第4回 新疆、香港および台湾(完)
国際・日本人にとっての台湾問題とは
最後に、ある意味、日本外交にとって今最も重要なイシューとなるに至っている「台湾問題」についての意見を簡単に記したい。そして、そのポイントは確かに「国」のような形をなすに至っている台湾をそのようにしてしまった原因が日本にあるということであり、そのことを忘れて日本人は発言できないということである。
実のところ、過去に沖縄とともに「流求」と呼ばれたことのある台湾は、沖縄の人々が強い親近感を持つ対象であり続けたが、それには彼らがともに「見捨てられた」歴史を持っているということによっている。沖縄は言うまでもないが、よくよく考えると台湾もまた1895年の下関条約によって本土から「見捨てられた」からである。
そして、もっと言うなら、この歴史を中国本土はもっと深刻に捉え、その「責任」たるものを感じる必要があるということになる。ので、少なくとも私に言わせれば、そうした歴史を持つ台湾を「攻める」ということがあってよいのかどうか、そのことを中国本土の人々に問いたいのである。
が、このように考えれば考えるほど、日本人たる私たちとしては、自分たちの責任がさらに重いことを知らないわけにはいかない。そして、そうしたより重い責任を有する日本人が中国に対してこの「中国本土の責任」を問えるのかどうかという問題である。
このことは沖縄問題を特別に重視されているISFにとっても重要な論点に違いない。そして、そうであるがためにこの罪深き日本人がすべきは、私たち自身が有する沖縄に対する責任を深く認識し、徹底的に現在の在り方を見直すことではないかと私は考えるのである。
現在の米軍基地問題を解決し、過去の清算を真摯に行う。そして、それを中国に示す。「中国の責任」を我々が言うのであれば、そこで求められる態度とはこういうものだと私は考えるのである。
ともかく、こうして百年以上も本土と異なる歴史を歩んだ台湾の人々はその意味で、一種、「民族」としての性格を持ちつつあり、よってここでも香港と同じく「(台湾人としての)民族主義運動」の生じる余地がある。そして、実際、2014年の「ひまわり運動」にはそういう性格が伴っていたということも重要である。
実のところ、台湾のひまわり運動を撮ったドキュメンタリー映画に「私たちの青春、台湾」というものがあり、そこにその様子が描かれているが、この運動のリーダーは、当初にはメディア独占や環境問題や学費値上げ問題といった地道な運動に携わっていた。が、なかなか盛り上がらない。
しかし、運動のテーマががらっと変わり、「反大陸」の運動となった瞬間にいきなり大規模な運動となったからである。これは香港の運動の広がりが2014年の「雨傘運動」と2019年の「反送中運動」で決定的に異なることとなったのと本質的に同じである。「民族主義」は火がつきやすい。これにはもちろん、「国内」の矛盾を覆い隠したい支配階級の戦略も関わっている。
ただし、それでも、私はこの台湾の運動は「排外主義」にまで至っていないと考える。というのは、大陸人を見つけていきなり暴行するとか、あるいは大陸系商店を破壊し尽くすといったことをしていないからでもあり、さらにはここでの運動のシンボル・ソングが「インターナショナル」であったということにもよっている。
私はこの映画「私たちの青春、台湾」を見て、かつて「天安門事件」の際に学生たちが「インターナショナル」を歌っていたことを思い出したが、これは香港の「民主派」が「インターナショナル」ではなく、「香港に栄光あれ」を歌っていたこととの対比としても重要である。この意味で、台湾の運動はやはり適度に抑制された自然なものであったと私は考えている。
ここまでの4つの小文を書くきっかけとなった私の小著『ウクライナ戦争と分断される世界』では上記の問題をより詳しく論じ、またここで書ききれなかった様々な重要な視点も提供したつもりである。
「ウクライナ」に対しても、「中国」に対しても世間の誤解は深く、よってすぐには納得してもらえない論点も多かろうと思われる。が、そうだからこそ一読をお願いしたい。
関連資料:ウイグル問題と香港問題〜少数民族問題の視点から(大西広・慶應義塾大学名誉教授、木村朗ISF独立言論フォーラム編集長)
※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
1956年京都府生まれ。京都大学大学院経済学研究科修了。立命館大学経済学部助教授、京都大学経済学研究科助教授、教授、慶應義塾大学経済学部教授を経て、現在、京都大学・慶應義塾大学名誉教授。経済学博士。数理マルクス経済学を主な研究テーマとしつつ、中国の少数民族問題、政治システムなども研究。主な著書・編著に、『資本主義以前の「社会主義」と資本主義後の社会主義』大月書店、『中国の少数民族問題と経済格差』京都大学学術出版会、『マルクス経済学(第3版)』慶應義塾大学出版会、『マルクス派数理政治経済学』慶應義塾大学出版会などがある。