第3回 足利事件③:容疑者リストから外され、後にルパンと呼ばれた男性
メディア批評&事件検証男性が真実ちゃんと会ったのが2度目だというその日は、彼女が事件に遭った5月12日だ。男性は以下のように供述していた。
二回目に真実ちゃんと会ったのは昨年五月十二日午後六時三〇分ころを挟んで二回見ております。一部省略。(自分がロッキーまで歩いて来た道順を示し)真実ちゃんが一人で遊んでいた位置で、出入口外側にたち鏡のようなガラスの前に行き、スカートを自分のオッパイ付近まで捲(まく)り、その姿を写したりして遊んでいた位置です。
ここでは、私が真実ちゃんにあれ、今日も来てるの、何時まで居るの等と話し掛けたところ、真実ちゃんは何と言ったか忘れてしまったのですが、随分遅くまで居る様な返事だったので私が冗談でここに泊っていったら等と話したのですが、人なつこい感じで、私の言っているよく判るのかハキハキした子でした。
話し始めて二~三分位経ったころ、年齢二〇歳位で、丸顔でちょっとかわいい感じで、一見おとなしそうな「ロッキー」のカウンターの女性店員が真実ちゃんの脇を通りがかりバイバイと手を振って丸山食堂の方へ歩いて行ったのです。
(中略)
(「ロッキー」のカウンターの)女の子が真実ちゃんにバイバイと言って分かれた後も真実ちゃんと二言位話した後、真実ちゃんが南側道路の方へ歩き出し、道路を渡りそうな感じだったので、車が来るかどうか確認してやり、車が来なかったので、真実ちゃんが道路を横断し始めたので自分もロッキー内に入ったのです。
その時つまり真実ちゃんと私が話をしていた時回りには、誰がいたか、全く気に掛けておりませんでしたから周囲のことは判りませんでした。
私は店内に入り打ち止めとなった平台のところを一回りし、開放時間を待つため店内南側休憩所のカウンターに座り四つか五つあったスポーツ新聞を見始めたのです。
この時再び真実ちゃんがロッキー出入り口の所に戻ってきており、様子を見ていると首を傾げたり、スカートを捲り上げたりしていたのです。多分この時も自分の姿を鏡かなんかに写していたのだと思います。
(中略)
その後スポーツ新聞を一応一通り目を通したのですが、いつの段階か真実ちゃんが居なくなってしまったのです。省略。午後七時三〇分頃店を出て帰ってきたのです。
最後に男性はこのように供述していた。そこで同調書は終わっている。
真実ちゃんを殺した犯人が捕まったことは、ほんとうによかったと思っています。群馬県大泉警察署において事情聴取を受けた最後の日に刑事さんからこれで終わりだよと言われ、グーと気持ちは楽になったのですが、それでも気持ちが晴ればれとせず、不安だったのです。がほんとうに有難うございました。犯人については厳重処罰をしてもらいたいです。
調書の末尾には、足利署の取調室で殺人容疑で逮捕され、調べを受けている菅家さんの姿をこの男性は参考人室から透視鏡で面通ししていたことが記されていた。
なぜこの男性が無罪放免になったのかは語るまでもないだろう。欠陥だらけのDNA型鑑定の出現で、菅家さんが犯人と否応なしに決めつけられてしまったからだ。
しかし、この男性については、控訴審段階からフリーライターの小林篤さん、2007年夏から日本テレビ報道局社会部の清水潔記者が足利事件が冤罪となる前から「ルパン」というあだ名を付けて犯人視した報道を展開することになる。
栃木と群馬の県境では、足利事件を含め、1979年から96年までの間に5件の未解決事件が起きていて、同一犯の見方が強まった。
しかし、足利事件を含む先の4事件は既に時効が成立し、さらに2010年の刑事訴訟法の改正によって時効が撤廃された現在、96年の横山ゆかりちゃん行方不明事件だけは捜査が継続している。
法医学者から警察のDNA型鑑定の欠陥を指摘されながら、それを当の警察が無視し続けて作り上げた冤罪は、真犯人に「逮捕されない」という特典を与えてしまった。その殺人犯は、人々が生活するすぐ傍にいる。
連載「鑑定漂流-DNA型鑑定独占は冤罪の罠-」(毎週火曜日掲載)
https://isfweb.org/series/【連載】鑑定漂流ーdna型鑑定独占は冤罪の罠ー(/
(梶山天)
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独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。