強化される「国民監視」体制、デジタル庁発足から一年で何が起きたか?

足立昌勝

・「マイナ健康保険証」の導入

10月13日、河野太郎デジタル担当大臣は記者会見で、2024年秋には健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに統一するとの方針を発表した。河野大臣は「マイナンバーカードはデジタル社会を作るためのパスポート」だと言う。

A news headline written in Japanese as “Abolition of health insurance cards”.

 

さらには、「運転免許証との一体化は前倒しを検討」、マイナンバーカードにより可能になるオンライン申請、マイナポータルへのログイン、コンビニ交付など「マイナンバーカードの電子証明書をスマホに搭載」、公的個人認証サービスを利用する金融機関などの事業者に、本人の同意を前提として、住所などの「基本4情報を提供するサービスの開始」を表明した。

特に細部にわたりきめ細かく環境を整備する必要がある「マイナンバーカードと健康保険証の一体化」については、医療を受ける国民、医療を提供する医療機関関係者などの理解が得られるよう丁寧に取り組んでいく必要があると説明し、「マイナンバーカードの普及、活用拡大に取り組む」と宣言した。

医療を提供する側と受ける側の同意と理解は当然であり、あえて宣言する必要のないことだ。しかし、それに触れざるを得ないのは、「一体化」の推進について、多くの国民が不安を抱いていることの証左であろう。

ここで明らかになったマイナンバーカードをめぐる経緯と今後の計画は、次のとおりである。

2016年1月 マイナンバーカードの交付開始。
2021年10月 健康保険証としての利用が本格化。
2022年3月 公金受け取り用の口座登録を開始。
2023年2月 全国転出届のオンライン化。
3月末まで ほぼ全ての国民にカードが行き渡ることを目指す。
5月11日 カード機能をスマホに搭載(当面はアンドロイド端末のみ)→開始日を今回公表。
5月16日 公的個人認証サービスを利用する金融機関に、本人の同意を前提とし、住所などの基本四情報を提供するサービスを開始→開始日を公表。
2024年秋 現行保険証を廃止しマイナ保険証に一本化→公表。
2025年3月末まで 運転免許証と一本化→前倒し検討を公表。
2025年度 在留カードと一体化。

この記者会見では、「一体化」について、多くの疑念が表明された。

①マイナカードを取得しない人が医療機関を訪れたら?→河野大臣は何も答えず、「努力したい」のみ。
②事実上の義務化になるのではないか?→「切り替えの必要がなくなり、利便性が高まる」。
③2024年秋の実現に向けた課題は?→「まずしっかり取得すること。医療機関がこれに対応できるような、システム改修が必要になる」。
④一体化はマイナカード普及のための策か?→河野大臣は質問に直接答えず、「パスポートのようなものだ」。
⑤取り残されてしまうような人たちに対してどのようなサポートをするのか?→直接答えず、「多くの方はしっかりと利用していただけると思う」。
⑥普及加速に向け、予算を含む制度的な策は?→「今度の経済対策に盛り込む予定」。
⑦カードの様式やシステムを見直す考えは?→「厚労大臣や総務大臣と相談しながら詰めていく」。
⑧iPhoneへの電子証明書搭載は行なうのか?→「それ以外については、決まり次第知らせる」。
⑨iPhoneへの搭載が大変な理由は?→答えず、「決まり次第知らせる」のみ。
⑩事実上の義務化ではないかとの批判の声への認識は?→「以前の閣議決定でも一体化を目指すということだった。理解を」。
⑪マイナカードを取得したくない人にはどう対応する?→答えず。

・国民監視で国家にとっての「安全・安心」

朝日新聞は2022年10月14日付の「時時刻刻」で、「マイナ保険証、実質義務化 河野氏、普及へ躍起」と題し、〈申請するかは自分次第―。そんな「申請主義」が大前提だったマイナンバーカードが保険証の廃止を通して、事実上、義務化されることになった。政府はなぜマイナンバーカードや一体化した「マイナ保険証」の普及を急ぐのか〉と疑念を呈した。

記事によると、8月にデジタル相に就いた河野氏は頻繁に「保険証があるからマイナンバーカードを作らない」と口にし、厚労省に対して保険証の廃止時期の前倒しを強く求める一方、

〈河野氏の「突破力」に期待する岸田文雄首相も、マイナカードの普及率について面会を重ねるたびに、「こんな数字じゃだめだ」「しっかりやってほしい」と発破をかけたという〉。

前述の記者会見で、河野大臣は2025年3月末までに予定される運転免許証との一体化についても、「前倒しできないかの検討を警察庁と進めている」と明らかにした。

保険証を廃止してマイナカードに一本化することについては、SNS上で「事実上の義務化ではないか」と批判する書き込みも多い。カードの取得はあくまで任意のものだからだ。マイナカードの活用で行政手続きが便利になるとされる一方で、他人に情報が漏れるのではないかなどの不信感から、その理解が広まっているとはいえない。

マイナ保険証は、システム上に記録された患者の受診歴や特定健診結果、薬剤情報などを確認できる。医師や薬剤師は患者の同意を得てこうした情報を閲覧でき、重複する投薬や検査の回避や慢性疾患を踏まえた治療が可能になるとして、「患者がより良い医療サービスを受けられる」と政府は説明する。

従来の保険証では初診の際、医療機関側が手作業で氏名や被保険者番号をシステムに入力していたが、これも自動化される。作業の短縮で患者側も待ち時間が減る効果が期待できるという。

しかし、批判的な論調は、マスコミに多く見ることができる。

2022年10月15日付の北海道新聞は、「『マイナ保険証』 河野氏主導で義務化 カード普及へ『劇薬』/懸念解消策には触れず」、同日の東京新聞社説も「社説・マイナ保険証 強引な義務化は許されぬ」、また、朝日新聞は社説でも「マイナ保険証 あまりに拙速、乱暴だ」と書いている。

さらに、日本医師会の松本吉郎会長は「可能かどうか非常に懸念」、立民・枝野幸男前代表は「停電時どうする? 保険証廃止は天下の愚策だ」と疑念を表明した。

なぜ政府は、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を急いでいるのであろうか。国民皆保険の日本では、健康保険証と紐づけることがカード普及の近道だ。

現在、マイナンバーカードの普及率は、総務省によれば、今年9月末時点で、49%にとどまっている。マイナカードの新規取得者にポイントを付与するという特典を与えているにもかかわらず、だ。

しかし政府の説明は、カード社会の持つ危険性には触れていない。

Smart city and communication network concept. 5G. IoT (Internet of Things). Telecommunication.

 

国民のすべてに番号を与え、すべての情報をその番号で管理しようというのがカード社会の特徴である。

1980年にOECD(経済協力開発機構)で採択されたのが、 「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」、いわゆる「OECDプライバシーガイドライン」である。

そこに含まれる個人情報の取扱いに関する基本原則(OECD8原則)の中には、個人データの収集目的を明確にし、データ利用は収集目的に合致すべきであるとする「目的明確化の原則」、データ主体(個人情報の持ち主)の同意がある場合や法律の規定による場合を除いては、収集したデータを目的以外に利用してはならないという「利用制限の原則」があり、安易な形での個人情報の合体は認められていない。

マイナンバーそのものは単なる番号なので、個性もなく、差別もないのが特徴である。しかし、マイナカードでは、すべての情報がその中に集約されてしまう。それは、「情報のマップ化」であり、国から見て適合する人としない人を選別できるようになる。

国はマイナカードの利便性を強調するが、重要なのは、マイナンバーを利用するのは国民ではなく国の側だということだ。国側にこそ、最大の利益をもたらすことになる。その意図に反するものを最初から排除できるからである。

デジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」でも、「データの利活用を促進」として「様々な分野のデータを官民を越えて連動させることが、国民の多様な幸せの実現に不可欠です。そのためのデータのオープン化(一般公開)と環境の整備に取り組みます」とし、情報を合体化することを前提としている。

これでは、デジタル庁が主張する「デジタル社会形成10原則」の「安全・安心」などとはほど遠いものである。そこでの安全・安心は、国家にとってのものであり、すべての国民、すべての住民のものではない。マイナンバーカードを利用した、個人情報の国家による統一的管理には、断固として反対し続けなければならない。

(月刊「紙の爆弾」2022年12月号より)

 

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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