【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

全面施行でますます明らかになった土地規制法の違憲性や危険性

仲松正人

1.はじめに

政府は、2022年9月16日(以下、月日は2022年)、「重要施設の施設機能及び国境離島等の離島機能を阻害する土地等の利用の防止に関する基本方針」(以下「基本方針」)を閣議決定し、9月20日に土地規制法を全面施行した。

さらに、土地規制法運用の責任部局である政策統括官は、10月11日に開催された第2回土地等利用状況審議会に「注視区域及び特別注視区域の指定について」(以下「指定について」)及び関連資料を提出し、同審議会で審議・承認された。

「指定について」は、北海道、青森、東京、島根、長崎の5都道県の計58カ所を初回の区域指定候補地としている。なお、候補地に関する具体的区域図案は公表されていない。政府は今後上記の各候補地が所在する都道県及び市町村からの意見聴取を行い、年内にも区域指定をする方針である。

この基本方針の内容やその決定に至る経過、あるいは「指定について」などは、土地規制法の違憲性や危険性をますます明らかにするものである。

Imaginary Zoning Ordinance, General Urban Plan with indications of urban destinations with buildings, buildable areas, land plot and real estate land property – note: the map background is totally invented and does not represent any real place

 

2.基本方針

⑴政府は、7月26日に土地規制法で内閣に策定が義務づけられている基本方針の案を公表し、同日から8月24日までの30日間、意見募集(パブリックコメント)を行い、この期間に2,760件の意見が寄せられた。政府は、6月に行われた土地利用調査審議会において、基本方針案や政令案についてはパブリックコメントにかけそこで出てきた意見に対しては「回答をしっかりと返していくという形で(国民の方々と)コミュニケーションを取らせていただきたい」としていた。

しかし、このように多数の意見が寄せられたにもかかわらず、パブリックコメントで寄せられた意見は、概括的に、かつ賛成・反対の意見も同一項目にあげられて紹介され、簡単なコメントが付されただけであり、「回答をしっかりと返していく」ことにはなっていない。そして、基本方針案を一文字すらも変えずに原案どおりで決定した。このようにパブリックコメント実施は「形だけ」であり、この法律の非民主性を露わにした。

⑵ところで土地規制法は、基本方針においては区域指定の基準を明らかにし、調査事項の内容や調査方法を決め、機能阻害行為を具体化することを求めている。そもそも、これらの核心部分を法律で定めずに内閣総理大臣に委ねることは法律として根本的な欠陥であるが、これをひとまず置くとしても、基本方針は、以下述べるように、これらの内容を結局曖昧なままとし、内閣総理大臣や政府の恣意を許容するものとなっている。

⑶区域指定については、「機能阻害行為の兆候の把握が容易であるかどうかといった地域の特性」や「施設の周囲に指定される注視区域の面積の大部分が人口集中地区であること」「人口約20万人の市町村又は特別区の年間土地取引件数と同等以上の土地取引が行われている市町村又は特別区が存在すること」といった、曖昧で、政府与党の恣意が働く内容となっている。公明党が求めた防衛省本省がある市ヶ谷周辺を特別注視区域に指定しないための布石が打たれている。

⑷調査方法については、関係行政機関や関係地方公共団体に提出させる公簿は不動産登記簿を中心とするとしながらそれ以外の公簿収集の必要性判断の基準を明確にしていないし、それを超えて行う現地・現況調査について、その必要性についても、具体的内容についても明示しない。さらに、土地等の所有者や利用者その他の関係者に追加的調査を報告させる必要性の内容も規定していない。

⑸調査対象となる「その他の関係者」については、利用の実態を明らかにするために必要な者とだけ規定し、例示はあっても限定はない。家族や友人・知人については、そのことのみで調査対象とはならないとしながら、「土地等の利用者と共同で、対象となる土地等を利用して機能阻害行為を行っていると推認される場合」には対象となるとする。この「推認」はあくまでも調査をする側が行うものであり、どのような場合に推認されるか限定がなく、結局は調査対象の限定がない。

⑹調査項目については、関係行政機関から提供させるものとしては法にある「氏名(名称)、住所」以外に、「本籍(国籍)、生年月日、連絡先及び性別」とする。しかし、土地利用状況調査そのものについては限定がない。機能阻害行為が行われてから調査するのでは遅きに失するから、調査は機能阻害行為をするおそれがあるか否かを判断するために行うのが核心となる。

News headlines. It says “Personal information”.

 

しかし、住所氏名や本籍、生年月日、連絡先が明らかになってもそれは判断できない。利用者等の思想信条に及ぶ個人情報を収集し分析しなければ判断できないはずである。基本方針自身も、機能阻害行為に対する勧告を行う場合を土地等が機能阻害行為に供されている場合だけでなく「注視区域内にある土地等の利用者が、当該土地等を機能阻害行為の用に供する蓋然性が社会通念上相当程度高いと認められる場合」とし、「土地等の利用者が」と、利用者に着目しているのである。

基本方針は「注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者について、それらの者の思想・信条等に係る情報を含め、その土地等の利用には関連しない情報を収集することはない」とする。すなわち、最大の懸案である思想信条に及ぶ調査について、建前上それは行わないと言いながら、土地等利用状況調査のためであればそれを禁じていないのである。

⑺情報の受付体制(受付窓口の設置)の整備も危険である。そもそもこのような情報受付窓口は土地規制法には規定がない。政府は第1回土地等利用状況審議会においてこのような体制整備ついての法的根拠を問われ、法に規定がないから設置できると答えている。

しかし、ここで受け付ける(収集する)情報は土地等の利用者等の個人情報である。当該個人の同意もないのに個人情報が収集されることが、明確な法律の規定がないまま許されるはずがない。さらには、情報提供できる者には関係行政機関も含まれるという。

すなわち、警備公安警察などの有する思想信条を含む個人情報の提供が行われることになるし、関係行政機関の有する個人情報が法律に基づかないで「第三者提供」されるし「目的外使用」されることとなる。この制度は密告の奨励でもあり、極めて違法かつ危険な制度であると言わねばならない。

⑻ 機能阻害行為に関しては7つを例示するが、いずれも現行法で対応可能であるし、そもそもこれらの例示に該当しなくても機能阻害行為となる場合があるとか、これらの例示に形式的に該当しても機能阻害行為とはならない場合があるなどと明言するなど、結局、機能阻害行為を具体的に明らかにすることはない。

Question Mark, Asking, Q and A, No People, Blackboard – Visual Aid

 

また、わざわざ「機能阻害行為には該当するとは考えられない行為」を5つ例示している。そもそも、人の行動は無限定であり、全てを網羅することは不可能である。であるから、法は許される行為を示すのではなく、禁じる行為を明示するのである。禁じられた行為以外の行為は許される。罪刑法定主義が罪となるべき行為を明示するのも、こうした根本的な原理に基づくものである。それなのに基本方針はあえて該当しない行為を例示した。逆に言えば、該当しない行為ではない行為を行えば機能阻害行為に問われる可能性があるということである。

例えば、例示の1番目は「施設の敷地内を見ることが可能な住宅への居住」とあるが、単なる居住目的ではなく施設の敷地内を見れば(例えば、基地内が見える住宅等から継続的に監視すれば)機能阻害行為とされることになりうるのである。

 

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仲松正人 仲松正人

那覇市出身 那覇高校・名古屋大学卒。1986年弁護士登録(名古屋法律事務所)、1991年岐阜合同法律事務所に移籍、2014年度岐阜県弁護士会会長、2016年2月沖縄弁護士会に移籍し仲松正人法律事務所開設 労働事件(労働者側)を多く手がける。辺野古ドローン規制法対策弁護団 土地規制法の廃止を求める沖縄県民有志の会共同代表、土地規制法廃止アクション事務局、自由法曹団、日本労働弁護団

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