【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

ひろゆき氏とファン層の正体によらず、沖縄「捨て石」問題を訴え続けよう

小林蓮実

沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設への反対運動をさげすむ、ひろゆきこと西村博之氏の行動をご存じだろうか。

 

2022年10月3日、ひろゆき氏は辺野古の「座り込み抗議3011日」という看板の前でVサインを示しながら撮影された写真に「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」というコメントを添え、ツイッターに投稿。これに対し、インターネット上を中心に、賛否両論が巻き起こった。

筆者は怒りを感じ、「座り込み経験がないことはもちろん、沖縄に対して恥じ入ることすらない人間」の存在を目の当たりにし、イライラした。以降、この出来事に対する人々の反応を追っていたのだ。

直後は賛同する意見も多く見られ、ネットユーザーは浅はかだと感じざるを得なかった。その後、まずは「座り込み」の定義を示す投稿が相次ぐ。もともとアメリカの公民権運動においてとられたのがシット・イン戦術だ。労働者もシット・ダウン・ストライキを実行したことが背景にあり、座り込みとは24時間座り続けるというものでない。重要なのは、非暴力による抗議行動であり、なおかつ直接的な影響によって要求を示すということだ。

 

ちなみに、「辺野古への基地建設を許さない実行委員会」が用意する資料には、「1日3回の土砂搬入に合わせて、ゲートの前に簡易椅子を置いて座り込みます。搬入時以外はゲート前の近くにあるテントで各地から来た方と交流します」と明記されている。

本筋ではないが座り込みの定義を知ったネットユーザー、さらには辺野古への基地建設問題の本質を知った人たちは、手のひらを返す。よく理解していなかったことを謝罪するネット上の投稿すら増えていった。

同時に、ひろゆき氏に対する批判は増加していく。ツイッター上では「ひろゆき離れ」がトレンド入りするが、当のひろゆき氏は「離れている実感はなく、逆にツイッターのフォロワー数が増えて困ってます」と述べ、1カ月間で約14万人増えたとその数を示している。

並行して、後述するひろゆき氏自身の問題や、マスメディアの彼の多用を問題視する意見も増えていく。

今回の件に対する反応は、本稿執筆中の2022年10月下旬現在も続いている。これは一体、何を意味しているのだろうか。

“Muenster, Germany – May 23, 2011: The twitter website is displayed in web browser on a computer screen. Twitter is a social networking and microblogging service and enabling its users to send and read messages.”

 

・メディアの大罪とファン層の心理

そもそもひろゆき氏とはどのような人物か、確認しておこう。

1976年生まれの彼は、1999年、アメリカ留学中に、リンク集兼電子掲示板『あめぞうリンク』のサブチャンネルとして匿名掲示板『2ちゃんねる』を立ちあげた。『2ちゃんねる』は後に日本最大のインターネットコミュニティとなり、ひろゆき氏は東京プラス株式会社を設立、代表取締役に就任した。

2012年、警視庁は『2ちゃんねる』上の違法な情報を放置したとして、ひろゆき氏を麻薬特例法違反幇助の疑いで書類送検。東京地検は不起訴処分とした。また、ペーパーカンパニーともいわれるパケットモンスター社から受け取った収入のうち約1億円の申告漏れを指摘され、追徴課税として約3000万円を納付した。

『2ちゃんねる』へのユーザーの投稿のなかには、犯罪予告や脅迫、名誉毀損や誹謗中傷も多かった。ひろゆき氏は、これらの投稿削除に関連し、全国で民事訴訟を起こされ、多額の賠償債務を抱えている。

2007年の毎日新聞の報道によれば、賠償額は4000~5000万円だが、彼自身には1億円を超える年収があるようだ。しかし、原告=債権者に強制的な捜査権限がないために資産を調べることができず、裁判所による強制執行もかなっていない。

インターネットテレビであるABEMAの番組では、制裁金がふくらみ、「累積で30億くらいいったと思うんですけど、ただ10年経つと時効だからゼロになるんですよ。だから、ゼロなんですよ、今」とも口にしている。結果、損害賠償金の回収は、印税の差し押さえ程度でしか実現しなかった。

法に問題がある、無法地帯と化したサイトからは匿名となった人間のおそろしさが読み取れる、などとも考えられるかもしれない。ただし、2020年の民事執行法、財産開示手続の改正により、罰則は強化され、刑事罰が課されるようになった。いずれにせよ、「管理人」であるひろゆき氏が被害に対する責任を意識しながら管理していなかった、多くの被害者が泣き寝入りとなったということは確かだ。

その一方で、ひろゆき氏は政治にも関わっている。2021年、「デジタルの日」制定をめぐるロゴマーク制作について、政府に助言を行なった。2022年には、金融庁が資産形成に関する広報動画に起用している。

彼は差別的・排外主義的・歴史修正主義的な発言、そして誹謗中傷の嵐を放置。いわゆるネット右翼をある意味、育て、のさばらせてきた。

視聴率や人気を優先し、彼を重用するメディアや政治の責任は大きい。ひろゆき氏は、メディアによって「歯に衣着せぬ物言い」「論破王」などと伝えられ、「人気がある」「インフルエンサー(世間に与える影響力が大きい人)」ともいわれるが、彼自身は断言を意図的に「演出」している。

social media Concepts [color]

本来、プログラマーとして、もしくは実業家として以外の発言は、素人によるものと考えたほうがよい。それが視聴者の視点となっており親しみやすさとして評価されてもいる。内容は各業界の常識を根本から問うようなものでもある。彼の発言のすべてが誤っているとはいわないが、わかりやすくストレートな物言いに溜飲が下がる人も多くいる様子を目にし、危険性を感じるのだ。

調べたり自分の頭で考えたりしない、もしくはその時間を確保できない視聴者は、単純に影響されてしまう。結果、ひろゆき氏にはテレビメディアを介し、広く人々の態度を軽薄なものにしてきたという罪深さもある。今回の辺野古への揚げ足取り、不当な言いがかりに対するユーザーの反応もまた、揺らぎやすいものだった。

ひろゆき氏は徹底的に個人主義的だ。そして、快楽主義的な面からは心理的利己主義といえるし、「他人に被害があってもかまわない」という考え方からは倫理的利己主義ともいえる。ユーチューブなどでは、ある意味そのような生き方を広めてもいる。

おそらく自己責任論がまかり通りながらも、「失われた30年」がさらに延長しようとしている現在、金儲けと責任逃れにある程度成功しながらシニカルな発言を繰り返すひろゆき氏が、ある層にとっては魅力的に映ってしまっているのではないか。

ファン層は「現在の状況が自己責任といわれるのなら、どうにかして生き延びるしかない」、そのように感じているのではないだろうか。そして、人を敵に回したり法の抜け道を進みながら生き延びる術を「学んでいる」のではないか。また、若い世代を優先する彼の発言を、好意的に捉える人も多いだろう。

ちなみに最近、1990年代半ばから2010年代前半にかけて生まれたZ世代がマーケティングのターゲットとして注目されているが、彼らはインフルエンサーからの影響を受けやすいそうだ。博報堂の社内ベンチャーで調査・研究も行なっている丸山紘史氏は、「インフルエンサーの中でも、大人の顔色をうかがうことなく、自分の意見をいうオピニオンリーダーに支持が集まっています」と説明している。

『LINEリサーチ』の調査によれば、「いちばん信頼している/参考にしているインフルエンサー・有名人」として、人気ユーチューバーのHIKAKIN氏に次ぎ、ひろゆき氏が2位にランクイン。だが、彼は今回の辺野古の件しかり、ファン層に対してウケのよいコメントを発信する。だから、熟考し、覚悟のうえで抗議行動を継続している人にとっても、社会の問題を重く捉えている人にとっても、彼の発信は許しがたいものとなるのだ。

 

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小林蓮実 小林蓮実

フリーライター。沖縄については「紙の爆弾」2021年6月号に米軍北部訓練場跡地問題、11月号に県外からの機動隊派遣問題、12月号に森林伐採問題などを寄稿。 『現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『NONUKESvoice(現・季節)』『情況』『現代の理論』『都市問題』等に寄稿してきた。自然農の田畑を手がけ、稲の多年草化に挑戦。

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