全面施行でますます明らかになった土地規制法の違憲性や危険性
安保・基地問題3.「指定について」
⑴ 最初の候補地は、無人の国境離島を中心にし、付近に防衛施設などがある対馬や五島の区域なども対象としている。
無人の国境離島をまず候補地とした理由は、①国境としての重要性が極めて高い、②無人のため人の目が行き届きにくく、現地現況の把握が困難、③全島指定のため区域の外縁が明確という状況にあるとしている(①②③は筆者が付した)。
ただし、無人の国境離島全島が候補地とされたわけではない。政府によれば無人の国境離島は40島あり、国会答弁では区域指定の必要性・緊急性が高いとされていたが、初回指定候補はそのうち19島にすぎず、しかもなぜこれら19島が最初の候補地にされたのかの理由は示されていない。
そこでこれらの島々を見てみると、殆どが北海道や本州、あるいは対馬の海岸線から沖合500m前後以内に存在する島である。領海は基線から最大12海里(約22㎞)であり、排他的経済水域(Exclusive Economic Zone:EEZ)は最大200海里(約370㎞)である。500m程度の違いが領海やEEZにどれほどの影響を与えるのか疑問があるが、少なくともこれは低潮線保全法で保護されている。
また、低潮線の形質に影響を及ぼすような行為は人力では到底無理であり、大規模な機械装置や爆発物などを運び込んだり設置したりすることが必要であろうが、これらを準備する行為は、陸地から500m程度離れていても視認可能であろう。そして、今回初回指定候補地とされたこれらの島々周辺は、隣国との間で領有権問題や国境問題を抱えていない。
このように、初回の候補地とされている国境離島は、上記の①や②の必要性があるとは考えられない。このようなことを考えていくと、土地規制法が重要施設周辺だけでなく国境離島も対象としたことに改めて強い疑念を抱かせるのである。
なお、初回候補地となった国境無人島のうち土地規制法の危険な目的を推認させる島が存在する。青森県大間町沖の津軽海峡内に存在する弁天島である。弁天島は大間崎の沖合約600mにある。
津軽海峡は特定海域の一つであり、中ロの艦船が通過して話題となった。弁天島は特定海峡の範囲を画す位置にはあろう。しかし、弁天島は平坦な島であり、中央には大間崎灯台が設置されているから、「人の目が届きにくい島」ではない。他方、大間崎では現在大間原発の建設が進められ、地元や対岸の函館市では建設反対運動が闘われている。つまり、原発反対運動の関係で弁天島の所有者を調査する目的があるのではないかと推測されるのである。
⑵「指定について」は、今後のスケジュールとして、10月12日以降関係地方公共団体(5都道県、10市町)へ区域図案を送付し、11月下旬までには意見聴取結果を整理するとしている。この原稿執筆時の11月末では既に意見聴取は終了し、整理が済んでいる。
法案審議において小此木八郎大臣(当時)は、「本法案に基づく措置を実施するに当たり、地域住民に身近な地方公共団体の理解、協力を得ていくことは重要なことだと考えております。このため、区域指定を行う前には、十分な時間的余裕を持って、関係する地方公共団体としっかり意見交換を行っていく考えであります」と答弁した。
しかし政府は、地方公共団体からは区域の外縁に河川や開発区域があるか否かの情報の聴取をするのみとして意見を聴くつもりはないし、期間も1か月程度しかない。国会での大臣答弁も無視することが行われているのである。
⑶そもそも、初回指定候補地に沖縄県内の離島や区域が入っていないことの意味を考えなければならない。私有地がある無人の国境離島という点からすれば、沖縄県には尖閣諸島の久場島や沖大東島があるが、これらは初回区域指定候補地とはなっていない。
土地規制法は、安全保障に重大な懸念が生じるのを防止するということを最大の根拠として、衆参両院で合計26時間という極めて短時間で成立が強行された。であれば、最初の区域指定の候補も、安全保障上緊迫した施設周辺や離島であるべきであったはずである。
この観点からすれば、軍事要塞化が進められている南西諸島、とりわけ沖縄県内が最初に指定の対象となることが予想された。海上保安庁の施設についても、尖閣諸島周辺の海域における領海警備を担当している第11管区海上保安本部及び石垣海上保安部の2施設の周辺を対象区域として指定する必要性、緊急性が高いと答弁されている。
ところが以上のように、今回最初の候補とされた内容を見ると、あえて沖縄県の区域を避けており、土地規制法の成立を急いだ政府の要請には沿っていないと言わなければならない。
土地規制法は、市民・住民の基本的人権を侵害し、罪刑法定主義にも違反する悪法であり、各地で反対の声があげられ、基本方針案に対する批判的意見も多数寄せられた。
そこで政府は、法律施行に対する批判が高まるのを避けるため、調査対象となる者が極めて少数にとどまる無人の国境離島で、あるいは振興策を講じられていわば国からの恩恵を受けている有人国境離島で、まず指定をし、施行に対する批判を最小限に留めようとしたとしか考えられない。
すなわち、まずは反対が起こらないところから指定していって、市民を土地規制法に「慣らし」ていき、沖縄だけでなく重要な基地を抱える地域の反対運動がやりにくくなるように外堀を埋めていく戦略であると考えられる。
今回の初回指定は、以上のように極めて政治的な思惑に基づくものであって、到底容認できないものである。
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那覇市出身 那覇高校・名古屋大学卒。1986年弁護士登録(名古屋法律事務所)、1991年岐阜合同法律事務所に移籍、2014年度岐阜県弁護士会会長、2016年2月沖縄弁護士会に移籍し仲松正人法律事務所開設 労働事件(労働者側)を多く手がける。辺野古ドローン規制法対策弁護団 土地規制法の廃止を求める沖縄県民有志の会共同代表、土地規制法廃止アクション事務局、自由法曹団、日本労働弁護団