(書評)塩原俊彦著『復讐としてのウクライナ戦争:戦争の政治哲学ーそれぞれの正義と復讐・報復・制裁ー』(社会評論社、2022年11月)―現状分析と思想史的考察を繋ぐ壮大な試みー
映画・書籍の紹介・批評けれども驚くべきことに、この分野の専門家らも一般のメディアも、原因としての2014年の革命に遡って考察してきた著者のこれまでの研究成果を、ほぼ無視してきた。
他方で、実は日本にも、著者と同じく、米国・NATOのウクライナへの介入を重く見て、欧米政府・メディアによる情報操作の弊害を意識した上で、今回の戦争を多数派とは異なる視点で論じている著作が、少数ながら存在する。
例えばいずれも戦争勃発以降に出た著作として、寺島隆吉氏の『ウクライナ問題の正体1 アメリカとの情報戦に打ち克つために』『ウクライナ問題の正体2 ゼレンスキーの闇を撃つ』(あすなろ社)、大西広氏の『ウクライナ戦争と分断される世界』(本の泉社)、遠藤誉氏の『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP研究所、特に第5章「バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛」)を挙げることができる。
いずれも国際教育・科学史、少数民族研究・経済学、中国研究といった異分野の論者による挑戦であり、塩原氏のようにロシア語・ウクライナ語の資料までは踏まえていないし、本書のような思想史的視点も含まないが、それぞれの専門性を生かした貴重な成果である。けれども同じく学問の連続性という観点から遺憾なのは、これらの著作にも、塩原氏の先駆的業績への言及が見当たらないことだ。
本書の出版をきっかけに、塩原氏の全業績を踏まえた上で、哲学・宗教学・心理学といった異分野の研究者も含めて、本来あるべき健全で活発な論争や対話が展開されるようになり、ウクライナ戦争という歴史的な出来事への理解が深まることを、期待してやまない。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/〕
〔opinion12596:221201〕
※この記事は、サイトちきゅう座(2022年12月1日)からの転載です。
原文はコチラ→書評 塩原俊彦『復讐としてのウクライナ戦争 戦争の政治哲学:それぞれの正義と復讐・報復・制裁』(社会評論社、2022年11月)―現状分析と思想史的考察を繋ぐ壮大な試み
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しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。ISF独立言論フォーラム会員。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文は、以下を参照。https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 mla-fshimazaki@alumni.u-tokyo.ac.jp