【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

政党交付金の要件を満たしているのか?統一教会より「自民党の解散」こそ急務

浅野健一

・急落した内閣支持率急増した国葬反対

2012年の第2次安倍晋三政権以降、国政選挙で圧勝してきた自民党が、半世紀以上にわたり人権と民主主義を否定する宗教法人「世界平和統一家庭連合」(旧・世界基督教統一神霊協会、以下・統一教会)を政治活動で活用してきたことが明白になってきた。

 

統一教会の元信者を支援している「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)や統一教会批判を展開しているメディアは、宗教法人法に基づいて統一教会の解散命令を裁判所に請求するよう求めている。

 

しかし、それ以上に急務であるのは、自民党が法人格のある政治団体として存続できるかの検討だ。政治資金規正法が定める政治団体としての届け出、政治資金の収支の公開、団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受などで公正な活動をしているかを点検すべきだ。

自民党は2022年度、160億円の政党交付金を受給する。政党交付金の対象となる政党としての要件を満たさなくなった場合は、その政党の代表者であった者は、原則としてその日の翌日から15日以内に、解散等届を総務大臣に届け出なければならない。

自民党の国会議員・地方議員は、憲法改悪や軍拡などの反動政策を実現するため、党の綱領・規約に違反して、違法な反共集団の統一教会とズブズブの癒着関係を結んできたのだから、すでに政党要件を失っている。

安倍元首相の祖父・岸信介元首相(元A級戦犯被疑者)が、統一教会の日本での布教開始と国際勝共連合の設立に深く関わり、父の安倍晋太郎元外相も清和研究会(現安倍派)会長として関係を維持。そして第二次安倍政権の発足以降、協会との関係が公然化した。

1910年の日韓併合を国際法上は合法だったと断じ、大東亜戦争(アジア太平洋戦争)を聖戦と見なし、戦前回帰の愛国教育を進めてきた自民党が、第二次大戦で同盟を結んだ日独伊を「サタン(悪)の勢力」と位置付け、「韓国を苦しめた日本には罪があり、金銭的な償いや性的な贖罪が必要」と説く統一教会と手を結んできたのだ。

これは、自民党の党是の根幹を完全否定しており、“自由と民主主義”を掲げる保守政党として存続できない事態ではないか。

私たちが忘れてはならないのは、自民党と統一教会の癒着問題が大きな政治社会問題になったのは、山上徹也氏(11月29日まで大阪拘置所で鑑定留置中)が7月8日、安倍衆院議員を暗殺したことがきっかけだったという事実だ。なぜ、統一教会問題が忘れられてきたのかを問わねばならない。

安倍氏と彼が率いる清和研究会が統一教会票を差配してきたことも初めてわかった。文部科学省が統一教会の名称変更を2015年に認めたのはなぜか。自民党主流派の政策と統一教会の活動方針は酷似している。自公政権の夫婦別姓・ジェンダー・家族などに関する政策決定に統一教会の影響はなかったのか。疑問は膨らむばかりだ。

ところが、岸田首相は安倍氏の死後6日目の7月14日に行なわれた記者会見で、安倍氏の「国葬儀」(国葬ではなく内閣府設置法に基づく儀式という意味らしい)を実施すると表明。同22日の閣議で、9月27日に日本武道館で国葬儀を行なうと決め、大多数の反対の声を無視して強行した。

Tokyo, Japan – November 25, 2011: People in front of the entrance of Nippon Budokan. It is located in 2-3 Kitanomarukoen, Chiyoda, Tokyo, Japan. It was built for the 1964 Summer Olympics. It is a famous venue for musical events.

 

毎日新聞が9月17・18日に実施した全国世論調査で、岸田文雄内閣の支持率が前回比7ポイント減の29%を記録し、2021年10月の内閣発足後初めて30%を割り込んだ。不支持率は64%で、10ポイント増加した。また、自民党の支持率も6ポイント低下し23%だった。コロナ第7波への無策、物価高などの悪政への批判もあるが、安倍氏の国葬強行に対する批判が、支持率急降下の原因だろう。

安倍・菅義偉・岸田各政権で明るみに出たモリ・カケ・サクラ・カワイ各疑獄は、警察・検察の自公政権への忖度で、「私は何度か告発されたが、一度も事件になっていない」(安倍氏)という強弁で押し通してきたが、党の上から下までが統一教会と癒着まみれになっている問題は、時間が過ぎれば忘れられるとは思えない。

私の周辺でも、ロシア・中国・朝鮮を批判する保守的な女性(複数)が「安倍の国葬はダメ。浅野さん、頑張って反対してね」と言ってくる。「調査をと言っても、これだけ長い関係だから、調査のしようがない。自民党は、今は我慢の時」「政治家にととって、支援者の内心の問題に立ち入れない」(元時事通信の田﨑史郎氏)などという御用ジャーナリストらもいるが、自民・公明はお先真っ暗だ。これまでの疑獄とは質が違う。

・対朝鮮秘密交渉を担った井上義行参院議員

第1次安倍内閣の首相秘書官を務めた井上義行氏を、7月の参院選比例区で統一教会が応援したのも安倍氏の差配だった。井上氏は元国鉄職員で、2000年に安倍官房副長官の秘書官、2006年9月に安倍氏が首相に就任すると首相秘書官に抜擢された。

Candidate to give a street speech, Election image

 

2007年9月、内閣総辞職に伴い秘書官を退任。加計学園・千葉科学大学の客員教授などを務めた。その後、みんなの党(参院議員1期)、日本を元気にする会と渡り歩いた。2019年の参院選では落選。今年7月の参院選で16万5000票を獲得し当選した。

井上氏は2005年1月、安倍幹事長の代理人として「富士通産業所属」とウソをついて、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)にビザを申請し、対朝鮮秘密交渉を担った。

韓国のネット新聞「オーマイニュース」は同年2月18日、「日本のタカ派政治家、安倍晋三のふたつの顔『対北制裁』主張の内幕は」と題したスクープ記事を報じた。

記事に付された2枚の写真の説明は、「安倍晋三幹事長(当時)が代理人に対北朝鮮交渉を任せた委任状。右側は安倍幹事長一行の二面外交を批判した朝鮮外務省スポークスマン談話」「安倍幹事長(当時)の代理人井上義行が昨年1月16日に作成した北朝鮮ビザ申請書 富士通産業所属となっている井上の訪朝目的は『合営実務協議』と記録されている」だった。

記事は、「対北朝鮮経済制裁」を強く主張している安倍氏が朝鮮を相手に、小泉首相ではなく、「日本の次期首相は間違いなく自分なので拉致被害者家族の日本帰国は小泉首相を通さず次の首相になる自分に任せてくれ」と哀願し、「米と経済援助は要求どおりに聞き入れると言った」という事実を暴露した。この内容は日本でも「週刊現代」同年3月12日号が「安倍晋三『北朝鮮への“友好”信書』」という見出しで報じているが、ほかのメディアは全く触れなかった。

Sanctions paper card on map of Noth Korea. As background used CIA Map that are in the public domain https://www.cia.gov/library/publications/resources/cia-maps-publications/SouthKorea.html

 

・自民支持維持・国葬賛成を表明した統一教会

統一教会は教団内に「教会改革推進本部」を設置したとして9月22日、勅使河原秀行本部長と福本修也弁護士が記者会見した。勅使河原氏は冒頭、「安倍元首相の銃撃事件以降、様々な報道を通じて世間を大変お騒がせしたことを、並びに日本国政府、そして国会議員の皆様に大変なご迷惑をおかけしたことを心からお詫び申し上げる。本来、公共の福祉に資するべき宗教法人がたとえたった一人であったとしても恨みをかうということはあってはならないことだ」と頭を下げた。

 

質疑応答では、「報道特集」(TBS系)キャスターの金平茂紀氏が、自民党が統一教会との決別を宣言していることについて聞くと、勅使河原氏は「誠に残念なこと」としたうえで、「霊感商法が今でも行なわれているかのような報道、それを主導していると思える左翼弁護士の方々の影響が多分に日本国民の皆さまをミスリードしているというのが私の意見」と答えた。

福本弁護士は山上氏の母親からの献金額について、「1億円以上の献金があり、過度な献金だったと思う」と述べた。

勅使河原氏は「安倍氏の国葬についての団体としての見解は出していないが、個人的な見解になるが、安倍総理は偉大な政治家だった。丁重に国を挙げて葬儀をすることに賛成だ」と表明した。また、「これまでも選挙で、志を同じくする政治家を推薦してきた。信者が誰に投票するかは自由だ。今後も反共の立場で政治家を支援していく」と断言した。

自民党と統一教会の関係を最もよく知っているのは、統一教会だ。会見に出た金平氏らは、自民党との癒着問題にもっと切り込むべきだった。

安倍氏と統一教会の癒着を解明するには、山上氏の裁判が重要になる。私は山上氏を拘束している裁判所・検察庁の当事者の役職・氏名を取材したが、奈良地裁・地検は回答を拒否した。「法の支配」「自由で開かれた民主主義の国」の現実である。

私は9月20日、山上氏の弁護人3人のうちの2人、小城達・古川雅朗両弁護士に、山上氏の現状に関する質問書を出した。質問書の中で、「報道各社の取材に応じていないのは事実か。被疑者の言い分を代弁してメディアに情報提供する弁護人がいるが、私は、現在のような取材報道姿勢においては、弁護人は捜査段階で何も言わないことが適切だと思っている」と書いた。また、弁護人を介しての山上氏との文通、書籍の差し入れは可能か聞いた。

両弁護士は翌日、「お書きいただいているように、弁護人が報道関係者の方々に、山上氏や事件のこと等に関して何かお伝えすることは控えている状況にありますので、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。なお、お手紙や公刊物について、申し訳ありませんが、弁護人が差入れの仲介をすることは控えております」と回答した。

山上氏が拘置所で、どういう処遇を受けているか心配だ。

山上容疑者

 

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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