【連載】フランス便り(ラップ聖子)

第1回 déjà vu : 既視感

ラップ 聖子

22年2月24日にロシアによるウクライナに対する軍事侵攻を受けて、同月26日、マクロン仏大統領が言った。「欧州に戦争が戻ってきた」。当初、数日で陥落すると思われていたキーウは、ゼレンスキー大統領率いるウクライナ軍と国民のレジスタンスでなんとか持ち堪えている。

ロシア軍からの度重なる爆撃によって昇る黒煙、炎、閃光、瓦礫、疲労困憊しながらも生きようと歩き続ける難民の群れ、銃を抱える男女、怯えて泣く子供、突然日常を失う悲しみと怒りに途方に暮れる人々、涙、血、そして死。私達は今21世紀の現代に、歴史教科書の世界に巻き戻ったかのような、暴力による覇権主義を見せつけられている。

STRASBOURG, FRANCE – MAY 5, 2018: Street photography of Emmanuel Macron, candidate to the Presidency of France poster on a dedicated campaign agitation area in front of French School Lyceum

 

しかも常任理事国が核の使用をチラつかせるというおまけつきで。疫病、戦争、人類はこれらに幾度となく苦しめられ、そして乗り越えてきたはずなのに、どうやら性懲りも無く、私達はこれまでの数多の犠牲の下に得た経験や教訓や叡智に背をむけ、自らを滅ぼすリスクを一気に増大させるという最悪の選択をしたらしい。

私達は、本当に歴史から学ぶ事なく破滅の道を進んでしまうのだろうか。ウクライナ侵攻開始以降、先の戦争では見られなかった光景を挙げるとすれば、SNS(ネット交流サービス)を介して繋がる市民、特に若者の姿だろうと思う。

ロシアとウクライナというかつての兄弟国同士という事もあるのだろうが、当局が発するプロパガンダに対抗するSNSの市民の連帯が散見される。侵攻直後に私のロシアの友人達も、侵攻と戦争への反対表明をFB(フェイスブック)上にウクライナの国旗付きであげていた。ウクライナでは捕虜になったロシア兵の家族の為に安否検索サイト「200rf.com」が開設され、ロシアでは当局の厳しい取り締まりにも拘らず、反戦デモが若い世代を中心に起っている。

平和を願う世界中の人々が、自らがスマホジャーナリストとなり、反戦の連帯によって「反ロシアではなく反プーチン」を謳っている。尤も、戦況の悪化によって、この先はどうなるか分からないが。圧倒的なロシアの軍事力に追い込まれ、欧米に梯子を外されたゼレンスキー大統領の決死のスピーチは、クラウドファンディング的にというといささか不謹慎かもしれないが、兵器供与に消極的なドイツ、中立国のフィンランド、スウェーデン、そしてスイスをも動かし、足並み揃わなかった欧州を少なくともロジスティックスの面では動かした。

それもまた「共感」をツールとした繋がりに慣れているスマホ世代らしいアプローチである。国境を越えた「共感」これが今後のキーワードになるかもしれない。勿論国家によるプロパガンダと同様に、SNSによるフェイクニュースやデマの拡散には注意しなければならない。しかし敵味方関係なく、国際社会の多くの市民が平和を願い、平和を切望していること、その共感だけは確かだし、私達はそれを伝えあうツールを手にしている。

戦争なんかしている場合ではない。地球規模で解決しなければならない問題が山積みだ。年寄りの力による政治やイデオロギーやノスタルジーに、振り回され動けなくなるのは、もうウンザリだ。私達は戦争なんか望んでいないし、愚かな政治家の愚かな決断の為に死んだりなんかしたくないのだ、と。これから、ウクライナ情勢がどのように帰結するのかはまだ分からない。美しいウクライナの街がモノクロームになってしまった。それをスマホ片手に見ている私達もまた、暗く危険なデジャヴの中に居る。

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ラップ 聖子 ラップ 聖子

1982年、鹿児島出身。フランス在住。地元鹿児島とフランスを繋ぐ日本茶の輸入ビジネスを起業。日本茶販売とともにお茶と日本文化に関するワークショップを開催。一児の母。カナダ、オランダに留学経験があり、国際交流や語学が好きで、最近は母親になった事もありSDGsに関心を持っている。

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