第1回 分断される世界
国際・それをさらに世界の分断に導いたウクライナ戦争
ただし、本稿で論じようとしているのは「一国の分断」ではなく、「世界の分断」である。ので、この内戦が国際紛争への拡大=ロシアが軍事介入するに及んで進んだ「世界の分断」をここでも論じないわけにはいかない。そして、それは、端的に図1で示される。
この図はウクライナ問題に関わって呼びかけられた対ロシアの経済制裁への同調国と非同調国を示しているが、その同調国のあまりの少なさと他の世界との分断のあまりの鮮明さが極めて対照的となっているからである。また、カナダや豪州などは面積が広く、同調国が多いように錯覚するが、同調諸国は完全に「西側」に限られ、人口で言えば11億にすぎない。
これは中国やインド一国の人口にも及ばず、同調しなかった諸国人口は合計で64億に及ぶ。11億対65億である。「西側」がいかに縮んでいるかを示す象徴的な図となっている。
ただし、もちろん、ここで経済制裁に参加しないからといって64億人の国々がロシアを支持したわけではないということも重要である。ロシアの侵攻直後に国連総会で採決された撤退要求決議に反対した(ロシアに同調した)のはベラルーシ、シリア、エリトリア、北朝鮮の4ケ国にすぎず、図1の「制裁不参加国」の殆どが棄権している。
つまり、これら4ケ国以外の諸国は別の論理で対ロシア制裁に加わらなかったということになる。したがって、この広範な地域とは何か、どういう論理で動いているかが問われなければならなくなるのである。
その点では、次の図2が参考になる。というのは、この図に見るように「西側」の結束だけは今回、かなり徹底している一方で、それ以外の地域での対応のバラバラさが目立っているからである。
つまり、「西側」を支配している論理(実はロシア・ベラルーシという旧「東側」も同じ)とそれ以外の地域を支配する論理がまったく違っていることがクリアーに示されているからである。
「西側」ではこの間、北大西洋条約機構(NATO)未加盟で中立を維持していたスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟することとなり、ついでに言うと、NATOには加盟しないものの欧州連合(EU)未加盟であったスイスがEUに加盟することとなった。
つまり、「西側の一色化」が進行したのであるが、他方のアジア、アフリカ、ラテンアメリカ地域の賛否(+棄権)分布は極めてまだらである。そして、ちょうどこの地域に中国が「一帯一路」で影響力を大きく拡大しているのである。
実のところ、この「一色化」の論理は、ウクライナ周辺のヨーロッパ地域だけではなく、北東アジアにも貫いている。過去にはトランプ大統領(当時)の米朝会談で緩んだ北東アジアの緊張関係が現在は再び緊張度を増し、今年春には韓国で「親米派」の尹錫悦氏が大統領に当選し、日本の反中世論もかつてないレベルに達している。そして、その結果、中ロ朝と日米韓台の双方の「一色化」が進行しているからである。
ので、次稿ではこの秘密を解明し、さらにいつくかの重要な含意を導きたい。請うご期待。
[1] 帝国主義の恣意的国境線引きによって異なる諸民族や諸宗教がぐちゃぐちゃに諸国に閉じ込められたアフリカの諸国もその好例である。我々はアフリカの諸国を見て、いつまで内戦をするのか、遅れた民族だと偏見に満ちた見方をしてきたが、実はこの混乱の原因は彼らにではなく西側帝国主義の側にあるのである。
関連資料:ウクライナ戦争と分断される世界(大西広・慶應義塾大学名誉教授、木村朗ISF独立言論フォーラム編集長)
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1956年京都府生まれ。京都大学大学院経済学研究科修了。立命館大学経済学部助教授、京都大学経済学研究科助教授、教授、慶應義塾大学経済学部教授を経て、現在、京都大学・慶應義塾大学名誉教授。経済学博士。数理マルクス経済学を主な研究テーマとしつつ、中国の少数民族問題、政治システムなども研究。主な著書・編著に、『資本主義以前の「社会主義」と資本主義後の社会主義』大月書店、『中国の少数民族問題と経済格差』京都大学学術出版会、『マルクス経済学(第3版)』慶應義塾大学出版会、『マルクス派数理政治経済学』慶應義塾大学出版会などがある。