岡田充氏講演録まとめ(その4):日米共同作戦計画をめぐるスクープについて
安保・基地問題1.「日米2プラス2」で共同作戦計画を承認
2022年1月7日の「日米2プラス2」では、「日米共同計画作業(日米共同作戦計画)の確固とした進展を歓迎する」と共同記者会見で発表しました。
同作業は「台湾有事」の初期段階で、米海兵隊が自衛隊とともに、沖縄などの南西諸島に臨時の拠点基地を機動的に設置し、中国艦船の航行を阻止する日米の共同軍事作戦計画のことです。
2021年3月の「日米2プラス2」では、中国の動向について、「安定を損ねる行動に反対する」としましたが、2022年1月の「日米2プラス2」においては「(日米が)かつてなく統合された形で対応するために戦略を完全に整合し、安定を損なう行動を抑止して必要であれば対処のための協力する」とまで踏み込んでいます。岸田文雄首相はこの表現が大好きで、その後も「対処のための協力」との表現を幾度となくくり返しています。
2.日米共同移動拠点の設置
共同通信の石井暁記者(専任編集委員)が2021年12月23日、「共同作戦計画」の原案に関するスクープを報じました。
石井記者のスクープの要点は以下の4点です。
第1に、中国と米台の間で戦闘が起きた場合、日本政府は日本の平和と安全に影響が出るとみなし、「重要影響事態」の認定をする。
第2に、台湾有事の初期段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら、鹿児島から沖縄の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点配置する。候補地として、陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美大島、宮古島、配備予定の石垣島を含め約40カ所の有人島を指定しました。
第3に、米軍は対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」をこれらの攻撃用軍事拠点に配備します。「ハイマース」はウクライナ軍が欧米に配備を要請している兵器です。
そして、アメリカのアーミテージ元国務副長官の前述の発言も、日米共同計画作業を念頭においたものと考えるべきです。だからこそ、今後沖縄に配備される米軍関係の弾薬、兵器の一部は「台湾有事向け」ということを頭に入れておく必要があります。
具体的に何をやるのか。自衛隊に輸送や弾薬提供、燃料補給などの」後方支援を担わせて、空母が展開できるよう中国艦艇の排除に当たるもので、事実上の海上封鎖です。
第4に、同計画は台湾本島の防衛ではなく、あくまでも部隊の小規模・分散展開を中心とする新たな海兵隊の運用指針「遠征前方基地作戦(EABO)」に基づくものです。
シナリオ通りに計画が展開されれば、有人島40か所が中国軍のミサイル攻撃の標的になることから、住民が戦闘に巻き込まれる事態は避けられません。まさに「戦争シナリオ」です。戦争の準備が、戦争の放棄を謳う日本国憲法の理念に合致するのでしょうか。
22年7月の参院選では立憲民主党幹部でさえ「台湾有事が起きれば、当然日本が中国の攻撃対象になる。だから日本は一定程度の軍事力を強化すべきだ」と発言していました。まさにこれが台湾有事の最大の落とし穴です。
「台湾有事が起きることを前提に軍事力を強化し、対中軍事抑止と対応力を強化しなければならない」というのが岸田政権の言い分なのに、それに野党第1党が同調する発言をしてどうするのかと思います。
制服組が「最悪のシナリオを想定し、作戦を練るのは当然ではないか」という議論もあります。確かにその通りですが、日本には70数年にわたって、専守防衛(相手から武力攻撃を受けたときに限り防衛力を行使するという原則)という精神があります。このような戦争シナリオを議論もなく、わずか1年足らずで完成するのは、明らかな憲法違反と言えます。
2.安保法制の3類型
防衛省などは、2015年の安保法制によって集団的自衛権の行使が可能になったことを受け、「台湾有事」に備えた危機態様の法的検討を進めてきました。その内容を見ると、①日本の直接武力攻撃に至る恐れがある「重要影響事態」、②米軍艦艇や航空機を守る「存立危機事態」、③日本防衛のため必要最小限の「武力攻撃事態」が列挙されています。
各事態ごとの自衛隊の役割は、重要影響事態では、米軍などへの後方支援、存立危機事態では、米軍艦の防護など集団的自衛権を行使、武力攻撃事態では、日本防衛の為必要最小限度の武力行使などが想定されています。
こうしてみると安保法制は、台湾海峡危機に向け日米の軍事一体化を具現化するためだったことが透けてみえます。
【その4についての宮城の感想】
石井暁記者のスクープ記事をめぐって、「ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会」では22年9月25、石井さんに基調講演をお願いしました。基調講演の内容は『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』に収録してありますので、お買い求めください。
さて、日本の防衛予算をいかに増額させるのか。国民の実質賃金が30年以上も横ばい低迷の中にあって、若者の貧困が蔓延していようが、コロナがあろうが、まずは防衛費を増額して武力で対抗する体制を固めることこそが日本の生きる道だと信じさせるために、アメリカの戦争シナリオは作られているのです。
まさに金融ウォール街・国際金融資本主義者、あるいは産軍複合体、武器商人らの思う壺です。日本の政治家も官僚も「その気」(戦争・中国危険)にさせて日本国民の税金を巻き上げる仕組みが進んでいます。
孫崎享氏の著書『平和を創る道の探求―ウクライナ危機の「糾弾」「制裁」を超えて』より次の文章を引用しておきます(p11)。
「アメリカの大統領にアイゼンハワーがいます。アイゼンハワーは第二次大戦中、連合国遠征軍最高司令部最高司令官を務めて米国で最も高く評価されている軍人です。彼は大統領を去る時、離任演説で次の様に述べています。莫大な軍事組織と巨大な軍需産業との結びつきはアメリカの経験の中で新しいものである。・我々は軍産複合体による不当な影響力の獲得から守らなければなりません」。
現在、巨大な軍需・製造業者たちはウクライナの戦場に兵器を送り続けており、「停戦」に向かおうとしていません。あたかも米国の兵器実験場のような殺戮の嵐になっています。
米国はウクライナに巨額な支援を行っています。米国の軍需産業界は稼ぐチャンスを喪失したくないのだと思います。決してウクライナ人の命を守為に武器支援しているのではありません。停戦こそがウクライナ人・ロシア人の命を助ける道だと考えます。
〇ISF主催公開シンポジウムのお知らせ(2023年1月28日):(旧)統一教会と日本政治の闇を問う〜自民党は統一教会との関係を断ち切れるのか
〇ISF主催トーク茶話会(2023年1月29日):菱山南帆子さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
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独立言論フォーラム・理事。那覇市出身、(財)雇用開発推進機構勤務時は『沖縄産業雇用白書』の執筆・監修に携わり、後、琉球大学准教授(雇用環境論・平和論等)に就く。退職後、那覇市議会議員を務め、現在、沖縄市民連絡会共同世話人で、市民運動には金武湾反CTS闘争以来継続参加。著書は『若者の未來をひらく』(なんよう文庫2005年)、『沖縄のエコツーリズムの可能性』(なんよう文庫2006年)等がある。