【連載】塩原俊彦の国際情勢を読む

ゼレンスキーの「嘘」に気付け:戦争では双方の言い分に注意を払うべきだ

塩原俊彦

ゼレンスキーの「嘘」

こうした状況にもかかわらず、ゼレンスキー大統領は公然と「嘘」をついている。11月16日に公表された彼の「テレグラム」における公式アカウント(https://t.me/V_Zelenskiy_official/4018)には、「ロシアのミサイルがポーランドを直撃した」と書かれている。

さらに、「NATOの領土にミサイルを撃ち込む……。これは集団安全保障に対するロシアのミサイル攻撃だ! これは本当に重大なエスカレーションだ。行動が必要だ」と挑発する書き込みをしている。さらに、同日のウクライナの全国共同ニュース番組でも、「私は、それが私たちのミサイルやミサイル攻撃でなかったことを疑うことは何もない」とのべたという(https://www.pravda.com.ua/eng/news/2022/11/16/7376663/)。

つまり、ウクライナ国民に対しても「嘘」をついていることになる。

ポーランド領で2022年11月15日に起きたミサイル着弾地点の様子 Фото: Polish Police Department
(出所)https://www.rbc.ru/politics/16/11/2022/637465d39a794723bce9a8cf?

 

さすがに、このままではまずいと判断したのか、NYT(https://www.nytimes.com/live/2022/11/16/world/russia-ukraine-war-news-g20#zelensky-insists-the-poland-blast-was-not-our-missile-but-asks-for-evidence-that-led-allies-to-say-it-was)は言い訳めいた記事を載せている。

「ゼレンスキー大統領は、ポーランドの爆発は『我々のミサイルではない』と主張するが、同盟国がウクライナのミサイルだという証拠を要請」というのがそのタイトルである。

記事の冒頭では、ポーランドで15日に起きた爆発事故の原因となったミサイルはロシアが発射したのではないという指摘があるにもかかわらず、ゼレンスキー氏は11月16日にロシアが発射したと主張しつづけたとしたうえで、「この立場は、ウクライナの防空ミサイルが爆発を引き起こしたとするポーランドとNATOの予備調査結果とは相容れないものである」と明確に指摘されている。

さらに、ゼレンスキー氏がウクライナの報道機関に対し、「我々のミサイルでないことは間違いない」とのべたと書かれている。ただ、その直後に、「彼は自分が間違っていた可能性を認めた」という記述がつづいている。

「公正を期したい。もし、わが国の防空ミサイルが使われたのなら、その証拠が欲しい」と語ったというのだ。しかし、いつどこでだれに対してこうした発言があったかは何も書かれていない。

ゼレンスキーのもう一つの「大嘘」

戦争を考えるとき、双方の言い分に慎重に耳を傾けることが必要になる。その典型的な例がウクライナの病院、学校、住宅などに対してなされたミサイル攻撃にかかわる話である。

今月刊行になる拙著『復讐としてのウクライナ戦争―戦争の政治哲学:それぞれの正義と復讐・報復・制裁』(社会評論社)の第3章「ゼレンスキーの復讐」にも書いたことだが、改めてここに紹介しておきたい。

世界的な人権団体として有名なアムネスティ・インターナショナル(AI)は2022年8月4日、「ウクライナ:ウクライナの戦闘戦術は一般市民を危険にさらす」(https://www.amnesty.org/en/latest/news/2022/08/ukraine-ukrainian-fighting-tactics-endanger-civilians/)というニュースリリースを公表した。

それによると、「2月に始まったロシアの侵攻を撃退したウクライナ軍が、学校や病院を含む人口の多い住宅地に基地を設置し、兵器システムを運用することによって、一般市民を危険にさらしている」という。

AIの研究者は4月から7月にかけて、数週間にわたり、ハリコフ、ドンバス、ミコライウ地域におけるロシアの空爆を調査した。この組織は、攻撃現場を視察し、生存者、目撃者、攻撃の犠牲者の親族にインタビューを行い、リモートセンシングと武器分析を実施したのである。

これらの調査を通じて、研究者は、ウクライナ軍が地域の19の町や村で、人口の多い住宅地内から攻撃を開始し、民間の建物に拠点を置いている証拠を発見したという。兵士が身を寄せたほとんどの住宅地は、前線から何キロも離れていた。

民間人を危険にさらすことのない、軍事基地や近くの密林、あるいは住宅地から離れた場所にある他の建造物など、有効な代替手段があったにもかかわらず、あえて住宅地に拠点を置いたのはなぜなのか。

AIは、「記録した事例のなかで、住宅地の民間建造物に身を寄せたウクライナ軍が、民間人に近くの建物から避難するよう求めたり支援したりしたことを知らない」とまで書いている。

つまり、ウクライナ軍は民間人をあえて危険にさらしてまでして、民間の建物や学校、病院がロシア軍によって攻撃されている情景を流し、ウクライナ人や海外の人々に反ロシア感情を煽り、復讐心を盛り上げようとしてきたのではないかという大いなる疑いが濃厚なのである。

現にAIの研究者は、ウクライナ軍が病院を事実上の軍事基地として使っているのを5カ所で目撃した。二つの町では、数十人の兵士が病院で休息し、歩き回り、食事をしていた。別の町では、兵士が病院の近くから発砲していたという。さらに、訪問した29校のうち22校で、AIの研究者は敷地内で兵士が使用しているのを見つけたか、現在または過去の軍事活動の証拠(軍服、廃棄された軍需品、軍の配給袋、軍用車両の存在など)を発見した。

国際人道法は、すべての紛争当事者に、人口密集地内またはその近くに軍事目標を設置することを可能な限り避けるよう求めている。その他、攻撃の影響から民間人を保護する義務として、軍事目標付近から民間人を排除することや、民間人に影響を与える可能性のある攻撃について効果的に警告を発することなどを規定している。

こうしたことから、ゼレンスキー氏が、学校、病院、住宅などへのロシアによるミサイル攻撃を非難したことがそのまま言葉通りに受け取ってはならないことになる。もちろん、ロシアが悪いのはたしかだが、ウクライナ軍の戦争のやり方にも相当に問題があるのである。

「君たちはどう騙されてきたのか」

そこで、12月3日に法政大学で行われる「講演『君たちはどう騙されてきたのか』:リテラシー教育の必要性(ウクライナ戦争報道を題材にして)」について紹介しておこう。

ビデオでも見られるらしいので、その場に来なくても、講演内容を知ることができるらしい。関心のある方は、https://x.gd/Gpd06にアクセスしてほしい。

案内については、https://tokyo-yuiken.jimdofree.com/%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A-%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0/にアクセスすればいい。騙されている実情や騙されないようにする方法について語りたいと考えている。

 

ISF主催公開シンポジウム(11月25日開催)『ウクライナ危機と世界秩序の転換 ~情報操作と二重基準を越えて』の申し込み

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。一連のウクライナ関連書籍によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。

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