シリーズ日本の冤罪㉜ 湖東記念病院事件その3:再審無罪の西山美香さんに警察・検察の違法な追い打ち

尾崎美代子

2003年に滋賀県湖東町で起きた「湖東記念病院冤罪事件」で、殺人罪で服役後に再審無罪が確定した西山美香さん(42歳)。しかし、国と県を訴えた国家賠償請求訴訟において、県(滋賀県警察本部)は「被害者を心肺停止状態にさせたのは、原告である」と美香さんを犯人視する内容の準備書面を提出してきた。

西山美香さん

 

再審無罪判決後の国賠訴訟は、原告が無罪であることを前提に、被告(国・県)が捜査や取り調べ、起訴に違法な点や過失がなかったと主張した場合にその事実を争うもの。にもかかわらず、原告をいまだに犯人視するとは前代未聞のことだ。

弁護団らの強い抗議で県の主張は撤回されたが、そこには県の本音が現れていたといえよう。

植物状態にあった患者の死亡は、通常「病死」とされるところ、第一発見者のA看護師が「人工呼吸器の管が外れていた」と嘘をついたことから、業務上過失致死事件として捜査が始まり、殺人罪の容疑で美香さんが逮捕された。

その後、彼女の供述が嘘だったこと、それを前提とした鑑定書に信用性がないことなどが判明。それでも捜査方針を変えず、美香さんを有罪に追い込んだのが、滋賀県警だ。

これまでも多くの冤罪を生み出してきた滋賀県警は、いったい何を考えているのか?

・逮捕から服役、再審無罪そして国賠訴訟へ

2003年5月、滋賀県の湖東記念病院で、植物状態に陥り人工呼吸器で命をつないでいた男性患者Tさん(当時72歳)が死亡した。

湖東記念病院

 

ところが、「管が外れていた」とA看護師が事実と異なることを言い、それを警察から聞いた鑑定医は「管の外れ等に基づく酸素供給欠乏」(窒息死)との鑑定書を作成した。そして滋賀県警は、管が外れた際に鳴るアラーム音に看護師が速やかに気づき対応すればTさんは死亡しなかったと判断し、業務上過失致死罪を視野に捜査を始めた。

しかし、A看護師も美香さんも、アラーム音を聞いたことを否定した。

1年後、美香さんを取り調べた滋賀県警の山本誠警察官(以下、山本氏)は、机の脚を蹴ったり、怒鳴るなどして美香さんを恐怖に陥れ「アラーム音を聞いた」と嘘の供述を強いた。

一方で、身の上話を親身に聞くなどし、友達の少なかった美香さんの気を引き、好意を抱かせマインドコントロール下においた。警察の見立てに沿った嘘の供述をとるためだ(美香さんは、服役中に弁護団らが行なった精神鑑定で軽度の知的障害と発達障害があることが判明、迎合しやすい傾向があることがわかっている)。

その後、実際にはアラームが鳴っていなかったことがわかり、美香さんの供述は、変更を余儀なくされた。

警察は、臨床工学技士から、管を外してもアラームが鳴らない「消音状態維持機能」があることを聞き出し、看護師すら誰も知らないその機能を、看護助手の美香さんが使って患者を殺害したという信じがたい調書を作成した。これによって大津地検は美香さんを殺人罪で起訴した。

美香さんは、刑事裁判の第2回期日で否認したが、2005年11月29日、大津地裁の長井秀典裁判長は懲役12年の実刑判決を下し、大阪高裁・若原正樹裁判長が控訴を棄却、さらに2007年、最高裁第一小法廷の泉徳治裁判長が上告を棄却し、刑が確定、美香さんは和歌山刑務所に服役した。

2010年に美香さんが申し立てた第一次再審請求は棄却されたが、2012年の第2次再審請求は、大津地裁で棄却されたものの、大阪高裁・後藤眞理子裁判長が再審開始を決定、最高裁第2小法廷・菅野博之裁判長は、検察官の特別抗告を棄却し、再審開始が確定した。

再審で有罪立証すると宣言した検察官は、その後「有罪立証は行なわない」との方針に転じ、2020年3月31日、再審無罪判決が言い渡された。

 

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尾崎美代子 尾崎美代子

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3.11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。

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