【連載】鑑定漂流ーDNA型鑑定独占は冤罪の罠ー(梶山天)

第1回 足利事件①:世界標準無視のDNA型鑑定

梶山天

それだけではない。検査は1部位につき2回することになっている検査が一致しなかった部位は「不詳」と判定して二重にバンドカットするという判定基準を作った。

これは国際的に認められているものではなく、日本の警察だけの基準であって、これにより、都合の悪いバンドは恣意的にカットすることができるようになった。

それだけではなく、このピークの高さすらも電気泳動条件によって意図的に変えることができるので、正確には三重のデータの改ざんが可能になる。

なぜ、そうしたいのか、といえば警察の鑑定は真実の結果を得るためというよりむしろ、被疑者と合わない鑑定結果はできる限り握り潰すことが目的となっているからである。

このことがいかなる裁判のDNA型鑑定についても、改ざんや隠ぺいが起きうる土壌になっている。当然にこのことが冤罪を隠すために真犯人のDNA型が検出されていながらそれを隠した今市事件のDNA型鑑定を警察が鑑定不能にさせてしまった背景にあることを忘れてはならない。

しかも試料そのものは、警察の外には出ないのであるから、他の機関の検証もできない。試料も鑑定方法も警察が独占するシステムは1日も早く廃止すべきである。

確かに検査の精度が上がって、多くのデータを拾い上げる事ができるようになった半面、困ったことに捜査側に都合の悪いバンドも見えてしまう。そこで判定の基準は精度を低くして都合のいいバンドのみ選び、都合の悪いバンドが消せない場合には判定不能とする。

まったく警察の意のままにDNA型鑑定を使うことができるシステムを作り上げ、それが確立した国内基準であるかのように裁判所に流布させた。だがこれは科警研・科捜研のみが採用している独自の鑑定基準であって、国際的に認められた基準ではない」。

この事実を裁判所や多くの国民が知っているのであろうか。もともとメーカーの解析ソフトウェアには機器の性能に最も適合するように決められた検出基準があり、国際的には敢えてそれを意図的に変えて検出させるように変えることはない。

まずは機器のソフトウェアのもっとも適正な検出方法で読み取り、それを人間の目で確認するという方法をとるのは他の検査も同じである。国内外の法医学者たちはその基準を意図的に変えることなく、研究や鑑定を行うのが通例である。

しかし、科警研は都合の悪いバンドを見せないようにして、合わせたい被疑者の型のみが出るように意図的に機器の解析条件を改変し、そうして都合の悪い結果を消せない時は検出不能としてデータを隠蔽する。

こうして裁判で有罪率99.9%をほこる日本の警察、検察は、DNA型検査を自分たちの捜査に都合がいいように検査結果を変えるなどの違法な改竄を行ってでも裁判での有罪率を守ろうと躍起になっている側面が見える。

既存の大学の法医学者らが冤罪防止に目を光らせる役目を果たしてきたが、それを握り潰すために警察庁は動いた。

2016年に予算削減を理由に各大学の法医学者が解剖時に行っていたDNA型鑑定と血液型鑑定を検査項目から廃止し、代わりに全国の科捜研がそれを担うとする(ミトコンドリア型鑑定については従来通り法医学者ら嘱託)、事実上捜査機関の、DNA型鑑定独占になってしまった。

このためDNA型のデータや結果の改竄という捜査側の都合のいい検査結果で無実の人間を犯人として裁判で何の証拠もないのに実刑判決を裁判所に出させるなど真実を追求する裁判にも影響を与える由々しき事態が起きているのが現状だ。

犯罪捜査にDNA型鑑定導入を提唱した国松氏は現在の鑑定独占が冤罪の温床になっていることを実は一番嘆いている人ではないかと察する。鑑定の第三者機関は、鑑定に公平を期すためにも必要で、ここが改善されない限り、司法の闇は深まるばかりで冤罪が量産されるに違いない。

 

 

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さあ、DNAについて基本的なことからみんなで勉強してみよう。

DNAは「デオキシリボ核酸」の英語略で、人間の体の中にある遺伝子の核となる物質のことをいう。DNAは2本の鎖のようなものがねじれながら、螺旋状になっている構造だ。

DNAの個人差とは

 

鎖の内側にはアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)という4つの塩基という物質があり、「A-T」「C-G」(共に反対もある)でペアになって、2本鎖を梯子のように結び付けている。

鎖の内側には4つの塩基が延々と並んでいて、特定のDNAの部位ではこの配列に個人差があることが発見された。2つのDNAの配列を比べて同一人物かどうかを判断する手法を、DNA型鑑定と呼んでいる。

DNAの塩基配列の比較方法を最初に開発し、犯罪捜査に応用したのが英国・レスター大学の分子遺伝学者、アレック・ジェフリーズだ。その鑑定方法は「DNAフィンガープリント(指紋)法」と名付けられ、1985年に「ネイチャー」誌に発表された。

83年と86年に英国で起きた少女2人の強姦殺人事件で、ジェフリーズは現場から採取された体液を鑑定。自供して逮捕された少年とは一致せず、冤罪と分かり、後の真犯人逮捕に繋がった。

これを機に指紋に代わる画期的な個人識別法として、世界中の法医学者らがこぞって研究を始めた。しかし、この鑑定方法は再現性の問題や多量の試料が必要なことなどから、89年には中止になった。

一方、米国のキャリー・マリスが開発したPCR法は、特定の100~1,000塩基のDNAを数百万倍に増幅する技術で、現場に残る微量な試料でもこの方法なら増幅することができ、鑑定が容易にできるとあって、世界的に研究が進んだ。今では数千万倍にも増幅でき、この方法なくして鑑定はできない。

 

連載「鑑定漂流-DNA型鑑定独占は冤罪の罠-」(毎週火曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】鑑定漂流ーdna型鑑定独占は冤罪の罠ー(/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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