【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

ひろゆき氏とファン層の正体によらず、沖縄「捨て石」問題を訴え続けよう

小林蓮実

・「彼が来たら、腹を割って話してみたい」

在日米軍海兵隊の普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設の問題について、沖縄県はウェブサイト上で強く訴えている。

 

〈戦後七五年余を経た現在もなお、国土面積の約0.6%しかない沖縄県に、全国の米軍専用施設面積の約7割が集中し続け、状況が改善されない中で、今後100年、200年も使われるであろう辺野古新基地ができることは、沖縄県に対し、過重な基地負担や基地負担の格差を固定化するものであり、到底容認できるものではありません。

沖縄は今日まで米軍基地のために土地を自ら提供したことは一度としてありません。戦後の米軍占領下、住民が収容所に隔離されている間に無断で集落や畑がつぶされ、日本独立後も武装兵らによる「銃剣とブルドーザー」で居住地などが強制接収されて、住民の意思とは関わりなく、米軍基地が次々と建設されました。

土地を奪って、今日まで住民に大きな苦しみを与えておきながら、基地が老朽化したから、世界一危険だから、普天間飛行場の移設は辺野古が唯一の解決策だからと沖縄に基地を押し付けるのは、理不尽です。

普天間飛行場の代替施設としての辺野古埋立てについては、平成31年2月の県民投票において投票者総数の7割以上という圧倒的な反対の民意が示されました。

県民の理解の得られない辺野古移設を強行することは地方自治や民主主義の観点から大きな問題があり、また、沖縄県は日米安全保障体制の必要性は理解していますが、県民の理解の得られない辺野古移設を強行することは、日米安全保障体制に大きな禍根を残すことになります〉。

このように真摯な思いで辺野古移設に反対する人々の抗議や反論に対し、ひろゆき氏は誠実に向き合うことをしない。ツイッターでも、「沖縄在住の方に『沖縄の今を見た方が良い』と言われて行きました。『沖縄、石垣島から自衛隊も米軍も出て行け』と歌う人。『安倍元首相の国葬を止めろ』と、既に終わった事を止めろと歌う人。おかしな人達が跋扈する事でまともな反対運動の参加者を減らす作戦なのかな?と思いました」などという。

冒頭に触れた10月3日のひろゆき氏の投稿に対し、沖縄大学学生自治会が「辺野古の座り込み行動は、工事のための車両が来る9時、12時、15時に合わせて行われます。なので、次の日も座り込みをするために、夕暮れごろには誰もいないということはよくあります。辺野古のことを真面目に考え、報道する姿勢がある人なら、こんな無責任な発言はできません」と引用ツイートをすると、 ひろゆき氏は「『9時、12時、15時しか居ません』と書いてくれないと、わからないですよ」などと返答している。

10月5日、玉城デニー知事は「現場で3000日余り抗議を続けてきた多くの方々に対する敬意は感じられない。残念だ」と語っている。

ところが同月7日には、ひろゆき氏はインターネット番組で、当該の掲示板について「誰かが書いた汚い文字」と発言した。

この掲示板は、琉球新報によれば、1974年10月、米兵に母・富子さんを殺害された名護市の金城武政さんが製作したもの。米兵は強盗を目的とし、富子さんの頭をブロックで殴った。報道では「米軍や日本政府から謝罪の言葉や詳細の説明もなく、悔しい思いをしたと伝えられており、金城さんは「自分のように米軍基地によって苦しめられた人が多くいる」と語っている。在日米軍は安保条約の下、日米地位協定や特別法令による特権が与えられているのだ。

American Village, Japan – September 17 2018: The Ryukyu Shimpo journal building in Naha City with the poster of Okinawan idol singer Namie Amuro for her last live

 

大田昌秀氏は知事時代、地位協定の見直しを要請し、その意思が玉城デニー知事にまで受け継がれている。

10月8日、ジャーナリストの有田芳生氏の事務所は、「この度のひろゆき氏の辺野古についての発言を受け、出版社から依頼されていた統一教会問題についての対談書籍をお断りすることにいたしました」と投稿。これに対し、フェイスブックなどには、安堵や高評価を示すコメントが並んだ。

それでも抗議行動に関し、ひろゆき氏は「長年続けて効果がないことが明確になっても関係者のプライドを守るために止められない」「論理的な反論が出来ない頭の悪い人は、気に食わない発言を『ヘイトスピーチ』と言ってみたり、『ネトウヨ』とレッテルを貼って反論した気になってますよね」などと返す。

11日に沖縄タイムスは、「RKB毎日放送(福岡市)の解説委員を務める神戸金史さんがラジオ番組で米軍基地の集中や沖縄戦、琉球王国時代の武力による併合などに触れ『ごめんなさい』と発言し反響を呼んでいる」と報道し、視点が拡大された。

「紙の爆弾」昨年11月号、12月号でも一部伝えたが、琉球は朝鮮出兵を目論む豊臣秀吉に軍役負担を要求され、琉球と関係の深い明との交易を求める徳川幕府には使節を派遣するよう要請され、それに応じなかったことで薩摩の従属国とされた。また、明治の琉球処分によって日本近代国家に組み込まれて滅亡。戦後も沖縄は、米軍統治の期間が長かった。

1952年の旧安保条約にもとづく刑事裁判権の改定交渉で、米軍関係者の犯罪に日本の刑事裁判権が及ばないようにする「密約」が合意されている。1953年の日米合同委員会裁判権小委員会で、日本側代表の津田実法務省総務課長(当時)は、「日本国にとって実質的に重要であると考えられる事件以外については」「裁判権を行使する第一次の権利を行使する意図を通常有しない旨述べることができる」と表明。以降、沖縄が長らく「捨て石」とされていることは、以前も述べた通りだ。

そして1972年5月15日には日米合同委員会が開催され、沖縄県における米軍基地の使用について合意が結ばれる。この合意の秘密文書は「5・15メモ」と呼ばれている。

2022年10月13日、沖縄タイムスでは、ひろゆき氏が批判する掲示板を製作した金城武政さんによる、「きれいに作り直してもいい」「彼が来たら、なぜ私たちが反対しているのか、彼が何を考えているのか、腹を割って話してみたい。こちらからは批判しようとは思わない」という言葉が紹介された。

その掲示板が19日、新調された。金城さんは9月頃より、新たな掲示板の製作を開始していた。掲示板には「新基地建設反対」「命宝(ぬちどぅたから)」「座り込み抗議」「不屈」「3027日目」の文字が並ぶ。「命どぅ宝」とは、琉球最後の国王・尚泰(しょうたい)の言葉で、沖縄県での一連の抗議行動におけるキーワードだ。

ひろゆき氏のツイッターのフォロワー数は約214万2000人。くだんのツイートは10月21日現在で4万6000リツイートされ、28万6000もの「いいね」がつけられた。ユーチューブのチャンネル登録者数は160万人だ。この影響力を過小評価することはできない。

沖縄の基地問題や差別に対する注目が集まる現在も、彼の論法に踊らされることなく、問題を訴え続けたい。

Okinawa Aerial View

 

(月刊「紙の爆弾」2022年12月号より)

 

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小林蓮実 小林蓮実

フリーライター。沖縄については「紙の爆弾」2021年6月号に米軍北部訓練場跡地問題、11月号に県外からの機動隊派遣問題、12月号に森林伐採問題などを寄稿。 『現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『NONUKESvoice(現・季節)』『情況』『現代の理論』『都市問題』等に寄稿してきた。自然農の田畑を手がけ、稲の多年草化に挑戦。

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