岡田充氏講演録まとめ(その1):台湾有事、作られた危機―加速する戦争シナリオ―
安保・基地問題この講演録は、2022年6月26日に「ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会」主催の講演会(開催場所:那覇教育福祉会館)で岡田充氏が行った基調講演の内容です。この度、岡田さんの了解を得てテープ起こしをしました。
本稿の目的は、多くの方々と「戦争シナリオ」が急速に猛烈な勢いで進行している事態を多くの人々と共有したいと思ったからです。特に沖縄および琉球列島を緊張の真っただ中に放り込んでいます。しかし、本土の皆様は安穏としておられるのか、沖縄との温度差を大きく感じています。
今こそ全国の市民・住民が「政府による戦争への道」を止めないといけません。それにもかかわらず、「被害は沖縄だからいいさ」といった潜在的差別意識に支えられ、またネトウヨによって沖縄の人々の命の軽視される事態となっています。
それらの背景には、日米による中国敵視政策に煽られて「台湾有事は日本の有事」だから南西諸島を軍事要塞化して日本国土を守るのだという意識が存在する。つまり、国家存立のためには沖縄を「楯」にして犠牲にしても構わない、という考えが見受けられます。
また戦争に備えるためには「増税も」「軍拡」もやむをえないし、安保関連三文書も「良い政策だ」と言わんばかりに抵抗しない国民がいます。その一方で、それらの政策に反対する人々もおられますが、国家の戦争政策に対しては心の中で思うだけで行動を起こさないのでは事足りません。抗って止める行動をすること、声を上げる人々を増やしていかねばなりません。
岡田さんの肉声にこだわって講演録をまとめしたので、どうぞご活用下さい。本稿では7回に分けて発表させていただきます。
岡田充(たかし):プロフィール:
慶応大学法学部卒業後、共同通信社入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員兼論説委員を経て2008~2022年まで客員論説委員、主著書に『中国と台湾―対立と共存の両岸関係』(講談社現代新書、2003年)、共著『虚構の新冷戦日米軍事一体と敵基地攻撃論』(芙蓉書房出版、2020年)。Webの「岡田充の海峡両岸論」(https://okadakaikyouryouganron.weebly.com/)を毎月更新。東アジアの外交・安保問題で論陣を張る。
【はじめに】
「南西諸島有事を勃発させないために」、本日は「軍事大国化とミサイル要塞化―「台湾有事」を煽る狙いについてお話したいと思います。
日米政権とメディアは「台湾有事」を煽っています。「有事」とは中国の台湾侵攻が前提となって作られた危機です。主な要点は以下の4つです。
1番目に、米国の中国・台湾政策があります。なぜ、アメリカはこの危機を作ろうとしているのかを知る必要があります。
2番目に、それに沿って、2021年3月から4月にかけて開かれ「日米外務・防衛閣僚会議(2プラス2)」、同年4月の菅義偉前首相とバイデン大統領による日米首脳会談で確認された「日米同盟の強化」、つまり日米同盟強化の路線があります。
3番目に、果たして中国は本当に台湾に武力行使をしようとしているのか。それを中国の大きな戦略から明らかにしたい。つまり中国の台湾政策について述べたいと思います。
4番目に、「命どぅ宝」(命こそ宝)にとって重要なテーマとして、この戦争シナリオが進行する中で、われわれはどういう選択をするべきかについてお話したい。
【米国の挑発と受身の中国】
台湾の防空識別圏について説明したい。
今、台湾海峡で起きていることを簡単に説明します。これは台湾の国防省が作成した図で、台湾(中華民国)を囲む四角い大きな枠が台湾の防空識別圏(ADIZ)です。見て分かるように中国大陸にも大きく張り出しています。
ここには中国の福建省、北に浙江省、西に江西省の一部が含まれています。中国の戦闘機がこの台湾の防空識別圏に入ったとたん、台湾空軍は領空に侵入しないようにスクランブル(緊急発進)をする。
だが中国大陸にも張り出しているため、台湾対岸の福建省、浙江省などにある中国軍基地から中国軍機が飛び立ったとたんにスクランブルがおこなわれるという不思議な線でもあります。防空識別圏は領空や、領域に基づく排他的経済水域(EEZ)とは一切関係なく、国際法の定めもありません。
ところが台湾国防部は、米中関係が緊張した2年前から毎日のように「中共の戦闘機がわが防空識別圏に進入した」と発表するようになりました。地図を見ても分かるように進入しているのは防空識別圏ギリギリの場所(地図内の赤い矢印)です。これが「台湾の空域を侵した」という説明になっています。
中国大陸にまで張り出している台湾防空識別圏は、1952年、日本が沖縄を切り離して独立したサンフランシスコ講和条約が結ばれた年に米軍が引いたものです。
当時、まだ米国と中華民国(現・台湾)には国交があり、同盟関係にありました。したがって中国軍の侵入を阻止するために米軍が引いたわけです。台湾はいまだにアメリカが引いたこの防空識別圏に沿って、中国空軍の行動に対する対応計画を進めています。
2年ほど前から騒がれている台湾海峡周辺の緊張というのは、まさにこの防空識別圏に中国機が入るたびに問題になり、これが「中国軍による明らかな台湾に対する脅しだ」「台湾海峡の緊張が激化している」という状況の説明に使われています。
この中国軍の台湾防空識別圏への侵入は、米国の閣僚級高官が台湾訪問したり、意識的に米軍艦船が定期的に(月1回ペース)台湾海峡を通過したり、米国の台湾への大量の武器売却など、米国による台湾海峡両岸の「現状変更」に対する中国側の「報復」であると私は理解しています。
【その1についての宮城の感想】
日本のメディアは、2022年12月末にも宮古島と沖縄本島の間の空域を中国製ドローン(ないしは無人機)が飛行したと批判的にアナウンスしていました。またよく中国機に対してスクランブル発信を行ったという情報も聞こえてきます。
しかし、それらは本当に国際法違反なのだろうか。権威のあるNHKなどがそれを言うといかにも、中国が悪いことをしているかのようなイメージを一般の日本人は持ちます。
ほとんどの人は国際法の空域のルールがどうなっているか知りません。基本的に領空は公のものであり、領海も公海というように全ての国に開かれているのであり、米国が軍事上でラインを設けていることこそ、異常な事態ではないでしょうか。
今回の岡田さんの説明にある「台湾防空識別圏」というラインは、米軍が線引きしたにすぎないということです。線は中国国内にまで引かれています。国際法の根拠規定は存在しないとのことです。米軍の戦略上の線だということです。
私たちはあたかも、ルールが存在すると思わされていて、そのルールを守ることを是だとされていますが、是と認識しているルール自体にまで、疑ってみることの大切さを教えて下さっていると思います。
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独立言論フォーラム・理事。那覇市出身、(財)雇用開発推進機構勤務時は『沖縄産業雇用白書』の執筆・監修に携わり、後、琉球大学准教授(雇用環境論・平和論等)に就く。退職後、那覇市議会議員を務め、現在、沖縄市民連絡会共同世話人で、市民運動には金武湾反CTS闘争以来継続参加。著書は『若者の未來をひらく』(なんよう文庫2005年)、『沖縄のエコツーリズムの可能性』(なんよう文庫2006年)等がある。