[報告]小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教): 原発が原爆になる─ザポリージャ原発占拠と日本の改憲─
核・原発問題・一切の戦争行為に反対する
2022年2月24日、ロシアが国境を超えてウクライナに攻め込んだ。冷戦が終結した21世紀のヨーロッパで、国家間の戦争が起きたことは多くの人の予想を超えていたであろう。日本では政府とマスコミが「ロシアが悪い」「プーチンが悪い」との情報を洪水のごとく流し、多くの日本人は「悪い奴が攻めてきたら大変だから、軍備と軍事同盟を強化しよう」との意見に誘導された。
しかし、2001年には、米国がアフガニスタンを武力攻撃し、政権を転覆させた。2003年にはイラクが大量破壊兵器を作っていると言って米国・英国連合軍がイラクを武力攻撃し、政府を転覆させた。日本も米国の尻馬に乗って自衛隊を派遣した。イラク国内をくまなく探しても大量破壊兵器はなかった。
それでも、米国・英国は一言の謝罪もしなかった。もちろん日本も謝罪していない。世界最大圧倒的な大量破壊兵器有国は米国であり、その米国から大量破壊兵器の保有を理由に非難される謂れなど、どこの国にももともとない。「武力によるいかなる現状変更にも反対」などと今、日本の政府とマスコミは言っているが、今現在、イスラエルが武力を持ってパレスチナに入植地を拡大していても、米国も日本も何も言わず、むしろイスラエルを支えている。
私は国家が軍隊を保持すること自体に反対であり、今回のロシアによるウクライナへの武力攻撃に明確に反対である。もちろん、米国によるアフガニスタンやイラクへの武力攻撃にも反対した。イスラエルによる武力をもってのパレスチナへの侵略にも反対である。すべての人間は、それぞれの場でそれぞれの歴史を背負い、かけがえのないその人の生を生きている。
どこの国にいる人もみな同じである。殺してよい人間も殺されてよい人間もただ一人として存在しない。戦争とはその人間同士が殺しあう。兵士はみな、相手の兵士は殺してもよい邪悪な存在だと刷り込まれ、殺しあう。殺される人間はもちろん悲惨だが、殺す側の人間も悲惨である。その上、近代の戦争で一番被害を受けるのは非戦闘員である庶民である。いかなる戦争も悲惨であり、どんな戦争もしてはいけない。
・原発が攻撃を受ければ打つ手がない
日本の国土面積は地球の全陸地面積の0.3%に満たない。その日本は世界一の地震国であるが、そこに世界の原発の10%以上を建ててしまった。そして、2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震に襲われ、フクシマ事故は起きた。その時点で、熔け落ちた3基の炉心には合計で広島原爆7900発分のセシウム137が存在していた。
日本政府によれば、そのうち168発分が大気中に放出されたという。炉心に存在していた量のわずか2%である。そして、その大半は偏西風によって太平洋に向かって流れ、日本の陸地に降ったのは約20%である。炉心に存在していたセシウム137の2%、そのうち20%、つまりわずか0.4%が降っただけで、東北地方、関東地方の広大な地域が「放射線管理区域」の基準を超えて汚染された。
「放射線管理区域」とは一般の人の立ち入りを禁じなければならない放射能汚染地である。しかし、あまりに広大な地域が汚染されたため、国は「原子力緊急事態宣言」を発令して、一般の人々を「放射線管理区域」に棄てた。多くの日本人はすでに忘れさせられてしまっているが、その「原子力緊急事態宣言」は11年経った今も解除できないまま続いている。そして、100年経っても解除できない。
1949年生まれで、京都大学原子炉実験所助教を2015年に定年退職。その後、信州松本市に移住。主著書は、『原発のウソ』(扶桑社新書)、『原発はいらない』『この国は原発事故から何を学んだのか』『原発ゼロ』(いずれも幻冬舎ルネッサンス新書)、『騙されたあなたにも責任がある』『脱原発の真実』(幻冬舎)、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)、『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)など多数。