「汚い爆弾」の本当の恐ろしさ―米軍・NATOのウクライナ戦争介入の兆候―
国際ウクライナ戦争の情勢が、ますます破局的になりつつある。より正確に記すなら、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権と、それを直接介入以外全面的に軍事支援する米国のジョン・バイデン政権が、理性からの離脱を加速化しているように思える。
現時点で、その実例としてウクライナ軍の行動に関し警戒を要する主な点は以下だ。
①ザポリージャ原発への攻撃。
②クリミア橋の爆破。
③カホフカダム(へルソン州)への攻撃。
④核物質を使用した「汚い爆弾」(Dirty Bomb)を使った偽装作戦の計画。
米国も、天然ガスの輸送海底パイプライン「ノルドストリーム(Nord Stream)」を爆破したのは疑問の余地がない。EU諸国が卑屈に沈黙しているのを幸いに平然と関与を否定しており、その謀略性は、さまざまの情報から何らかの形による米英の関与が推測されるウクライナ側の上記のような行動にも共通しているように思える。
しかもウクライナ政府の主張に沿った欧米メディア(及びそれを真に受けた日本のメディア)は、①と③についてはロシアが実行したかのような報道も見受けられ、②についても実行犯についてウクライナ政府と共に曖昧な態度を取り続けている。④はウクライナも米国(及び英仏、NATO)も全面否定だが、現時点では最も危険な動きとして警戒を要する。
このうち、ロシアが管理するザポリージャ原発は破局的事故が今後も可能性として残されている。
「(開戦時の)2月24日から現在(注=10月24日)まで、ザポリージャ原発の領域はウクライナ軍による39回の砲撃攻撃を受け、そのうち10回は無人攻撃機、29回は各種砲撃システムによるものであった。……さらにIAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長の訪問にもかかわらず、ウクライナ軍は原発を破壊する作戦を断念していない。9月1日、15日、30日、10月17日には、ウクライナ軍の特殊部隊がカホフカヤ貯水所から部隊を上陸させ、原子力発電所を制圧しようとした」(注1)。
ダム破壊と連動した原発攻撃
ウクライナが何を意図して欧州最大のザポリージャ原発を破壊しようとしたか不明な点が多いが、いかなる計算があるにせよ核の大惨事を起こして得るものなどない。ウクライナの理性の喪失ぶりが疑われるが、やはりロシアが管理しているカホフカダムも同じように危うい。
「ウクライナ軍は、(ドニエプル川の港湾都市の)ノバヤ・カホフカから5㎞のところにあるカホフカ水力発電所を砲撃している。10月21日、発電所に少なくとも5回のミサイル攻撃があったが、ロシア防空軍によって撃退された。ウクライナ側が水門を破壊すると、水が下流に押し流され、高さ5mの巨大な波が起き、(川周辺の)5㎞以上の地帯が浸水する。波はわずか2時間でケルソンに到達し、ロシア軍が使用する渡航施設を破壊し、西岸の大規模なロシア部隊が取り残され、数十の居住地も破壊される」(注2)。
ロシアのウラジミール・プーチン大統領は10月19日、「新領土」としたドネツクとルハンスク、ケルソン、ザポリージャの4州に戒厳令を敷く法令に署名したが、特にケルソン州に関しては川の氾濫で住民に大きな被害が出ることが予測されるための措置とされる。しかも「ダムの貯水池は、欧州最大の原子力発電所であるザポリージャ原発の冷却システムに使用される水を蓄えている」(注3)とされ、③の危機は①に直結している。
だが何よりも懸念されるべきは、④に他ならない。現時点で戦争が一挙にエスカレーションし、米軍やNATOが介入する事態に発展する危険性を孕んでいるからだ。ロシア側は、次のように発表している。
「ロシア国防軍放射線・化学・生物防護部隊のイゴール・キリロフ中将は10月24日、キエフ政権がウクライナの戦闘地域で大量破壊兵器を使用したとロシアを非難するため、低出量の核爆弾を爆発させる計画をしている」と述べた。
国防省は、「キエフ政権がいわゆる汚い爆弾や低収量核兵器の爆発を伴う挑発行為を計画しているという証拠をつかんでいる。挑発の目的は、ロシアがウクライナの作戦地域で大量破壊兵器を使用したと非難し、モスクワに対する信頼を損ねることを目的とした大規模な反ロシア・キャンペーンを世界中で展開することだ」と述べた。
これに先立つ10月23日、ロシアのショイグ国防相は、「英国、フランス、トルコ、米国の担当者と電話会談を行い、汚い爆弾を含むウクライナによる挑発行為の可能性について、モスクワが懸念していることに注意を促した」(注4)。
「汚い爆弾」は偽装作戦の口実か
この「汚い爆弾」は通常爆弾の周囲を放射性物質で覆い、爆発時に飛散させる。核兵器ほどの破壊力はないが、「数十キロから数百キロの範囲で放射能をまき散らし、居住を不可能にして、住民や軍隊の健康を害することを主要目的とする」(注5)とされる。
ロシア側は、「ウクライナには『汚い爆弾』を製造するための技術力と十分な放射性物質の備蓄がある」と主張。さらに「(爆発させた後の)空気中の放射性同位元素の存在は、欧州国際監視システムのセンサーによって記録され、ロシアが戦術核兵器を使用したと非難される」(注6)口実に使われかねないと懸念する。
果たしてウクライナが「汚い爆弾」の製造・投下を計画しているかどうかは別にして、米国やNATOが戦争への直接介入の機会を探っている可能性が否定できず、そのため現時点で仮に「汚い爆弾」が使用されたならその口実にされかねない恐れがある。CIAでの分析官や、米国務省テロ対策局の副局長を歴任した軍事評論家のラリー・ジョンソン氏は、以下のように警告する。
「欧米諸国は、ロシアとの戦争に消極的な国民を結集させるため、偽装作戦(false flag)をデッチあげようとしているのではないかという深刻な懸念がある。……ウクライナ軍は壊滅的損害を被っており、欧米のプロパガンダにもかかわらず、攻撃を継続することは非常に困難のはずだ。米国とそのNATO加盟諸国はそのことを認識しており、NATO軍を救援に送る口実を探している」(注7)。
ジョンソン氏もその「口実」作りが、「ロシアの支配下にある領域で(ウクライナが)汚い核兵器を爆発させる」という「偽装作戦」に他ならないと見なす。ならばザポリージャ原発やカホフカダムと共通するが、これには伏線がある。
EUのジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は10月13日、ベルギーのブルージュで開かれたEUの外交関係養成プログラムである「欧州外交アカデミー」で発言し、「ロシアによるウクライナへの核攻撃は、西側諸国からの『強力な回答』を誘発し、ロシア軍は『全滅』するだろうと述べた」(注8)という。これは、「ロシアの核攻撃」があった場合のNATOの全面参戦を宣言したに等しい。
また、英『ガーディアン』紙10月12日付(電子版)によれば、匿名のNATO高官が「ロシアによるいかなる核兵器の使用も、ロシアにとって『かつてなかった結果』をもたらすだろう」と述べ、「(ロシアに対し)多くの同盟諸国、そしてNATO自体からの物理的な反応がおそらく確実に引き起こされるだろう」(注9)と、対ロシア全面攻撃へのエスカレートを示唆した。
1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。