起こした事件を謝るのでは意味が違うが、どうして看守の言うように書いてしまったのか?
被告:「時間があまりなかった。姉がいつ手紙を取りに来るのか分からない。来た時に書き終わっていないと渡せないから」
——看守が言うように書いたと話しているが、普通、警察では取り調べと看守は分けられており、看守は取り調べ内容は知らないはず。それなのに、看守が取り調べに関する内容の入った手紙をアドバイスしたのか?
被告:「看守はいつも検事と一緒に来ていた班長の人、だからアドバイスできた」
——検事の取り調べを受ける際、看守が立ち会っていたということか?
被告:「はい」

看守によって書きかえらさせられたとする母あての手紙

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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